愛しのシバよ帰れ(1952)

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原題は「COME BACK, LITTLE SHEBA (戻ってきて、リトルシバ)

シバ」とはかつて飼っていた犬のこと


ある朝、部屋を探している女子大生マリーがローラを訪ねてきます

ローラから話を聞いた夫のドクは渋りますが

再訪してきたマリーを一目見たとたん

ドクは洋裁部屋を貸すことを快諾します

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どう見ても奥さんのほうが、人格的にちょっと危ない感じなんですが

実は夫のほうが断酒会に通う元アルコール依存症

これはアルコール依存症患者が断酒したとしても

ちょっとした不満や不安がきっかけで

再び依存症に戻ってしまう可能性を描いているのですが

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実はイネイブラーについても考えさせられる作品

「イネイブラー」とは嗜癖(しへき=有害な習慣)から生じる問題行動

依存症や中毒、ひきこもり、摂食障害、窃盗癖・・する人を助けようとして

実は嗜癖を助長している患者の身近な人間のこと

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ドクは名門医大に通っていたにもかかわらず

ローラが妊娠し父親によって家から追い出されたため

大学を中退して結婚、指圧師として働きますが

ローラは流産してしまいます

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夢を諦め、子どもにも恵まれることはなく

ドクは酒に溺れ、親の残した遺産を酒代で使い果たしてしまいます


ローラはドクがまた酒を飲むのではないかと怯える日々を送り

朝起きれず、食事の用意も掃除もほとんどすることはない

ラジオを聞いて好きなダンスを踊り

いなくなったシバのことばかり考えている

(シバは本当に犬なのか、本当に飼っていたかは疑問)

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そんなふたりは若いマリーと遠距離恋愛中のブルースに

かっての自分たちを見たのかもしれないし

流産した子が成長していたらと、マリーと重ねたのかもしれない

ドクは聡明なマリーを大切に思うようになります

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しかし可愛いマリーがタークという

やり投げの陸上競技選手と付き合いだしたのをきっかけに

マリーがタークをモデルにしたポスターを描いたり

夜中にマリーの部屋にタークが入っていくのを目撃して大激怒

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もちろんマリーはセックスを強要するタークを断り

故郷の恋人ブルースとの結婚を選びます

ローラはそれを歓び、マリーを迎えに来るブルースのために

家を掃除し、部屋を飾り、料理を作る

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それを知ったドクは、ローラの妊娠は本当に自分の子だったのか

という疑念を抱いてしまった

ブルースも俺と同じように女に騙されたバカな男なのだ


ドクの被害妄想が、再び酒瓶を手に取りどこかに行ってしまう

マリーとブルースを祝福することもなく

翌朝帰ってきたときは泥酔で正気を失っていました

ナイフを握りローラを襲い、首を絞めて殺そうとします

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バート・ランカスターの豹変ぶりがすごい(笑)

普段は穏やかな人間がアルコールによって全く別人になってしまう

暴言、暴力、その奥にある嫉妬や憎しみといった感情の揺れを

見事に表現しています


ローラから連絡を受けた断酒会のエドとエルモ

意識を失ったドクを私立病院(精神病院)に入院させました

そこでベッドに縛り付けられ、昏睡状態に陥ったドクは

「愛しいローラ」と何度もうなされていました

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義務ではなかったのに、愛していたから結婚したのに

勇気がなくて真実を見つめることができなかった

複雑にして、悪いほうにばかり考えて、酒を飲んで忘れようとする


そんな夫によかれと思って、余計な口出しをしてしまう

それは相手を苛立たせ、ついには怒りが爆発して暴力を受けてしまう

それでもそのあとの過剰な夫からの優しさに

「彼を助けられるのは自分しかいない」という愛し方の勘違い

これがイネイブラー

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お喋りで、オドオドしていてだらしなく、

思わず殴りたくなるような(でも理性のある人間なら殴りません)

