本当の目的(2015)

f:id:burizitto:20201215215536j:plain

「この国自体が売春婦みたいなもの」


原題は「Три дена во септември

英題はThree Days in September 」( 9月の3日間)

マケドニア正式国名「北マケドニア」独立は1991)と

コソボ(独立は2008合作のマケドニア語映画

 

マケドニア語は北マケドニアの他に

アルバニアセルビアモンテネグロギリシャで一部使われており

ブルガリア語やクロアチア語と似ているそうです

f:id:burizitto:20201215215605j:plain
またどちらの国も、支配者が入れ替わったり

外部からの支配を受け続けたり

長い長い長いあいだ戦争や内戦やテロに苦しめられ

多くの悲劇を生み続けた国

(だから国籍”パスポート”や戸籍が曖昧でも気付かれないのかも)

 

クロアチア難民女性を描いた「あなたになら言える秘密のこと(2005)

でもでしたが、こういう国ではレイプや拷問が横行したり

家族を失い売春するしか生きていけない女性が

現在でも多くいるかも知れません

f:id:burizitto:20201215215655j:plain

BMWの男の車に誘われた、夜の女マリカ

男は(マフィアに雇われた?)借金の取り立て屋で

暴行されたマリカは睡眠スプレーを使い、男のナイフを奪い男を刺し

逃げ込んだ列車で個室の女性に相席していいかと尋ねる


ほぼ下着姿で誰がどう見ても売春婦だとわかるマリカに

同じ年頃のヤナと名乗る女性はまあまあ親切で

(お国柄か顔はどちらも不愛想)

寝ているマリカに自分のカーディガンを掛け故郷の駅で下車します

f:id:burizitto:20201215215739j:plain
雑貨屋で必需品を買い、店の主人の息子で幼馴染のガンツのことを聞く

ヤナの(すでに死んでいる)父親は町の名士で

父が推薦してくれたおかげでガンツは警察官になれたと

しかし村には男が十数人残っているだけで

唯一残っているのは女は90歳のばあさんひとりだけだと言います


ヤナが空き家になっている実家に向かっていると

後からマリカが追いかけていました

マリカはヤナにどうか一晩だけ泊めてくれという

f:id:burizitto:20201215215628j:plain
こういう国の女同士にしかわからない、女性の困っている立場

ヤナはマリカに服と食事と寝床を与えます


二日目、幼馴染の警察官ガントがヤナに会いに来る

ヤナとヤナの双子の(結婚して海外で暮らしているという)

妹クリスティーナが父親から相続したホテルを

高値で(売春宿にするため)買いたいと言う人がいるという

ヤナはクリスティーナに相談してみるといいます

f:id:burizitto:20201215215826j:plain
マリカは雨宿りのため立ち寄った老婆(唯一残っている女)から

「男は勃起する」けど女には害がないハーブティなような飲み物をもらい

マリカにガントがいかに悪人かを教えます

(ばあさんでネタバレ(笑)事件がその媚薬のせいでないことを祈る)


三日目、ヤナは廃墟になった(景色のいい)絶壁に建つホテルを

マリカと見に行きます

そしてまだ12歳の時、自分と妹クリスティーナに起きた悲劇を

マリカに教えるのです

f:id:burizitto:20201215215844j:plain
ヤナは遊びの最中ガントにレイプされ

それを目撃したクリスティーナはショックで絶壁から転落してしまう

ガントはクリスティーナに駆け寄り彼女を救出

そして町の英雄になったのです

クソ野郎なのに!(雑貨屋のお父さんはイイ人なのに!)


ヤナの回想シーンは一切ありません

なのに会話と雰囲気だけで、悲劇の過去が蘇る

「子どもの頃の話だろ?」

子どもだったからこそ許せない

f:id:burizitto:20201215215902j:plain
ホテルを売却するとガントをおびき寄せ

ライフルで撃ち、クリスティーナの時と同じように

絶壁から転落させて殺します


ここからの畳み方がうまい

f:id:burizitto:20201215215921j:plain
ヤナの正体は、実は妹のクリスティーナでした

ガント殺害後、自称ヤナは通報し

マリカが国外に逃亡できるよう

クリスティーナ(自分)の身分証とパスポートを渡します


そして自称ヤナはガントを殺害したのは

列車で偶然知り合ったマリカという女性で

(ヤナの)身分証とパスポートを盗まれ逃げられたと証言します

f:id:burizitto:20201215220015j:plain

なるほど、警察はヤナの身分証とパスポートを使った女を探し

自称ヤナには新しい身分証とパスポートが発行されるというわけか(頭いい)

 

本物のヤナは自殺したのか

戦争や内戦で行方不明になったか

何も語られない

わかるのは、クリスティーナはガントへの復讐のため

ヤナになりすまし故郷に帰って来たということだけ

f:id:burizitto:20201215220036j:plain
クリスティーナはヤナとして生きていき

マリカはクリスティーナとして生きていく

マフィアに追われる売春婦のマリカは、もうどこにも存在しない

 

マリカと、クリスティーナは二度と会うことはないでしょう

だけどこれからは(戸籍上では)永遠に姉妹になったのです

f:id:burizitto:20201215220351j:plain

レイプや殺人という鬱々なテーマながら、1時間半という短尺なので

気合いを入れなくてもサクッと見れるのが楽(笑)

 

しかも勧善懲悪でスカッとするラスト

まるわかりな低予算ながら、丁寧で無駄のない演出

寂れた風景と、軽蔑という目を映し出す冷たいカメラ

東欧映画、侮れません