原題も「Mank」
マンクとは「市民ケーン」(1941)の不遇の脚本家
ハーマン・マンキウィッツ(ジョゼフ・マンキーウィッツの実兄)
のあだ名
デヴィッド・フィンチャーの父親、ジャック・フィンチャーの脚本に
映画会社による政治活動や、社会革命運動の弾圧というテーマを加え
息子デヴィッドが改稿し映画化したもの
伝説的な映画人のエピソードがいくつも散りばめられていますが
史実ではなく、あくまで二次創作のフィクションということ
交通事故で脚を骨折してしまったマンク(ゲイリー・オールドマン)は
田舎の牧場の1軒家で、ドイツ人家政婦のフリーダ(モニカ・ゴズマン)と
筆記係のリタ(リリー・コリンズ)とともに
オーソン・ウェルズ(トム・バーク)から依頼された脚本を
6週間で仕上げることになります
そこから彼のそれまでの行動と
アカデミー脚本賞を受賞するまでが描かれるわけですが
脚本家だけあって、とにかく弁が立つんですね
(脚本も自らペンも持たず、タイプも打たず、口述だけで仕上げる)
ある意味正義感が強いのですが、かなりの皮肉屋で
相手が傷つくこともおかまいなしに揶揄して嘲笑する
何度もトラブルを起こし、仕事もクビになります
自己責任から逃れるように、アルコールに溺れ
無謀な賭け事をしてしまう
それでも才能と、人間味はあったのでしょう
フリーダはリタに、戦時中のドイツから
丸ごとひとつの村のユダヤ人ともに彼に助けてもらったと言います
(マンクもドイツ系ユダヤ人でハンブルクからアメリカに移住している)
本人が自覚してるかどうかわかりませんが
(「ジュディ虹の彼方に」では子役を食い尽くす悪魔のような男だった)
愛人のマリオン(アマンダ・サイフリッド)のため
映画制作会社(コスモポリタン社)を設立した
大富豪ハースト(チャールズ・ダンス )からも
特別な待遇を受けています
にもかかわらず、出来上がった脚本は
誰が読んでも、マリオンとハーストのことだとわかるものでした
弟のジョゼフや、マリオンの甥で脚本家のチャールズ・レデラーから
マリオンを侮辱していると映画化を反対されるものの
マンクはこの傑作をウェルズに渡します
それでもマリオンはマンクの友人で味方でした
あなたの言う通り、私は孤独で寂しかった
でもハーストとの愛は、たとえ世間に理解されなくても
本物なのだとマンクに伝えます(逆#MeToo運動)
それと前後して1934年のカリフォルニア州知事選挙で
ノンフィクション作家のアプソン・シンクレアを落選させるため
MGMが共和党に協力し
反シンクレア基金の寄付を募ったり
共和党の素晴らしさを伝えるラジオ放送(声はMGM専属の俳優のもの)や
嘘のプロパガンダ映画を制作上映します
映画はマンクの古くからの映画仲間で仕事に困っていた
シェリー・メトカーフという男が加担したものでした
良心の呵責と、将来への絶望でシェリーは拳銃自殺をしてしまいます
マンクはシェリーの妻の名前を何度も間違ったうえ
渡された弾丸の数だけ信じ、銃を回収をしなかったことを悔やむ
脚本家のくせにこんな単純なことを、記憶も、想像もできないバカ野郎
泥酔したマンクは、メイヤーの主催する仮装食事会に乗り込み
ドンキ・ホーテに例えた物語を披露します
たとえ友人の死があったとしても、それは聞くに絶えない中傷でした
参加者は次々と席を立ち、優しかったマリオンまで去ってしまう
最後に残ったのはハーストだだひとりでした
しかもメイヤーからマンクの高額な給料の半分は
ハーストが支払っていたのだと聞かされます
ハーストはマンクのファンでした
しかしここまで大勢の人間の前で侮辱されてしまったら
これ以上マンクを助けることはできませんでした
しかもウェルズに突然、クレジットに自分の名前を乗せろという
それは契約違反で、裁判沙汰になる可能性もあると
ウェルズが説明しても一歩も引かない
結局映画を完成させたいウェルズが、妥協することになるのです
アルコールと、賭博依存症
「事実ではない」ことを、「確信」し「訂正できない」特性
マンクは明らかに強迫性障害か
高機能型境界性パーソナリティ障害(微笑みうつ病)で
正直、精神科の治療が必要な状態
(こんなにいい奥さんがいるんだから!)
完成した映画はハーストの妨害により
(「薔薇の蕾」の意味があれじゃね 笑)
「市民ケーン」の上映は限られ興行は惨敗
アカデミー賞では9部門にノミネート
唯一受賞したのはウェルズとマンクの共同脚本賞だけでしたが
年々評価は高まり
今では、英国映画協会が10年ごとに選出する
オールタイム・ベストテンでは5回連続で1位
AFI(アメリカ映画研究所)の「アメリカ映画ベスト100」でも
1位にランキングされる快挙を成し遂げています
(若き天才ウェルズの不遇が、実際より評価を高くしている気がする)
マンクは本作の公開後、「打撃王」(1942)で手腕を示したものの
1953年、55歳のとき尿毒症で他界
ウェルズは「市民ケーン」後、ハリウッドでの発言力が低下
扱いは悪くなり、なかなか企画を実現できなくなり
製作費を稼ぐため、テレビやB級映画に根拠を移すようになります
(傍若無人ながら茶目っ気ある性格なので乗り切れたらしい)
ハーストは世界恐慌で財務状態を弱め
巨大コミュニケーション帝国のコントロールを失い
1951年、88歳で死去
ハースト・コーポレーションは現在もニューヨークを本拠地に
巨大メディア複合企業として続いています
私は「市民ケーン」にもウェルズにも思い入れはありませんが(笑)
日本が開戦し「欲しがりません勝つまでは」と唱えていたとき
アメリカはこんな時代だった
そういうことを知れたのは興味深かったです
【解説】映画.COMより
「ソーシャル・ネットワーク」「ゴーン・ガール」の鬼才デビッド・フィンチャーがメガホンをとり、「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」のオスカー俳優ゲイリー・オールドマンが、不朽の名作「市民ケーン」の脚本家ハーマン・J・マンキウィッツを演じたNetflixオリジナル映画。フィンチャー監督の父ジャック・フィンチャーの遺稿を映画化した。1930年代のハリウッド。脚本家マンクはアルコール依存症に苦しみながら、新たな脚本「市民ケーン」の仕上げに追われていた。同作へのオマージュも散りばめつつ、機知と風刺に富んだマンクの視点から、名作誕生の壮絶な舞台裏と、ハリウッド黄金期の光と影を描き出す。「マンマ・ミーア!」のアマンダ・セイフライド、「白雪姫と鏡の女王」のリリー・コリンズ、テレビドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のチャールズ・ダンスら豪華キャストが個性豊かな登場人物たちを演じる。Netflixで2020年12月4日から配信。一部の映画館で11月20日から劇場公開。第93回アカデミー賞では作品、監督、主演男優、助演女優など同年度最多の計10部門でノミネート。撮影、美術の2部門で受賞した