イラつく主婦をシャーリー・ブースが好演

アカデミー主演女優賞を受賞していますね


退院したドクは「見捨てないでくれ」とローラに謝罪し

ローラはマリーとブルースが結婚したことを報告し

これからは料理も掃除もすると

そして「もうシバの話はしない」と約束するのです

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過去を振り返っても、後悔しても、やりなおすことはできない

未来に生きるしかないと悟ったふたり


でもこれで酒を止めるか止めないかは、また別の話(笑)

朝起きて後悔しても、夕方には忘れるのが依存症なのだから



【解説】映画.comより

ウィリアム・インジの舞台劇の映画化で、「底抜け落下傘舞台」のハル・B・ウォリスが製作にあたった1952年作品。脚色はケッティ・フリングス、監督は舞台の演出を担当したダニエル・マンである。撮影は「その男を逃すな」のジェイムス・ウォン・ハウ、作曲はフランツ・ワックスマン。主演は舞台と同じシャーリー・ブース(52年アカデミー主演女優賞獲得)と、「真紅の盗賊」のバート・ランカスターで、テリー・ムーア(「猿人ジョー・ヤング」)、リチャード・ジャッケル「暴力帝国」、フィリップ・オーバー、リザ・ゴルム、ウォルター・ケリーらが助演する。

 

天使の入江(1963)

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原題は「La baie des anges」(天使の湾)

天使の湾とはニースから、プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール

アンティーブ岬まで広がる地中海の湾のこと

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日本では長らく未公開で、初めて公開されたの

20073月のフランス映画祭での特別上映

モナコカンヌのカジノが制作支援(ギャンブル中毒の映画なのに!笑)

ジャンヌ・モローの衣装を手がけたのはピエール・カルダン

(紹介したのはココ・シャネル、この出会いでふたりは大恋愛に発展

ギャンブラーの気持ちを表すような高揚感ある音楽はミシェル・ルグラン

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パリの銀行で働くジャンは同僚のキャロルから

賭けで大儲けをし新車を購入したと聞かされます

そして無理やりキャロルにカジノに連れて行かれるのですが

ビギナーズラックで大儲け

堅物な時計職人の父親の反対を無視して

休暇を利用しニースのカジノに向かいます

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そこで白いスーツに金髪の美女、ジャッキーと出会い

最初は賭けに慎重だったジャンは、たった一晩でお金の感覚が麻痺してしまい

ジャッキーに振り回されてしまいます

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ジャンヌ モローの、いわゆるファム・ファタールもの

ギャンブル依存症で、わがままで、嘘つきで、思いやりがない

無一文になれば知り合いからお金を借りるし(返す様子はない)

ジャンのお金もジャンに内緒で賭けるし、全部すっても平気な顔

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大金が手に入ったら入ったで、お酒を奢って、高級レストランに連れて行って

車を買って、ドレスを買って、高級ホテルではスィートルーム

そして有り金をまたすべてルーレットですってしまう

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だけど彼女はそのことを十分に自分でも理解している

ギャンブルのせいで離婚して、子どもの養育権は元夫のもの

カジノに来ている金持ちの男性や、ディーラーに色仕掛けし

運もお金もなければ、駅の待合室で寝る生活

それでもギャンブルをやめられないことを知っているし

ギャンブルで破滅したことにも後悔していない

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それなのにジャンはジャッキーに「愛してる」という

一緒にパリに帰って、ギャンブルの世界から抜け出そうとします

ジャンは父親に手紙を書き、書留で5万フランを送ってもらいました

それは父親が真面目に働いてコツコツと貯めたお金だということが

誰にでも想像できます

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そうしてジャッキーをカジノに迎えに行きますが

ジャッキーはパリに行くつもりはありません(パリのカジノでは出入り禁止)

が、突然気が変わり

 

