マッチ工場の少女(1990)

原題もTulitikkutehtaan tytto」(マッチ工場の女の子)

アキ・カウリスマキ労働者三部作」の3作目

2作で多少なりともあった救いは全くありません

最もシュールでブラック

ヒロインは「少女」というより、アラサー(笑)

(演じたカティ・オーティネンもこの時29歳)

これは実年齢でなく、「少女」のように純真とか

世間知らずだという意味だと思います

そしてマッチ棒と同じ、使い終わったらポイ捨てされるのです

だけど、やっぱりちょっと笑っちゃう

この世に「性善説」なんてない

「こんな人生クソ喰らえ」感が堪らない(笑)

特にヒロインの気持ちを代弁するような

次々流れる挿入歌の歌詞がドはまり

♪お前はブスだと他の奴らは言うけれど

♪俺は構わねえよ・・・

まずは仕事場

このマッチを作る工程がずっと見ていれる(笑)

 

工場で働くイリスは、仕事が終わればバスに乗り趣味のロマンス小説を読み

食料品店で買い物をし、自宅に帰ると

タバコを吸ってテレビを見ているだけの母とその愛人

天安門広場での虐殺

シベリアのガス爆発で大勢の死者がでる

イランのホメイニ師の死

(明るいニュースがひとつもない 笑)

晩ごはんを作り、皿を出し盛り付ける

コインランドリーに行って洗濯

洗濯が終わるとアイロンがけ

 

友人と飲みに行ってもダサい服

ダンスに誘ってくれる男はいない

稼いだ給料は全て母と愛人に渡しています

給料日、ショーウィンドウに飾られたドレスを買ったイリスは

封筒の現金が明細と違うことを知った愛人から「売春婦」と殴られ

母からは「返品してきな」のひと言

 

返品しにいくと思いきや、イリスは有料のシャワールームに行き

ドレスを着て化粧をする

クラブに行くと男(ヴェッサ・ヴィエリッコ)がチークダンスを誘います

イリスの顔に安堵の笑みが浮ぶ

グラスに残ったジュースの量で時間の経過がわかるんですね

最初に友人と行ったクラブでは、瓶が5本も足元に(笑)

 

そのまま男(金持ちのようだ)の部屋で一夜を共にするものの

翌朝、男は彼女の枕元へお金を置いて仕事に出かけてしまいます

イリスは「どうかお電話下さい」とメモを残し

兄に会いに行き「たまには家へ帰って」と伝えます

「あの男まだいるの?」とイリスを不憫の思った兄は

少しのお金と、プチトマトのサンドイッチを渡すのでした

工場に行き「電話が来たら更衣室へ回して」と事務員に伝えるエリス

しかし男から一向に電話はありません

家へ帰るとテーブルの上にプレゼントが置いてあり

中身は 「海賊物語」という本

その日はイリスの誕生日で、母親から贈られるのが毎年これ(笑)

 

同じ本何冊も並ぶ本棚にその本を並べ

ひとりカフェに行き

ケーキを注文して泣いてしまう

イリスは堪らず男の部屋に行くことにしました

「お会いしたくて」

男の態度は冷たいものでしたが

律儀にも「明日家に迎えに行く」と約束してくれます

 

翌日男がやってくると

イリスだけでなく、母と愛人までが有頂天

小奇麗にして男を迎え、お茶やお菓子を勧めます

(娘に金持ちの男を捕まえて欲しい、という気持ちがミエミエ)

男は食事に行ったレストランで、きっぱりと告げます

「勘違いしないでほしい」

「一夜のお遊びだよ これっぽっちも愛しちゃいない」

幸せの絶頂から絶望の底に突き落とされたエリスは

男の前から去っていきました

 

ある日、工場で気分が悪くなったエリス

病院に行くと妊娠していたことがわかります

「順調に育っていますよ」

エリスは男に手紙を書きます

「私を愛してくれることはないでしょう」

「でも子どもは可愛い 考え直してみてください」

重要と思う時だけお返事を」

 

しかし男から届いた返事は

タイプライターで打たれた「始末してくれ」のひと言と

10,000マルッカ(約25万円)の小切手でした

母は眉をひそめ

イリスは家を飛び出し、足早に通りに出ると車にはねられ

(自殺しようとしたのかも)流産してしまいます

病院にやって来た母の愛人は

心労で病気になったから、家を出て欲しいと言う

荷物をまとめ、兄に厄介になることにしたイリス

この兄のキャラクターは、アキの兄ミカ・カウリスマキ

ゾンビ・アンド・ザ・ゴースト・トレイン」という作品と

関連があるようです

兄のアパートにはビリヤード台やジュークボックスがあり

そこで意を決したイリスは、薬局に殺鼠剤を買いに行きます

「効果は?」

「イチコロ」

「素敵」

殺鼠剤を水に溶かし瓶に詰め替え

男の部屋を訪ね(新しい女が出てくる)酒を頼み

男が氷を取りに行った隙に、男のグラスに殺鼠剤を入れる

「お別れにきたの もう心配いらないわ」 と小切手を返し

イリスが部屋を出ると、安心した男が酒を口にする

バーに向かったイリスに、ヘラヘラとした男が声をかけ隣に座ると

イリスは微笑み、彼のグラスにも殺鼠剤を入れる

 

最後にイリスが向かったのは実家でした

稼ぎ頭のイリスがいなくなり、代わりに母親が働いています

(愛人は家にいる)

イリスは母親の帰りを待ち、料理を作り

食卓の水のボトルに残りの殺鼠剤を全て入れます

自分の部屋で煙草を吸い

母たちが食事をしていた音が突然消えると、家を出ていくのでした

 

いつもと同じようにマッチ工場で働くイリスのもとに

2人組の警察官がやって来てイリスは連行されてしまいますが

彼女の姿には清々しいものがありました



【解説】映画.COMより

フィンランドの田舎町。マッチ工場で働いて稼いだ僅かな金で母と義父を養う少女イリス。ある日彼女は、もらったばかりの給料で自分のドレスを買ってしまう。 怒った義父は彼女を殴り、母はドレスの返品を命じる。とうとう我慢できなくなった彼女は、家を飛び出してディスコへ向かい、そこで出会った男性と一夜をともにする。しかし彼女は彼にも裏切られ……。監督は「レニングラードカウボーイズ」シリーズのアキ・カウリスマキ

1990年製作/70分/フィンランド
原題:Tulitikkutehtaan tytto
配給:アルシネテラン