運び屋(2018)

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原題は「THE MULE 」「MULE」とは荷物を運ぶ「ラバ」のこと


第二次世界大戦でブロンズ・スター・メダルを授与された軍人で

退役後はデイリリー栽培の達人として知られる園芸家

2009年から2011年までシナロア・カルテルの運び屋を務めた

レオ・シャープ(Leo Sharp 201692歳没)がモデル

愛称はスペイン語で「エル・タタ」(おじいちゃん)


意外と最近の話なんですね(笑)

    合計1,400ポンド以上の麻薬を運んだことを認めたレオ・シャープは

運び屋をした理由を

「デイリリーと同じようにコカインは人々を幸せにする植物だから」

と答えたそうです

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反省の色がないのも、本人にとっては納得の最期を迎えるのも

イーストウッドそのもののハマリ役で

これがイーストウッドの遺作になるのではないかと

思ってしまう(縁起でもない)


そして大概のイーストウッド作品と同じように何の捻りもない(笑)

ラストまで、シンプルでストレート

しかもイーストウッド個人としての存在感のほうがとてつもなくでかいのに

しっかり役を演じきるのは、神憑りとしか言えない

デイリリーの栽培と品評会に明け暮れ、家族とは疎遠

娘の結婚式さえ忘てしまうアール・ストーン(クリント・イーストウッド

そのせいで娘から嫌われてしまい、18

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農家はネット経由で種子を購入するようになり

デジタルに適応できなかったアールの農場は差し押さえられてしまいます

孫娘の婚約パーティに行くと、元妻は喧嘩腰で

孫娘の結婚式の費用は出す約束だったと詰め寄られる

それを聞いた新郎の知り合いだという若い男が

「運転するだけで金になる仕事がある」と声を掛けてきます

 

おんぼろのフォードのトラックに乗り

約束の場所から場所へ大きな鞄を運ぶ、それだけで大金が手に入るのです

1回目は孫娘の結婚式のため

2回目は差し押さえられた農場を取り戻すため

3回目は退役軍人会の仲間のため

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車はボロのトラックから黒のリンカーン・マークLTになり

(他の車が日本車なのは日本のファンへのサービスか、皮肉か)

鞄の中身がコカインと知ったあとも気にしない(笑)

鼻歌を歌い、モーテルに娼婦を呼び、ジャンクフードを食べる

不謹慎なことこそが、健康の秘訣(笑)

 

パンクで困っている黒人カップルを「ニグロ」と呼び

「今はブラックと言うのよ」とたしなめられ

(でもタイヤ交換の仕方は教える)

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警察に車を停められれば、メキシコ人を「賃金が安いから雇ってる」だの

簡単に荷台を見せて「ポップコーンだ、お土産に持っていけ」と

しゃあしゃあと嘘をつく(笑)

 

カルテルの若造たちはアールを「タタ」(おじいちゃん)と慕うようになり

メキシコのボスから接待を受けるようにまでなります

 

年齢、性別、国籍や人種を超えた、チームワークとコミュニケーション

そして共感

それは映画を製作するうえでも同じなのでしょう

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麻薬取締捜査官コリン・ベイツ ブラッドリー・クーパー)は

カルテルのひとりを密告者に雇い、彼の情報から

黒いピックアップトラック”に乗る凄腕の”運び屋”

「トト」の泊まっているモーテルを張り込みます

 

そこでもアールは平然としていて

騒いでいる男がいるとベイツ捜査官に苦情を言ったり

朝のダイナーではスマホで弁明しているベイツ捜査官に

「記念日を忘れたらだめだ」「女にとって記念日は大切」と説教する

(浮気と婚外子作りの達人の格言には説得力がある 笑)

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しかしメキシコのボスが仲間に殺され、新しいボスは融通が利かず

暴力で部下を支配できると思っているバカ

元ボスの死体を見せ、ピストルで脅し

90の爺に休憩もさせず、一度に大量のコカインを運ばせようとします

そんな命がけの仕事の最中、孫娘から電話が入り

元妻のメアリーダイアン・ウィースト)が危篤だと知らされます

ただひとり自分の味方でいてくれた、孫娘の涙ながらの訴えに

人生で初めて心が動いた

仕事より家族を選んだ瞬間

 

この時のダイアン・ウィースト に寄り添うイーストウッドがいい

いつものしわがれ声ではなく彼本来の丸みのある喋り方とやさしい表情

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いい年して若い女と遊んでいても

心から本気で愛することができたのは、やっぱり最初の女で

長い年月一緒だったら嘘が通用しないことも知っている

 

娘役は実娘のアリソン・イーストウッド

イーストウッドの人生を投影しているようにさえ思えます

身勝手で、頑固で、浮気者

仕事はできるけれど、妻と娘に頭が上がらない(笑)

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元妻の葬儀が終わり、1週間以上遅れ仕事を再開するアール

しかしアールの動きは密告者によって全て警察に把握され

カルテルの電話は盗聴されていました

 

アールは罪を認め実刑判決を受けます

そして刑務所内の庭で花を育てるアールの姿

結局こういう男は、どこにいても自分のスタイルを変えない

 

刑務所に若い女がいないことだけが

彼にとっては一番の罰になったかもしれません(笑)

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【解説】allcinema より


巨匠クリント・イーストウッドが「グラン・トリノ」以来となる監督・主演で贈る実録犯罪ドラマ。大量の麻薬の運び屋として逮捕されたのは、著名な園芸家でもあった孤独な老人だったという前代未聞の実話をモチーフに、仕事一筋だった主人公が、思いがけずメキシコの麻薬組織に雇われ、運び屋という危険な犯罪に手を染めたことで、いつしか自らの人生と改めて向き合わざるを得なくなるさまを、長年顧みてこなかった家族との関係とともに、ユーモラスなタッチを織り交ぜ描き出す。共演はブラッドリー・クーパーアンディ・ガルシアダイアン・ウィースト
 退役軍人のアール・ストーンはデイリリーというユリの栽培に情熱を燃やし、園芸の世界では一目置かれる存在だったが、その代償として家族をないがしろにしてしまい、90歳になろうとする今は家族との間に埋めがたい溝を抱え、孤独な日々を送っていた。やがて農園の経営も行き詰まり途方暮れるアール。そんな時、“車の運転をするだけで大金がもらえる”という仕事を紹介される。最初は荷物の中身を知らずに運んでいたアールだったが、ほどなくそれが大量のドラッグであることに気づく。それでも90歳の老人が疑われることはほとんどなく、順調に仕事をこなしていくアールだったが…。