「この国自体が売春婦みたいなもの」
原題は「Три дена во септември」
英題は「Three Days in September 」( 9月の3日間)
アルバニア、セルビア、モンテネグロ、ギリシャで一部使われており
またどちらの国も、支配者が入れ替わったり
外部からの支配を受け続けたり
長い長い長いあいだ戦争や内戦やテロに苦しめられ
多くの悲劇を生み続けた国
(だから国籍”パスポート”や戸籍が曖昧でも気付かれないのかも)
クロアチア難民女性を描いた「あなたになら言える秘密のこと」(2005)
でもでしたが、こういう国ではレイプや拷問が横行したり
家族を失い売春するしか生きていけない女性が
現在でも多くいるかも知れません
BMWの男の車に誘われた、夜の女マリカ
男は(マフィアに雇われた?)借金の取り立て屋で
暴行されたマリカは睡眠スプレーを使い、男のナイフを奪い男を刺し
逃げ込んだ列車で個室の女性に相席していいかと尋ねる
ほぼ下着姿で誰がどう見ても売春婦だとわかるマリカに
同じ年頃のヤナと名乗る女性はまあまあ親切で
(お国柄か顔はどちらも不愛想)
寝ているマリカに自分のカーディガンを掛け故郷の駅で下車します
雑貨屋で必需品を買い、店の主人の息子で幼馴染のガンツのことを聞く
ヤナの(すでに死んでいる)父親は町の名士で
父が推薦してくれたおかげでガンツは警察官になれたと
しかし村には男が十数人残っているだけで
唯一残っているのは女は90歳のばあさんひとりだけだと言います
ヤナが空き家になっている実家に向かっていると
後からマリカが追いかけていました
マリカはヤナにどうか一晩だけ泊めてくれという
こういう国の女同士にしかわからない、女性の困っている立場
ヤナはマリカに服と食事と寝床を与えます
二日目、幼馴染の警察官ガントがヤナに会いに来る
ヤナとヤナの双子の(結婚して海外で暮らしているという)
妹クリスティーナが父親から相続したホテルを
高値で(売春宿にするため)買いたいと言う人がいるという
ヤナはクリスティーナに相談してみるといいます
マリカは雨宿りのため立ち寄った老婆(唯一残っている女)から
「男は勃起する」けど女には害がないハーブティなような飲み物をもらい
マリカにガントがいかに悪人かを教えます
(ばあさんでネタバレ(笑)事件がその媚薬のせいでないことを祈る)
三日目、ヤナは廃墟になった(景色のいい)絶壁に建つホテルを
マリカと見に行きます
そしてまだ12歳の時、自分と妹クリスティーナに起きた悲劇を
マリカに教えるのです
ヤナは遊びの最中ガントにレイプされ
それを目撃したクリスティーナはショックで絶壁から転落してしまう
ガントはクリスティーナに駆け寄り彼女を救出
そして町の英雄になったのです
クソ野郎なのに!(雑貨屋のお父さんはイイ人なのに!)
ヤナの回想シーンは一切ありません
なのに会話と雰囲気だけで、悲劇の過去が蘇る
「子どもの頃の話だろ?」
子どもだったからこそ許せない
ホテルを売却するとガントをおびき寄せ
ライフルで撃ち、クリスティーナの時と同じように
絶壁から転落させて殺します
ここからの畳み方がうまい
ヤナの正体は、実は妹のクリスティーナでした
ガント殺害後、自称ヤナは通報し
マリカが国外に逃亡できるよう
クリスティーナ(自分)の身分証とパスポートを渡します
そして自称ヤナはガントを殺害したのは
列車で偶然知り合ったマリカという女性で
(ヤナの)身分証とパスポートを盗まれ逃げられたと証言します
なるほど、警察はヤナの身分証とパスポートを使った女を探し
自称ヤナには新しい身分証とパスポートが発行されるというわけか(頭いい)
本物のヤナは自殺したのか
戦争や内戦で行方不明になったか
何も語られない
わかるのは、クリスティーナはガントへの復讐のため
ヤナになりすまし故郷に帰って来たということだけ
クリスティーナはヤナとして生きていき
マリカはクリスティーナとして生きていく
マフィアに追われる売春婦のマリカは、もうどこにも存在しない
マリカと、クリスティーナは二度と会うことはないでしょう
だけどこれからは(戸籍上では)永遠に姉妹になったのです
レイプや殺人という鬱々なテーマながら、1時間半という短尺なので
気合いを入れなくてもサクッと見れるのが楽(笑)
しかも勧善懲悪でスカッとするラスト
まるわかりな低予算ながら、丁寧で無駄のない演出
寂れた風景と、軽蔑という目を映し出す冷たいカメラ
東欧映画、侮れません