カジノを去っていくジャンを追いかけるという

オープニングと同じ一点消去な構図を用いた

あっさりしすぎるラスト

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ハッピーエンドのように見えるけど、到底そうは思えない

ジャッキーの目当ては、ジャンの父親が送ってくれた

なけなしの5万フランを持って再びカジノに戻ること

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はたしてジャンはジャッキーの甘い誘惑に勝てるのか

それともこのまま共依存する関係を続けてしまうのか

私はジャンはジャッキーを断れないと思います

挙句の果て、勤め先の銀行で横領でもして

刑務所送りになるでしょう

 

【解説】映画.comより

シェルブールの雨傘」などで知られる名匠ジャック・ドゥミの長編第2作。南仏ニースの美しいリゾート地を舞台に、ギャンブルに魅入られた男女の運命を描く。パリの銀行で働くジャンは、同僚に連れられて訪れたカジノで大当たりする。すっかりギャンブルの魅力に取りつかれた彼はニースの安ホテルに居を移し、カジノ通いの毎日を送るように。そんなある日、カジノで出会ったブロンド美女ジャッキーと意気投合したジャンは、彼女とパートナーを組んでますますギャンブルにのめり込んでいくが……。ジャッキー役に「死刑台のエレベーター」のジャンヌ・モロー。日本では2017年の特集上映「ドゥミとヴァルダ、幸福(しあわせ)についての5つの物語」で劇場正式初公開。

 

散り行く花(1919)

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原題は「Broken Blossoms or The Yellow Man And The Girl

(壊れた花、あるいは黄色い男と少女)

映画の父DW・グリフィス×サイレントの女王リリアン・ギッシュ

とても有名な映画ですが初見(笑)

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"flower" ではなく "blossom" なのは
大輪の花ではなく、観賞用に作られた花でもない
果実をとるため咲く花(若い女性のたとえ)だから

しかし実を作る前に散ってしまう
複数形なのは、同じような少女がたくさんいるということ

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意外だったのは、中国(仏教)は平和な文明、西洋は野蛮な文明

白人男性優位、女性蔑視、あくまで弱者な有色人種という構図を

はっきりと打ち出しているところ

(見ようによってはロリコンの愛玩プレイだがな ←

 オマエは相変わらずそういう見方しかできない女だよ 笑)

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実際に1919年は第一次大戦が終わった翌年で

戦勝国の日本に対して排日運動があるなど

欧米諸国では「黄禍論(こうかろん)」が激しい時代で

グリフィスは黄色人種に対し「寛容」というテーマで制作したそうです

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上海で品のない振舞いをするアメリカ人の水兵たち

ひとりの青年(イエローマン)が西洋に仏教を伝えようと決意します

しかしたどり着いたロンドンのスラム街では

小さな雑貨店の店主になることしかできず、やがて阿片に溺れていきます

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同じスラム街に住む15歳の少女、ルーシーは

しがないボクサーで、酒好きで女好きの父親に

殴られる日々を送っていました

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ある日、激しい暴力により倒れたルーシーを

イエローマンは助け店の2階で匿うことにします

ルーシーに綺麗な服に髪飾り、食べ物と人形を与えます

はじめてひとの優しさに触れたルーシー

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ふたりの関係はプラトニックなものでしたが

娘が中国人と暮らしていると知った父親は激怒し

ルーシーを連れ戻し、殴り殺してしまうのです

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26才のリリアン・ギッシュが15才の少女を演じ

その可憐さが日本でも評判になったそうですが

身長は164センチとそう小柄なわけでもない(笑)

相手役のリチャード・バーセルメス

父親のドナルド・クリスプを大きく映すことで

(そして昔の俳優は顔がデカい 笑)

華奢に見せることに成功しています

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また指で口を広げ、笑顔を作るシーンは

リリアン・ギッシュ自身が考えたものだそうです

 

最後、銃が出てきてしまうところはちょっと残念

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さすがに100年前の映画なので

イマドキの4Kテレビで見ると映像の状態は良くないものの(笑)

