メイ・ディセンバー ゆれる真実(2023)

原題は「May December」(5月‐12月)で親子ほど年が離れたカップルの意

1996年年、当時34歳だった女性教師メアリー・ケイ・ルトーノーと

12歳だった教え子のヴィリ・ファラアウとの性行為が発覚

(映画では韓国系であるが、サモア系)

メアリーは児童レイプの罪で逮捕され、懲役7年の刑を受け獄中出産

その後この生徒と結婚した 「メイ・ディセンバー事件」がモデル

物語はそれから23年後

アメリカでは誰もが知っているこの事件の映画化が決定し

主演女優のエリザベス(ナタリー・ポートマン)が役作りの取材のため

ジョージア州のサバンナで平和に暮らす

グレイシージュリアン・ムーア)と

ジョー(チャールズ・メルトン)のもとを訪ねるところから始まります

ふたりは、映画の制作は「真実を伝える」ためだと

エリザベスを暖かく迎え入れ、心を通わせようと協力的です

(今でも自宅に汚物を送られるなど、嫌がらせを受けることがある)

しかしエリザベスはグレイシーを知ろうとするあまり

当時のグレイシーの家族や関係者にも取材していき

事件の後、周囲の人間にどのような影響があったか

ふたりがどうやって肉体関係に陥ったのかに、焦点を当てていきます

カメラは相当イングマール・ベルイマンを意識したのでしょうか(笑)

脈絡のない複数のイメージや、鏡を使うシーンは「仮面/ペルソナ」を思わせます

エリザベスはジョーとふたりきりになれる場所を選び

彼が喜ぶようなしぐさをしたり、言葉をかける

ついには(持病である喘息の)呼吸器の使い方がわからないと言い

ジョーをホテルの部屋に誘い込みます

どんな男だって、美人に優しくされたら有頂天になってしまう

ジョーがグレイシーが投獄されたとき、彼女から受け取った手紙を

「役作り」のためになると思いエリザベスに渡します

感激した?エリザベスがジョーに何度もキスをすると

ジョーは耐え切れず彼女とセックスしてしまいます

エリザベスが自分のことを好きだと思ったから

なのにエリザベスは彼と寝たことを

「大人のたしなみ」だと答えるのです

そのときジョーの頭の中に疑問が浮かび上がります

グレイシーが13歳だった自分を「愛してる」と誘惑したのは

本当に愛していたからなのだろうか

それともエリザベスの言うように、大人のたしなみだったのだろうか

さらに、エリザベスに渡した手紙の内容

「愛してるわ、あなたが私を愛してる様に」

「私はあなたに誘われただけなのに、何故か捕まったの」

「あなたが私を抱いたから投獄されたの」

「でも私たちは何の罪もないわ」

「だって私たち愛し合っているんだもの、そうでしょう?」

ジョーはグレイシーが投獄されたのも、妊娠したのも

ずっと自分の責任だという十字架を背負っていたのです

狭い田舎町で、どんな白い目で見られようと彼女を守るため頑張ってきた

でも本当は、グレイシーに操られていただけなのかも

(見ようによっては、第1子はジョーの父とグレイシーの子の可能性もある)

ジョーが蝶(オオカバマダラ)を育てているのは

蝶こそ彼のメタファーなのでしょうね

昆虫は言葉を発しない、ジョーも本心を話せるのもチャットの中だけ

でも蝶は大人になったら自由に羽ばたける

虫籠に閉じ込めない限り

それでも夫婦の歴史はあって、子育ての苦しみも喜びもあった

双子の兄妹の卒業式で涙ぐむジョー

卒業式が終わり、エリザベスは撮影準備のため帰ると言うと

グレイシーは元夫との間の息子、ジョージの話は

(彼女が12歳の頃から、2人の兄と近親相姦していたことを匂わせる)

デタラメだと告げるのでした

無邪気なグレイシーは、無意識のうちに周囲の人間を傷つけていく

そのことは彼女を模倣するエリザベスにも乗り移り

エリザベスもまた無意識にグレイシーの家族を傷つけていく

目の前の役柄に専心し、残された者たちのことなど歯牙にもかけない

ラスト、ペットショップの背景で蛇を手に少年を惑わそうとする

エリザベスの撮影シーンで幕を閉じます

「怖い?」

「怖くない」

「噛まないわ、噛まない品種だから」

それにしても、これって

モデルになった家族了解を得た内容なのでしょうかね(笑)

メアリーは結婚14年目の2018年に夫のヴィリと離婚しており

2020年に大腸がんで死去(享年58)

本作の結婚23年後は全くのフィクションにはなるわけですが

The Hollywood Reporter」から取材を受けたヴィリは

製作陣から一度も連絡を受けたことはなく 「気分を害した」

彼の人生と苦痛を「ハリウッドとメディアが搾取していると感じた」と

コメントしたそうです

 

恋愛における嘘という洗脳を解くことはできないし

夫婦の間に起ったことは、夫婦にしかわからないのだから

 

 

【解説】映画.COMより

「キャロル」「エデンより彼方に」のトッド・ヘインズ監督がメガホンをとり、アメリカで実際にあったスキャンダルを題材に、ナタリー・ポートマンジュリアン・ムーアという実力派俳優が豪華共演を果たしたサスペンスドラマ。
20年前、当時36歳の女性グレイシーは、23歳年下の13歳の少年ジョーと運命的な恋に落ちるが、2人の関係は大きなスキャンダルとなり、連日タブロイド紙を賑わせる。グレイシーは未成年と関係をもったことで罪に問われて服役し、獄中でジョーとの間にできた子どもを出産。出所後に晴れて2人は結婚する。それから20年以上の月日が流れ、いまだ嫌がらせを受けることがあっても、なにごともなかったかのように幸せに過ごすグレイシーとジョー。そんな2人を題材にした映画が製作されることになり、グレイシー役を演じるハリウッド女優のエリザベスが、役作りのリサーチのために彼らの近くにやってくる。エリザベスの執拗な観察と質問により、夫婦は自らの過去とあらためて向き合うことになり、同時に役になり切ろうとするエリザベスも夫婦の深い沼へと落ちていく。ナタリー・ポートマンがエリザベス、ジュリアン・ムーアグレイシーをそれぞれ演じ、ジョー役は「バッドボーイズ フォー・ライフ」やテレビシリーズ「リバーデイル」で活躍するチャールズ・メルトンが務めた。2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。第81回ゴールデングローブ賞では作品賞、主演女優賞、助演女優賞助演男優賞に、第96回アカデミー賞では脚本賞にノミネートされた。

2023年製作/117分/R15+/アメリ
原題:May December
配給:ハピネットファントム・スタジオ