上海から来た女(1947)

原題は「The Lady from Shanghai

これを「見る」映画というんでしょうね

 

ペン画のような明晰な光と影

上に下にと視点を移動させる撮影スタイル

新しい視覚的表現の可能性の発掘

その後の多くの作品に影響を与えたことがわかります

最初のシーンから痺れる

ニューヨーク、馬車に乗った美しい女にひとめ惚れしてしまった男

男が煙草を渡すと、女は「喫わない」と言っておきながら受け取り

やはり喫うのかと思ったら、それをハンカチでくるみバッグにしまうと

去っていきます

 

この短い仕草だけで、この女がいかに悪い女かわかる(笑)

こんな女に目を付けられた男はもう逃げられない

ファム・ファタル

次の瞬間悲鳴が聞こえ、強盗が女を襲おうとしています

男マイケル(オーソン・ウェルズ)は元船員で腕っぷしが強く

女エルザ(リタ・ヘイワース)を助けると

マイケルの強さを見込んだエルザは

彼を自分の夫で弁護士のアーサー・バニスターのところに連れていき

近くアーサーのヨットでカリブ海を周遊する予定があるので

マイケルを船員に雇いたいと頼みます

エルザが人妻だと知ったマイケルは気乗りしませんでしたが

アーサーの強い勧めもあり、旅に同行することにします

船旅をしているうちにお互い好意を寄せあっていくエルザとマイケル

しかしヨットには召使のほかに、ジョージという

夫が雇った探偵がいて、エルザが浮気しないか監視していました

そのジョージから偽装殺人を頼まれるマイケル

ジョージは今の生活を捨て、別人として生まれ変わるため

5000ドルで自分を殺したと見せかけて欲しいといいます

それだけあれば、エルザと駆け落ちできる

ジョージに言われるまま「殺した」という告白書にサインをするマイケル

 

アカプルコを経由し、サンフランシスコへと到着すると

エルザと水族館に出かけたマイケルは、ふたりで逃げようと誘いますが

エルザは裏があるのではないかと疑っていました

偽装殺人をする約束の日

ジョージを怪しく思っていた、アーサーの執事のブルームは

アーサーを殺してその罪をマイケルに被せるつもりだろうと

ジョージを責めると、ジョージはブルームを撃ち

マイケルと海に行くと、ひとりボートで沖へ漕ぎだします

マイケルは銃を暴発させ、ジョージを射殺したように見せかけるのでした

 

それからエルザに電話を掛けると、出たのは瀕死のブルームで

マイケルがジョージのアリバイ作りに利用されたのだと聞かされます

慌てて屋敷に戻ると、警察に取り押さえられるマイケル

ジョージの死体がヨットで発見され

告白書が決め手となり、ジョージ殺しの容疑で逮捕されてしまうのです

 

マイケルの弁護を申し出るアーサー

しかし裁判が始まると、マイケルとエルザ不倫関係明るみになり

元々擁護するつもりなどなかったアーサーは弁護を棄権してしまいます

評決の日、マイケルはアーサーの持っていた鎮痛薬を奪い過剰に摂取

法廷が騒ぎとなった隙に逃亡し

チャイナタウンにある見世物小屋に潜り込みます

ここからがクライマックス

背後に光る「Sanghai Low」のネオンサイン

京劇を上演している中国人だけの劇場

そして上海から来た女エルザ

金、不倫、欲望のためには殺人もいとわない

チェスで遊ぶ判事、笑い声を立てる傍聴人たち

 

つまり上海とは、ロマン・ポランスキー の「チャイナタウン」と同じ

不道徳で悪徳極まりない人々や、怖い場所のたとえで

黄禍論(アジア人”黄色人種”脅威論)のこと

マイケルはミラーハウスの中にいました

マイケルを追ってきたエルザの手には銃が握られています

エルザは、ジョージを使ってアーサーを殺し

自由とお金を手に入れるつもりでしたが

ジョージが執事のブルームを殺したことで予定が狂い

ジョージを射殺したことを告白します

「おれのことも騙すつもりだったのか」とマイケル

 

そこにアーサーが現れ鏡に映るエルザに向かって発砲

エルザも撃ち返し、相撃ちになり息絶えます

さらにエルザの犯罪を告発したアーサーの手紙が見つかり

マイケルは自由の身となるのでした

 

市民ケーン」にも「第三の男」にも劣らない魔術的な映像

鏡を使ったラストシーンも有名

(パクった「燃えよドラゴン」のほうがもっと有名になったけど 笑)

ただ残念なことに、ストーリーが追いついていなかった

オーソン・ウェルズにとって

不本意60分カットされたこともあるのでしょうが

(しかも修復不可能らしい)

 

離婚寸前だったリタ・ヘイワースとの

冷めきった関係も影響したのでしょうか

悪女だと知っても、愛する女に裏切られた男の悲壮感が全く感じられず

余韻を残さない結果となってしまいました(笑)

 

 

【解説】映画.COMより

ふとしたキッカケで殺人事件に巻き込まれていく男を描くサスペンス・スリラー。製作・監督・脚本は「市民ケーン」のオーソン・ウェルズ、原作はシャーウッド・キング、撮影はチャールズ・ロートン・ジュニア、音楽はハインツ・ロームヘルドが各々担当。出演はリタ・ヘイワースオーソン・ウェルズ、エベレット・スローン、グレン・アンダース、テッド・デ・コルシアなど。

1947年製作/アメリ
原題:The Lady from Shanghai
配給:インターナショナル・プロモーション
劇場公開日:1977年8月6日