アートスティックな画作りに、目が離せませんし

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人種差別、麻薬や風俗、虐待死

それを引き起こす最もな原因が貧困であることなど

世の中の社会問題を共感をもって取り上げつつ

純愛ドラマとして完成した傑作でした


【解説】allcinema より

絶対的ロリコンのグリフィスが永遠の少女リリアンに、究極の乙女を演じさせる。ここで彼女の被る苦難は、元プロボクサーの父による虐待。彼の他の大作のヒロインほど大仰な悲運ではないだけに、その逃れられなさは絶望的。名優クリスプがまた、この希代の憎まれ役に入魂の演技を見せるので、観客の誰もがうすうす、死の他に彼女を解放する手段がないことを予感する。その彼女に想いを寄せるのがバーセルメスの純真な中国商人。本来なら異様な、白人の東洋人への化身も、このバーセルメスにだけは許される。そんな真摯さに溢れた演技で、リリアンと清らかな愛を紡いでいく。後にゴダールによって「勝手にしやがれ」で引用されるラスト・シーンが美しい。瞳は悲しみを湛えているのに、リリアンはその白魚の指で口の端を上向きに歪ませて、最後の微笑を作るのである

日本沈没(1973)

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単なるパニック映画ではなく

何故、日本列島が沈むのかという最大の疑問にどう答えるか

素人にもわかるよう「地球を半熟のゆで卵」に例えた

学術的な説明にかなりのウェイトを割いているのでわかりやすい

説明する学者は演技をする風もなく

本物の学者ではないかとさえ思えます

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後半はどうやって1億人以上の日本人を助けるかという問題に

政府が取り組むことになります

外務大臣は国連に助けを求め

総理自ら各国の首脳に会い難民の大量受け入れをお願いする

 

そうしているうちに第一波では巨大地震が起こり

以降、津波、噴火、地割れが列島を遅い都市は壊滅

港湾の工場地帯、道路、橋梁、家屋が軒並み破壊されていく

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陸海の自衛隊が飛び交う中

人々は逃げ惑い、倒れたり、血を流し

デモ化し皇居内に避難させろと要求する人々や

巨大津波に襲われるという警告も聞かず

小さな漁船に乗り込み中国や北朝鮮に逃げようとする者

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丹波哲郎にあまり首相の雰囲気はありませんが(笑)

ここまで決断力と行動力のある指導者はいないと思う

またこの頃の政治家の裏には「影の黒幕」と呼ばれる賢者がいて

日本沈没後、日本人はどう生きるべきか学者たちに意見を求める

学術会議のメンバーはこういうときのためにあるのか(笑)

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大国との避難交渉が困難なものでしたが

四国が、東北が、北海道が次々と裂け海に沈んでいくと

アメリカ、ソ連、中国から救助の手がさしのべられ

生き残った国民は続々と避難していきました

やがて、日本列島の姿は全て海中に消えてしまうのです

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そこに深海潜水艇の操艇者である小野寺(藤岡弘)と

資産家の令嬢(いしだあゆみ)のロマンスがあり

離れ離れ異国の地で「日本難民」になったふたりは再び巡り会えるのか

日本人のその後を案じるような結末を迎えます

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「空前の大ベストセラー」と評された小松左京の原作もあるでしょうが

科学的根拠も日本人論も押さえ、自然現象という

真摯なテーマに真面目に取り組んだ映画作りには好感

 

特撮もさすがは「ゴジラ」「モスラ」の東宝(笑)

ここでも「ゴジラ」「モスラ」のスタッフが集結

CGなしの時代のアナログ技術の凄さには感嘆

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そしてこの作品を見て、日本とは、国とは、民族とは

政治とは何かを改めて考えさせられる

ということは、やはり傑作なのでしょう

 

 

