原題の「A Real Pain」(本当の痛み)には
「面倒なやつ」「困ったやつ」といった意味もあるそうです
最初と最後2度このタイトルが表示されますが
冒頭は「困ったやつ」
ラストは「痛み」というダブルミーニングなのでしょう(たぶん 笑)
ニューヨークに暮らすユダヤ系のデヴィッド(ジェシー・アイゼンバーグ)と
今ではすっかり疎遠になっていたものの、亡くなった最愛の祖母を偲ぶため
家族のルーツである故郷ポーランドを訪れ
史跡巡りのツアーに参加することにします
デビッドは真面目で妻子もおり
常に他人の気持ちや「常識」を気にかけるタイプ
一方のベンジーは定職もなく、自由奔放に暮らす独身
自己中だけど正直者、周囲から愛されるキャラでもあります
ベンジーときたら携帯は繋がらないわ
ホテルにマリファナは持ち込むは
我儘言い放題で、最初からデビッドを振り回しっぱなし
この海外版のポスターは、実によくできていますね(笑)
もし「男はつらいよ」の寅さんとさくらちゃんが従兄弟同士で
海外旅行したら・・といったら分かりやすいでしょうか(笑)
ツアーのガイドをしてくれるのは、イギリス人のジェームス(ウィル・シャープ)
メンバーはオハイオに住む退職した熟年夫婦、マークとダイアン
カリフォルニアから来たマルシアは最近離婚したばかり
初日にはゲットー英雄記念碑、グジブフ広場、ワルシャワ蜂起記念碑を訪れ
ワルシャワ蜂起を再現をしようと言い出します
これはナチスドイツ軍に抵抗したワルシャワ市民の勇気を称える記念碑で
1944年、ソ連軍の呼び掛けで起こった戦闘にかかわらずソ連から救援は来ず
ドイツ軍の反撃で(推定)20万人のポーランド人の死者が出てしまいます
崩れ落ちる遺跡の下を抜け、マンホールから下水道に入り
ドイツ軍と戦った兵士たちの姿を彫刻にしたもの
デビッドは戦死したポーランド人に敬意を払い
ふざけた真似はするべきではないと止めますが
ベンジーは他の参加者を巻き込んで彫刻の前でポーズ
結局デビッドはスマホで全員分の写真を何枚も撮ることになるのです
2日目は(旧ドイツ占領下のポーランドを経由)ホロコーストツアーで
電車でルブリンに移動することになると
ベンジーは一等車での旅に突然怒りだし車両を移動してしまいます
(大戦中ユダヤ人は一等車どころか貨物車に乗せられていたという理由)
ベンジーに寄り添い付き合い、疲れ果てて寝てしまうデビッド
そのせいで爆睡して停車駅を通り越してしまい(ベンジーが起こしてくれなかった)
逆方向行きの電車に無銭乗車するハメに(笑)
集合場所に向かい皆(やさしい)と落ち合います
ジェームズがグロヅカ門や旧ユダヤ人墓地を案内していると
今度はジェームズが歴史的事実を伝えているだけで
感情的な信憑性に欠けていると怒りだす
ジェームズはベンジーの意見を尊重し
ユダヤ教の伝統である、墓石に小石を乗せることを提案します
(家族の墓石に小石を乗せるのは「永遠」を意味するそうです)
その日のディナーで、ベンジーがトイレに行った際に
デビッドはベンジーに対する憤りと、彼に対する嫉妬を打ち明けてしまいます
その時鳴り響く、レストランに置かれたピアノで奏でるショパン
弾いていたのはベンジーでした
それはポーランド人のおばあちゃんがデビッドとベンジーに習わせていたから
山田洋二監督の「おとうと」で
「どこの家にも、ああいうのがひとりはいる」
というセリフがありましたが
実際こういう「困ったちゃん」は周りにひとりはいるものです
でも彼自身は思ったことを口に出してしまうだけ
デビッドの苦労に理解を示す旅の仲間たち
ツアー最終日、マイダネク(ルブリン強制収容所)を訪れます
ジェームズはベンジーにツアーの進め方についての
見方を変えてくれてありがとうと感謝します
私はポーランドにいちども行ったことはないのですが
映画による「擦り込み」とは凄いもので(笑)
まるでガス室を見たことがあるような記憶が蘇るんですね
ポーランド人やロシア人の捕虜や
フランス、イタリア、オランダ、ギリシア、ベルギー・・の
運動家、聖職者、共産主義者など
多くの思想家や国籍者がいたことも忘れてはいけません
翌朝、皆と別れたデビッドとベンジーは
クラスニスタフにある祖母がかって住んでいた家へ向かいます
ベンジーは酒に酔い夕食に遅れた時
(規律を守るよう)祖母にビンタされ、頭がすっきりした思い出を話します
ベンジーだって本当は自分のやらかした失敗に、いつも後悔してるのです
祖母を追悼し、家の玄関に小石を置くふたり
しかし隣人の男性が、住人が石がつまずく危険があるので
石を取り除くよう頼みます
ふたりは小石をポケットに入れその場を去り
夕食に行ったところで、デビッドの帰りを喜ぶ家族の雰囲気をぶちこわし
水を差すことくらい自分でもわかってる
ベンジーが断ると、デビッドは彼の頬をビンタ
それからふたりはきつく抱き合います
自宅に到着したデビッドは玄関先に小石を置き
妻と息子の元に向かいます
ベンジーはひとり空港に残り、席に座ったまま
旅行者たちを見つめていたのでした
行く先々で誰からも愛されるベンジーと
旅先では孤独だけど、帰りを待ってくれる家族がいるデビッド
所詮人間はどう幸せに見えても一人ぽっち
残念なのは、ベンジーの抱えている闇と
ホロコーストでユダヤ人が受けた悲劇が、いまいち結びつかなかったこと
なぜならベンジーが他人とのギャップに苦しんでいるのは
彼がユダヤ人だから、ではないからです
現代の感覚と、本当の戦地のリアルさを伝える
限界と難しさを、感じられずにはいられません
【解説】映画.COMより
「僕らの世界が交わるまで」で監督デビューを果たした俳優ジェシー・アイゼンバーグが監督・脚本・製作・主演を務め、第97回アカデミー賞で脚本賞と助演男優賞にノミネートされたロードムービー。
ニューヨークに住むユダヤ人のデヴィッドと、兄弟のように育った従兄弟ベンジー。現在は疎遠になっている2人は、亡くなった最愛の祖母の遺言によって数年ぶりに再会し、ポーランドのツアー旅行に参加することに。正反対な性格のデヴィッドとベンジーは時に騒動を起こしながらも、同じツアーに参加した個性的な人たちとの交流や、家族のルーツであるポーランドの地を巡るなかで、40代を迎えた自身の生きづらさに向きあう力を見いだしていく。
アイゼンバーグがデヴィッド、テレビドラマ「メディア王 華麗なる一族」のキーラン・カルキンが従兄弟ベンジーを演じ、第82回ゴールデングローブ賞で助演男優賞を受賞。第97回アカデミー賞でも助演男優賞にノミネートされた。共演は、「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」の監督としても知られる俳優ウィル・シャープ、「フェリスはある朝突然に」のジェニファー・グレイ。「僕らの世界が交わるまで」に続いて俳優のエマ・ストーンが製作に名を連ねた。
2024年製作/90分/PG12/アメリカ
原題または英題:A Real Pain