原題は「ARIEL」(アリエル 船の名前)
アキ・カウリスマキの「労働者3部作」の第2作目
アキが自身の作品の中でもイチバンのお気に入りだそうです
(乗っていたバイクにも「ARIEL」という名前をつけたそう)
実にシンプル
他の監督なら、いかようにも膨らませようとするところを
余計な前置きはない、余計な事も喋らない
徹底した省略
だからこそ、短いセリフが胸に突き刺さります
男は笑っちゃうくらい不運
働いていた炭鉱が閉山となり、父親は自殺
全財産盗まれる
強盗を見つけると、逮捕されたのは自分のほう
何ら落ち度は無いのに、人生が真っ逆さまに下降していくばかり
そんなどん底の男を、アキはユーモラスに
時に温かい眼差しで描いていく
真冬に幌の閉まらないオープンカー
灰皿から吸殻を拾い吸う煙草
刑務所で作る指輪
最後に閉まるオープンカーの幌に泣ける
そして流れる「Over The Rainbow」(フィンランド語版)
ロードムービー、家族、ラブストーリー、男の友情
社会問題、ハードボイルド、刑務所ドラマを詰め込んだ
わずか70分(笑)
見終えた後は不思議とやさしい気持ちになれます
炭鉱労働者たちが長年働いていた鉱山を取り壊しています
カスリネン(トゥロ・パヤラ)の父親は
彼に古いキャデラック・コンバーチブルの鍵を渡し
銃身自殺しました
カスリネンはコンバーチブルで、あてもなく南部に向かいます
(ナイスなタイミングで車庫が崩壊)
辿り着いたヘルシンキで強盗に全財産を奪われ
日雇いの仕事を見つけ、安いホテル泊まり
路上駐車の違反切符を切っているメーター係の女性、イルメリを食事に誘う
「あたし子供がいるのよ」
「作る手間が省ける」
すぐに彼女の家でベッドイン(笑)
翌朝イルメリの息子がピストルを向けてくる(アメコミが大好き)
デートはラジオを持って海岸に行くだけ
ただ寝そべって目も合わせない
だけど幸せそう
幌が閉まらなくて寒くても、「気持ちいい風だね!」と言う息子(笑)
ある日食堂で自分から金を奪った強盗を見つけたコカスリネンが
強盗に襲いかかりナイフを奪うと
やって来た警察官に逮捕されたのはコカスリネンでした
刑務所で同房になったのがミッコネン(マッティ・ペロンパー)
無言でカスリネンに煙草とマッチを放り投げ(かっこいいぜ)
それを無造作に受け取り、投げ返すカスリネン
殺人の罪でシャバに出られる見込みはないというミッコネンは
人生を達観してるという感じ
(刑務所の方がシャワーも食事もあって宿泊施設より待遇がいい)
刑務官にバカにされ暴力をふるったせいで刑期が伸びたカスリネン
イルメリが差し入れた(誕生日じゃないけど)誕生ケーキの中には
脱獄用のヤスリが隠されていました(アメコミからヒントを得た)
ミッコネンと協力して脱獄を決行し、あっさり成功(笑)
ショーウインドウをのガラスを割り
次の瞬間にはビシッと決めたスーツ姿
カスリネンはミッコネンを媒酌人としてイルメリと結婚
息子を閉め出し、寝室に籠る
しかし息子がノックし「パパ、警察だよ」
ここにいても捕まるのは時間の問題
カスリネンとミッコネンは国外逃亡するため
偽造パスポートの資金調達のため銀行強盗へ向かいます
やはり次の瞬間には銀行から出てくる(笑)
ところがミッコネンが偽造パスポートを提供する男と支払いを巡ってトラブル
ミッコネンは男を殺し、金とパスポートを奪いますが
自らも致命傷を負ってしまいます
「ゴミ捨て場に埋めてくれ」
望み通りミッコネンをゴミ捨て場に埋めるカスリネン
ミッコネンが教えてくれたメキシコ行きの船の名前は「アリエル」
カスリネンとイルメリと息子の3人は
「アリエル」に向かう小さなボートに乗り込むのでした
人間にとって本当に必要な物はほんの少し
身の回りの不要なものを捨てたくなります (笑)
【解説】映画.COMより
南を目指す男の波乱万丈な旅を、アキ・カウリスマキ監督らしい淡々としたタッチで描く。失業したカスリネンは、自殺した父のキャデラックではるか南を目指す旅に出た。ところが途中で強盗に全財産を奪われ、日雇い仕事に出た帰りにイルメリという女性と知り合う。ある日彼は、金を奪った強盗と再会し捕まえようとするが、逆に警察に連行されそのまま投獄。イルメリの助けを借り、刑務所仲間のミッコネンと共に脱獄するのだが……。
1988年製作/73分/フィンランド
原題:Ariel