【解説】KINENOTEより

日本海溝の異変から日本列島が沈没すると予測した博士を中心に、日本民族救出のためのプロジェクト・チームが秘密裡に結成され、活動する様を、列島が大異変をくり返しながら沈没するまでを描く。脚本は「現代任侠史」の橋本忍、監督は「放課後」の森谷司郎、撮影は「日本侠花伝」の村井博と、木村大作がそれぞれ担当。

一人息子(1936)

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「人生の悲劇の第一幕は親子になったことから始まっている」

 

小津安二郎初のトーキー長編劇映画

さすがに録音の保存状態はかなり悪ですが(笑)

小津組のセンスの良さには毎回唸る

 

プロローグに流れるのはフォスターの「オ−ルド・ブラック・ジョ−」

生涯を南部の農場で働き続けた黒人奴隷「老僕ジョー」が

この世を去ろうとする時の哀感を歌ったもの

 ふすまに貼られているはジョーン・クロフォードのポスター

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信州(長野県)の製糸工場の、紡績婦として働きながら

一人息子の良助を育てているおつね

ある日担任の大久保先生から

良助が東京の中学校に進学したがっている、と知らされます

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良助の強い思いにおつねは進学を許し

学費のために家と土地を売り、工場で住み込みで働くようになります

それから13年、おつねは年で紡績婦を引退したものの

掃除婦として働いていました

そして就職した息子に会うため上京します

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息子は満面の笑顔で迎えてくれましたが

住んでいたのは貧困街にある立派とは言えない一軒家で

結婚して、赤ん坊までいます

しかも役所を辞めて夜学の教師をしているといいます

 

恩師の(教師を退職して上京した)大久保先生に会いに行くと

1食5銭の寂れたとんかつ屋をやっている

息子の将来を暗示するかのような先生の姿に

おつねのショックは隠せない

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それでも良助は母親孝行するのに必死

上野からのタクシー代でお金を使い果たしてしまったのでしょう

職場の同僚から利子付きで10円借り

おつねに美味しいものを食べさせたり

田舎にはない映画館で外国映画を見せるのです

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だけど「これがトーキーだよ」と説明する息子の横でおつねは爆睡(笑)

 

この映画「未完成交響楽」(1933) という

シューベルトをモチーフにしたオーストリア映画なのですが

これがまた、ダメダメ男というブラック・ユーモア(笑)

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一人息子の立身出世だけを楽しみに生きてきたおつね

その夜、良助の不甲斐なさを責め涙してしまう

なんのために学問を習わせたのか

息子には自分と同じ労働者階級の道だけは歩んでほしくなかった

 

それを聞いた良助の妻杉子は、翌日自分の着物を売り

そのお金を「おかあさんをどこかに連れてって」と良助に渡します

しかし隣に住む男の子が馬に蹴られ大けがをしてしまい

良助は男の子の母親に、杉子からもらったなけなしのお金を与えるのでした

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母親の期待とは違ったかもしれないけど

こんなに好い息子と嫁はいないよ(笑)

 

たとえ貧しい生活でも、息子の人情を知ったおつねは

静かに田舎に戻る決意をします

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なにひとつ母親の期待に応えることができなかった

そんな自分を見られたくなかった

その時、息子のつくり笑いが消え

苛立ちを表すかのように投げ出された帽子

 

次の瞬間、良助は棚の上に置かれている紙に気付きます

中には紙幣(10円札と思われる)が二枚挟んでありました

 

「これで まごに なにか かって やって ください」

ひらがなだけの拙い文字の母からの手紙

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そして再び信州で住み込みの工場の掃除をするおつねの姿

おつねは一緒に働く掃除のおばさんに

笑顔で息子の自慢話をするのでした

 

現在でも我が子に過剰な期待して

幼い頃から塾に習い事と、わんさかお金をかける親は大勢いますが

親の思い通りに育つ子どもはなかなかいません(笑)

 

ラスト、雑巾で床を拭くだけの母親の丸い背中に

深い哀愁を感じられずにいられない傑作でしょう

 

 

