過去のない男(2002)

原題は「Mies vailla menneisyyttä」(過去のない男

暴漢に襲われ記憶喪失になった男が、親切な人々に助けられ

救世軍の女性と恋に落ちる

最後ふたりは結ばれ、暴漢たちも成敗を受けるという

難しいところはひとつもない(笑)ハッピーエンドもの

舞台はヘルシンキの湾岸地区

貧しい人やホームレスが多いのですね

行き倒れになっていた男(マルック・ペルトラ)を助けた

ニーミネン(ユハニ・ニーメラ)はコンテナに住み

奥さん(カイヤ・パカリネン)とふたりの息子がいます

男が奥さんに例を言うと、うちは恵まれているのよ

旦那に仕事があって、って言うんですね

旦那、週2日しか働いていないのに(笑)

でニーミネンはニーミネンで、なけなしの金で男にビールをおごる

不幸とか貧乏に慣れすぎていて、悲壮感がないんです

ネクタイを締めて今日は金曜だからディナーに行こうと誘うと

救世軍」の炊き出し(笑)

女性職員のイルマ(カチィ・オウティネン)と知り合います

男が元気になると、ニーミネンや港の住民たちが

新しい生活ができるよう手助けします

港湾警備員のアンティラ(サカリ・クオスマネン)は

男のためにコンテナを手配しますが、がめつく(男にとって)高額な家賃を請求

払わなければ犬に鼻を食いちぎらせると脅します

男はコンテナを掃除し、拾ってきた粗大ごみで快適にします

さすが北欧(笑)壊れた冷蔵庫をテーブルにしたりなんだけど

センスがいい

 

家賃の支払いを待ってほしいという男に

アンティラは約束通り「ハンニバル(人食い)」という名前の

犬を連れてやって来ます

この犬が見るからに優し顔で(笑)襲う気配が一向にない

アンティラは出張の間預かってほしいと

ハンニバル(でもメス 笑)をおいて行きます

可愛くてずっと見ていれるよ、ハンニバル

 

男性は職業安定所に仕事を探しに行きますが

名前が分からないという理由で追い出されてしまいます

路頭に迷っていた男に、イルマは救世軍が経営するフリーマーケットで服を与え

さらに仕事も紹介すると

男とイルマの間にロマンスが生まれます

イルマの慣れない化粧をする乙女さよ

 

さらに男が賛美歌を演奏するバンドに

レパートリーを増やしたほうがいいと提案すると

所長(アニッキ・タハティ)が歌手デビュー(笑)

フィンランドでは超有名な歌手で2017年87歳で逝去)

男性は女性をダンスに誘い、ステージは大成功でした

 

男は造船所の前で作業している溶接工たちを見て

自分が溶接工であることを思い出し、やらせてほしいと頼みます

男の仕事を見た主任らしい男から、うちで働かないかと誘われ

造船所の給与係に銀行口座を開設するよう言われますが

銀行でも名前がないと口座は作れないと断られます

そこに銀行強盗(エスコ・ニッカリ)が現れ

窓口の女は「北朝鮮に買収されたからいいのよ」とあっさり金を渡すものの(笑)

男は女と共に金庫に閉じ込められ

スプリンクラーを壊し、火災装置を作動させ救助を呼びますが

男は警察に逮捕されてしまいます

 

男は救世軍の弁護士(マッティ・ウーリ)によって釈放され

バーでビールを飲んでいると(警察からつけてきた)銀行強盗が現れます

強盗は会社を経営していましたが、銀行に破産させられ口座は凍結

元従業員へ給料を払えなかったことを悔やんでいたのです

男に元従業員たちに金を届けて欲しいと頼み、封筒と謝礼を渡します

(男が去ると銃で自殺)

男が約束通り元従業員たちに封筒を渡し終えると

警察がやってきて、男の身元がわかったいいます

銀行強盗の新聞記事で男の写真を見た

ヌルメス(音楽活動が盛んな街らしい)に住む奥さんから

連絡があったというのです

 

奥さんがいることを知り、ショックを受けるイルマ

忘れないでに「初恋だもの」がジーン・・・

ヌルメスで妻(アイノ・セッポ)と再会、しかし全く思い出せません

妻は男がギャンブル依存症で、喧嘩が絶えなかったこと

ついには会話もなくなり、「南に行く」と言い残し家を出て行ったと

その後離婚が成立したけれど連絡がつかなかったと教えます

妻はすでに違う男性(家や車からして金持ちのようだ)と同居していました

 

普通離婚とか、奥さんに新しい男が出来たとか悲しい話なんですけど

ここは「やった!」ですよね(笑)

ヘルシンキに戻る列車の中

寿司をつまみ、日本酒を飲む男

そこに流れる日本語の、しかもハワイの歌(笑)

クレイジーケンバンドの「ハワイの夜」という曲らしい)

 

男が港に戻ると、男を襲ったのと同じ暴漢たちが

松葉杖の男(障がい者だろう)を襲い、男に向かってきました

そこに港の住民やホームレスたちが集まってきて

アンティラは「救急車を呼ぶより先だ」と言い(救急車が先だろ 笑)

住民たちは暴漢たちを囲み殴打します

 

救世軍バンドが演奏するパーティで

Muistaktko Monrepos'n」という曲が流れる中

フィンランドソ連によって失ったモンレポス公園を懐かしく思う歌)

男はイルマを迎えに行くのでした

フィンランドといえば、福祉や教育水準が高くことで有名で

本作でも「助け合い」がテーマですが

社会的弱者に対しては、差別主義者だけでなく

警察や、銀行や、職安までも厳しいことがわかりますね

 

そんな政府に対する怒りや批判を、絶妙にカムフラージュして

「お笑いぐさ」にしてしまう(笑)

なのに、映画全体を包み込んでいる優しさという成分(笑)

 

誰でも作れそうだけど、誰にも作れないのが

アキの凄さのひとつなんでしょうね

 

 

【解説】映画.COMより

夜行列車でヘルシンキに着いた男が、暴漢に襲われて重傷を負い、極貧の一家に拾われて命は取り留めるが、記憶喪失に。日雇い労働をして暮らすようになった彼は、救世軍で働く女性イルマと出会い、心を通わせていく。アキ・カウリスマキ監督作の常連ヒロイン女優オウティネンが、本作で02年カンヌ映画祭主演女優賞を受賞。フィンランドのムード歌謡=イスケルマの名曲の数々とともに、監督がファンだと公言するクレイジーケンバンドの「ハワイの夜」が挿入歌として登場。

2002年製作/97分/フィンランド
原題:Mies vailla menneisyytta
配給:ユーロスペース
劇場公開日:2003年3月15日