やすらぎの森(2019)

「地球の裏側の中国人や日本人は

 落っこちないように磁石の付いた靴履いてるんだと思ってた」

 

原題は「Il pleuvait des oiseaux」(鳥たちが雨のように降ってきた)で

山火事森を飛んでいた鳥達が炎と煙に煽られて落ちてくる様のこと

カナダのケベック州にある人里離れた深い森の湖のほとりで

チャーリー、トム、ボイチャックの年老いた3人の男が

愛犬たちと一緒に静かに暮らしていましたが

画家をしていたボイチャックが死んでしまい

 

そこに美術館の依頼で古い森林火災について調べている写真家の女性

ラフが「伝説のボイチャック」を探しに来ます

さらに(森の近くのホテルの支配人をしている)甥のティーの助けで

精神科療養所から逃げ出したガートルードという老女が

マリー・デネージュと名前を変えてやってきて

チャーリーとトムの平穏だった生活が乱されます

 

やがてチャーリーとマリーは愛し合うようになりますが

森の小屋に山火事が迫り

彼らはここを離れるか、残って死ぬかという決断に迫られる・・・

という話

特別良い映画だとか、感動したというわけではありませんが

考えさせられる部分は多々ありました

 

ちょうどニュースで、イギリスで終末期の患者に対して

安楽死を選ぶ権利を認める法案が賛成多数で可決され

賛成派、反対派の団体がそれぞれデモをやっているのが報道されていて

オランダ、ルクセンブルク、ベルギー、カナダ、オーストラリアの一部

ニュージーランド、スペイン、コロンビアの国・地域などで

積極的安楽死と医師幇助自殺の両方がすでに容認されていると知りました

私は尊厳死安楽死には賛成派なんですね

できれば終末期といわず、高齢や脳梗塞などで

肉体的に身動きが取れなくなった時には

認知になる前に自分の意志で死を選びたい

チューブに繋がれ自分の意思に反した延命治療などまっぴらごめん

 

もちろん反対派の人の意見も尊重します

助かる命であるならば、延命もどんな高度治療も

自分の意志で受けるべきだと思います

チャーリー、トム、ボイチャックの3人は世捨て人ですが

チャーリーは退職金、トムは歌手、ボイチャックは画家として

いくらかの生活資金はあるようです

さらに大麻を栽培して収入を得ているんですね

湖で泳いだあと心臓発作を起こしたボイチャックは

自分の死を悟って、あらかじめ掘っていた墓穴に入ります

そして愛犬と共に青酸カリを飲んで心中しまう

3人は誰にも迷惑をかけないで死ねるよう

それぞれ青酸カリを持っているんですね

ここでひとつめ問題(2択)

愛犬を道連れにするのは許されない

飼い主のエゴなのか

それとも

愛犬を残しては逝けない

犬のほうも主人と一緒に旅立つほうが幸せなのか

私は人間に飼われている動物も終末期は安楽死賛成派です

(犬がまだ若く健康であったなら話は別)

たぶんこの3人も命を絶つときは、愛犬と共に絶つと

約束していたんじゃないかと思います

そこにガートルードが登場

彼女には子どもの頃からスピリチュアル的な能力があったせいで

16歳のときに宗教上の理由で)精神科センターに抑留されてしまいます

ティーブの父ガートルードの兄が死に

葬儀のため60年ぶりに精神科センターを出で

センターに戻りたくないというガートルードをスティーブは

チャーリーとトムの住む湖に連れて行き匿ってもらおうとします

チャーリートムは、ババアが森で暮らせるものかと嫌がりますが

ガートルードは薬を止め、自然と触れあっていくうち

予想に反してどんどん元気に(笑)

チャーリーはガートルードと親しくなっていくうちに

長年森で暮らしてきて唯一克服出来なかったもの

それが孤独と、女性との愛だと気付きます

 

夜を共にするようになり、お互いの過去を告白し

やがて結ばれる

ここからふたつめの問題

80歳の男女のセックスをどう受け止めるか

これを美しいシーンだと思うか

そうでないと思うかやはり別れると思うんですね

私は身体の繋がりより、精神的な繋がりを描いて欲しいと思いましたが

でももし自分が80歳になった時に

エド・ハリスロバート・デュバル

晩年のショーン・コネリーのような爺に口説かれたらどうする?って

考えたら悩みますね(勝手に妄想していろ)

普段彼らに食事や日用品を運んでいるのがティー

ホテルで勤務中にマニアな映画を見たり大麻を喫ったりする男だけど

ラフはまんざらでもなく(笑)あっと言う間に仲良くなり

ラフは死んだボイチャックの小屋でたくさんのキャンバスを発見

ラフが生存者たちから聞いた山火事の場面そのもの

森が燃え、鳥たちが落ちてくる光景が絵画として描かれていました

そのなかに1枚だけ、黄色の女性の肖像画を見たガートルード

「彼女は恋をしている」と言います

ボイチャックには結ばれることのなかった恋人がいたのです

トムはアルコール依存症の元ミュージシャン

飲んでは吐き(笑)トム・ウェイツの曲をギターで弾

ときには街バーステージでいます

そんな中、山火事が起こりどんどん大きくなり近づいてくる

しかし山火事が到達したかどうかわからないまま物語は終わります

 

ただ、ラフの写真展とボイチャックの個展が成功した様子と

町で一緒に暮らす(森が失われ新たな生活を始めたということだろう)

チャーリーとガートルードの姿が映し出されるのでした

残念だったのはキーとなる「山火事」というテーマが

(日本人だからかも知れないが)伝わってこなかったこと

何もかも燃えて破壊し、多くの命を奪う恐ろしいものだとわかっていても

「犬」と「老いらくの恋」の問題しか残りませんでした

(お前が勝手に問題にしただけだ 笑)

 

 

【解説】映画.COMより

カナダ・ケベック州の深い森で静かに暮らす年老いた世捨て人たちの姿を描いた人間ドラマ。カナダ・ケベック州、人里離れた深い森にある湖のほとり。その場所にたたずむ小屋で、それぞれの理由で社会に背を向けて世捨て人となった年老いた3人の男性が愛犬たちと一緒に静かな暮らしを営んでいた。そんな彼らの前に、思いがけない来訪者が現れる。ジェルトルードという80歳の女性は、少女時代の不当な措置により精神科療養所に入れられ、60年以上も外界と隔絶した生活を強いられていた。世捨て人たちに受け入れられたジェルトルードはマリー・デネージュという新たな名前で第二の人生を踏み出した。日に日に活力を取り戻した彼女と彼らの穏やかな生活。しかし、そんな森の日常を揺るがす緊急事態が巻き起こり、彼らは重大な決断を迫られるようになる。監督は本作が3本目の長編劇映画となるケベック出身のルイーズ・アルシャンポー。

2019年製作/126分/G/カナダ
原題または英題:Il pleuvait des oiseaux
配給:エスパース・サロウ