【解説】ウィキペディアより

『一人息子』(ひとりむすこ)は、1936年(昭和11年)公開、小津安二郎監督による日本の長篇劇映画である。

                 デビュー以来、サイレント映画を撮り続けた同監督の劇映画では初のトーキー作品である。松竹蒲田撮影所が同社のトーキー第1作『マダムと女房』(1931年)以来採用していた「土橋式トーキー」ではなく、小津番のカメラマン茂原英雄が開発した「茂原式トーキー」を採用した[2]。茂原は撮影を杉本正次郎に任せ、初めて録音技師に回った。 小津安二郎が「ゼームス・槇」名義で書き下ろしたストーリーを池田忠雄と荒田正男が脚色した。録音技師を務めた茂原英雄に代わり、撮影技師を務めた杉本正次郎は、1933年(昭和8年)に小津の監督作『出来ごころ』を手がけた技師である[5]。松竹蒲田撮影所では、1931年(昭和6年)の日本初の本格トーキー劇映画『マダムと女房』(監督五所平之助)を発表以来、土橋武夫の「土橋式トーキー」を採用していたが、小津はその後もサイレント映画を発表し続け、本作で本格的にトーキーと取り組むことになった。茂原の助手として小津組に参加してきたのちの小津番カメラマン厚田雄春は、本作ではチーフ撮影助手を務め

本作は、1936年(昭和11年)115日に蒲田撮影所が閉鎖されて大船に移転しており、松竹大船撮影所製作とされているが、録音助手を務めた、茂原の弟子でのちの録音技師・熊谷宏の回想によれば、実際は、小津組以外だれもいない蒲田撮影所で撮影が行われたという。茂原がトーキーの新システム「SMSシステム」(スーパー・モハラ・サウンド・システム)、通称「茂原式トーキー」の開発を蒲田の花街に事務所を構えて行っていたからで、茂原の妻であり本作に主演した飯田蝶子をはじめ、出演した女優の坪内美子、吉川満子らが夜食の炊き出しを行い、アットホームな撮影現場であったという。事実上、小津にとっても、松竹キネマにとっても、最後の「蒲田撮影所作品」となった。

本作の上映用ポジプリントは、東京国立近代美術館フィルムセンター7,383.12フィート(2,250.4メートル)の35mmフィルム、2,968.11フィート(904.7メートル)の16mmフィルムの2ヴァージョン、いずれも82分の尺長のものを所蔵している

 

ヘッドハンター(2011)

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原題は「HODEJEGERNE」(ノルウェー語 ヘッドハンターズ)

ヘッドハンターズには「首狩り」(人間狩り)という意味もあるそうです

ノルウェーで歴代最高の興行収入を記録した

クライムサスペンス&ブラック・コメディ

北欧映画の話題作にはハズレがないですし

レビューの評価もかなり高いので観賞してみました

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話の進め方はタランティーノ的で、雰囲気はダニー・ボイル

だけどタランティーノよりグロくて、笑えるし

先の見えない展開や、伏線の回収のうまさは

ダニー・ボイルよりノレる(笑)

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主人公のロジャーは、やり手のヘッドハンター

転職を考える優秀な人材や、大企業からの信頼は厚く

画廊を営む美しい妻ダイアナと

ロッテという体の関係だけの愛人までいる

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そんなロジャーのコンプレックスは背が低いこと

男性で168センチは、それほど低身長とは思いませんが

ロジャーは長身の女性が好みなんですね(笑)

なので妻のダイアナも180センチ以上ある

 

妻に嫌われないよう、せっせと高価なプレゼントを贈ります

そのために有名絵画を贋作とすり替えて盗むという

裏の顔をもっていました

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そんな美人妻の前に、財産を相続した金持ちで超イケメン

大手企業で電子機器の開発に成功したという、元軍隊のエリート

クラスという男が現れます

しかもかってナチスドイツが所有していた貴重な絵画を持っているという

ロジャーは絵画泥棒の相棒、オーヴェに連絡

 

だけどオーヴェはロシア人美女と全裸でサバイバルゲーム

北欧にはこういうお楽しみもあるのか(笑)

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ロジャーはクラスの持つ絵画を盗み出すことに成功

そのとき窓から見えた子どもたちの姿に思わず

(子どもを作る作らないで)喧嘩したダイアナに電話してしまいます

するとすぐそばで着信音が聞こえ、ベッドルームから携帯が見つかりました

ダイアナはクラスと浮気していたのです

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怒ったロジャーは、クラスの企業への推薦をやめてしまいました

すると翌朝ガレージにはオーヴェの死体

と思って湖に捨てると、息を吹き返すオーヴェ(笑)

オーヴェは薬物が打たれていて、隠れ家に運ぶものの

そこで救急車を呼ぶ、呼ばないで口論となり

ロジャーははずみでオーヴェを撃ち殺してしまいます

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オーヴェの車で逃走し、ある農場の納屋に隠れます

しかし確実にクラスは追いかけてくる

クラスこそが、本物のヘッドハンターズ

首狩り男だったのです

 

そこからは想像以上のグロさ(笑)

まさかのトイレットペーパーを咥えた肥溜め隠れ

まさかの猛犬のトラクター串刺し

まさかのデブ警官×2のエアバック

まさかのスキンヘッド(&スナックの袋)

まさかのスケベカメラ

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ロジャーは匿ってもらうため、別れた愛人ロッテの家に行き

そこですべての真相を聞かされます

 

クラスに追われたのは絵画盗難の件ではなく(笑)

企業乗っ取りのためロジャーに近づいたものの

ロジャーの(嫉妬心の)せいで目的の企業に就職することができなくなり

ロジャーが邪魔になったのです

 

ロジャーははずみでロッテも撃ち殺し

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ノルウェーでは浮気も夫婦間で公認ならOKなのか(笑)

家に帰りダイアナに全てを打ち明け、お互いの愛を確認し合います

 

証拠隠滅のため、パトカーで転落死した警官を検死している

施設に侵入し証拠品を盗み出すと

オーヴェの死体の残された隠れ家に行き、清掃をはじめます

そしてヘッドハンターズは必ずやってくる

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監視カメラにナターシャのエロな映像を流しておき

(オーヴェはそれで警備会社の社員から金を貰っていた 笑)

カメラに写らない位置にマシンガンを隠しスタンバイ

そして銃を構えるクラスの姿と、撃ち殺される姿が

監視カメラに映し出され警備会社の社員に目撃されます

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ロジャーはクラスを撃った銃をオーヴェの遺体に持たせ

ダイアナの待つ車で隠れ家を後にしました

クラスの銃の弾を抜いたのも、ロッテ殺害をクラスの犯行に見せかけたのも

ダイアナが計画したものだったのです

 

ひとりのベテラン刑事がロジャーを怪しみ

オーヴェの死亡推定時刻に疑問を抱いていたものの

出世やメディアを煩わす、面倒な事は大嫌い(笑)

結局オーヴェの単独犯という解決を迎えます

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あれだけの死人が出ながら、DNA検査もない

科学捜査を完全に無視したラストも、ツッコむしかないのですが(笑)

 

なぜか後味は悪くない

映画だからできる、ありえないこと

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ハリウッド的なアクションや

お約束な結末に飽きてしまった人に超おススメ

ポップコーンムービーに反旗をひるがえしたという意味で

傑作だと思います

 

 

【解説】allcinema より

ノルウェーの作家ジョー・ネスボのベストセラー・ミステリーの映画化で、予測不能の展開が評判を呼びハリウッドがリメイク権を獲得したことでも話題となったノルウェー産クライム・サスペンス。背が低いことだけがコンプレックスのロジャーはノルウェーでも有数のヘッドハンター。しかし彼には、画廊を営む美しい妻の気持ちを繋ぎ止めるために行っている、もう一つの裏の顔があった。それは、ヘッドハンターの立場を巧みに利用して、契約相手が所有する高級絵画を盗み出すというもの。そんなロジャーの新たなターゲットは、妻がとっておきの情報を仕入れた精密機器メーカーの元重役、クラスだった。これを最後に裏稼業から足を洗おうと考えていたロジャーだったが…。

負け犬の美学(2017)

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「負ける人間がいるからこそ、勝つ人間がいる」

原題は「Sparring 」(スパーリング)

スパーリングとはヘッドギアなどの防具をつけて行う実戦形式練習のこと


主人公のスティーブは45歳で4913333のプロボクサー
アルバイトをしながら家族を養っています

でも私の解釈では、彼は「負け犬」じゃない

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理解のある、まあまあ美人の奥さんに

ピアノでパリへの留学を目指している、パパ大好きな娘オロール

まだ幼くて可愛い息子

ボクシングは彼のライフワークで

結婚生活では勝組だと思います(笑)

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とはいえ、オロールに練習用のピアノを買ってあげたい

留学の夢を叶えてあげたい

ティーブは元世界チャンピオン、タレク(ソレイマヌ・ムバイエ

復帰戦に向けてのスパークリングパートナーになることを申し出ます


スパーリングといっても相手が世界チャンピオン級ともなれば

場末のボクサーの公式の試合より、相当ギャラがいいのでしょう

当然その分リスクも高い

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しかも負け試合ばかりの45歳が

元世界チャンピオンの相手にならないことなど一目瞭然


それでもスパーリングのスカウトマンに直談判し

タレクに「もう来なくていい」とクビを宣告されても

年の功と経験で、お前にないものを知っている

俺を雇い続けろと説得します(笑)

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タレクにアドバイスするコーチの前では

「そういう戦い方は、相手も予測してくる」と

本来のスタイルで戦うべきだと口出ししてきます


普通なら「弱い奴が何を言っているんだ」 と

却下されてしまうでしょう

でもティーブには他人を納得させる説得力と

どこか人から好かれる魅力がありました

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でも初めて見に来た公開練習で、ボクシングファンの心無い野次に

オロールはひどく傷ついてしまう

でもそれは試合を盛り上げるためのファンサービスで

タレクが観客を煽ったためでした


タレクがスティーブの引退試合ためお膳立てしてくれた

世界戦の前座試合という晴れ舞台さえ

オロールは「もう見たくない」 と拒否してしまいます

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これがハリウッド映画なら試合の途中

娘が試合会場に向かって走り出し

最終ラウンドに「エドリアン~」ばりな

感動的なラストを迎えるはずですが


おフランスでは、本当に娘は見に来ません(笑)

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最後の試合を粘り強く戦い、帰ってきた父親に一言

「勝った?」だけ(笑)

まあ、実際年頃の娘は父親に対してこういうものでしょう


しかもチャンピオン復帰戦は一切描かないという

(ソレイマヌ・ムバイエ なのに!笑)

ラストはオロールのピアノの試験で終わります

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彼女にピアノの特別な才能があるかどうかはわからない

でもこの父親の子どもなら、たとえ試験に落ちたとしても

ピアニストへの夢を諦めることはないでしょう

 



【解説】映画.COMより

アメリ」でヒロインの相手役を演じたマチュー・カソビッツが、家族のために奮闘する落ち目のボクサーを熱演したフランス製ヒューマンドラマ。最盛期を過ぎた40代のプロボクサー、スティーブ。彼は愛する家族のため、そして自分自身の引き際のために、欧州チャンピオンの練習相手に立候補するが……。劇中のボクサー、エンバレク役には、WBA世界スーパーライト級王者のソレイマヌ・ムバイエを起用。監督はこれがデビュー作となるサミュエル・ジュイ2017年・第30東京国際映画祭コンペティション部門出品(映画祭上映時タイトル「スパーリング・パートナー」)