雑誌「BRUTUS」が4万通のアンケートを集計した
「観た後も心に残る感動を―映画好きが選ぶ“沁みる映画」で
20代以下のベストワン、総合でも3位に選ばれた本作
(総合1位は「ニュー・シネマ・パラダイス」2位は「PERFECT DAYS」)
評価の高い作品なので、一応見てはいたのですが
すいません、ほとんど内容を忘れていました(笑)
でも2度見て正解だったと思います
なぜならラストにネタバレしてから、もう一度見直したほうが
理解できたような気がしたからです
それにしても、こういうマイノリティなテーマの作品をベストに選ぶなんて
今の若い映画ファンは感性が鋭いというか、大人ですよね
ちなみに私なんかずっとモヤモヤした感覚を抱えてしまったうえ
かなり独自の解釈ですので(笑)
この映画のファンの方はあまり参考にしないでください
原題の「Aftersun」とは” 日焼けした後に塗る保湿ローション”のこと
1990年代後半、スコットランに住む11歳のソフィーは
ロンドンで暮らす30歳の父親カラムと一緒に
トルコのリゾート地オルデニズで夏のバカンスを過ごすことになり
ふたりはその様子をビデオカメラ(パナソニックのMiniDV)で録画します
映画はこのMiniDV(記録)と
35mmフィルム(大人になったソフィーの記憶)の
映像から成り立っていて
最初父親の態度はぎこちない
そりゃそうですよね、7歳とは違う
11歳という大人になろうとしている娘とふたりきりというのは
いくら親子でも気を使って当然
だから父親はベッドルームがツインでなかったことにホテルを抗議しています
でも理由はそれだけじゃなかった
父親の死ありき、という構成なので
あらゆるシーンで死を感じさせるメタファーがあるのです
時折見せる悲しい表情、泣いているだろう背中
意味深なことばの数々
一方のソフィーも、他の滞在者といえば小さな子ども連れの家族か
高校生か大学生の若者グループ
同年代といえばゲームセンターで出会った冴えないマイケルだけ
日光浴するだけの退屈な時間を過ごすしかない
それでもソフィーを気にかけ
時間ごとに日焼け止めローションを背中に塗ってあげたり
スキューバダイビングに連れて行く父親
そこでソフィは高価なスキューバマスクを失くしてしまいます
ソフィは父親がこの旅行に(金銭的に)無理して来ていることを
わかっているんですね
父親が内心落ち込んでいると思い謝ります
驚いた父親はなぜか、ダイビングインストラクターに
(自分が)「30歳まで生きられたことに驚いた」と話します
だんだんと距離は縮み、ふたりは親密になっていくのですが
ここから更に父親の不思議行動が始まります
ふたりでトルコ絨毯の店に行くと
父親は気に入った絨毯を買おうか悩みますが
850ポンド(約17万円)もするので一旦は諦めますが
しかし後でひとりで店に行き結局購入してしまいます
その夜、カラオケ大会(大衆の前でステージで歌う形式)に参加すると
ソフィが「パパが好きな曲だから」とR.E.Mの
「Losing My Religion」(宗教(信仰心)を失う)をエントリー
しかし父親は拒否し、ソフィーひとりで歌うことになります
これが残念なことに上手くないんですね
父親は「歌のレッスンを始めればいい」と慰めますが
(一緒にステージに上がってくれなかったことに怒っている)
ソフィーは「お金もないくせに」と返してしまいます
気を悪くした父親はホテルに戻ると言い、ソフィーはまだ残ると言う
ひとりでホテルの部屋に帰ってしまう父親
いくら安全なリゾート地でも
11歳の娘を夜中に置いていくなんて考えられませんね
ソフィーは(顔見知りの)若者たちのグループと時間を潰し
(年頃の女子の恋愛事情を知ったり、ドリンクのフリーパスをもらう)
帰り道に迷ったところを、マイケルに驚かされます
マイケルのお家は金持ちなのでしょうね
プライベートのプールサイドで告白され、キスをするふたり
そのプールの水面には、窓ガラスを叩く父親の姿が写っています
これって父親がソフィーを探しに屋根に登ったのでしょうか
(それともマイケルに嫉妬した、生霊ってやつ?笑)
それから父親はビーチに行き、波の中を歩いて行き姿を消します
死んだのか?と思うわけですが
その後ソフィーが部屋に戻ると鍵がかかっていて入れない
階段から男の子ふたりがキスしているのが見える
マイケルとのキスには何も感じなかったのに
同性のキスには妙に感心を持ってしまうソフィー
フロント係に鍵をあけてもらうと
父親は全裸でうつぶせになって寝ていました
ソフィーは父親にシーツをかけると、簡易ベットで眠りにつくのでした
翌日、父親は昨夜の振る舞いを謝り
ソフィーはマイケルとキスしたことを告白
父親は「同じ年頃の子だからいいか」と、ふたりは仲直りします
(大人だったら殴っていたということか ← そりゃそうだ)
そして「何でも話してくれ」と「たばこも」「マリファナも」
「生きる場所を見つけ、なりたい自分になりなさい」とアドバイスします
さらに次の日は泥風呂と景勝地に行くバスツアーに参加
旅も終わりに近づき、最高のバカンスだった
ずっとパパと一緒にいたいとねだるソフィー
そしてその日は彼の31歳の誕生日
ソフィは父親へのサプライズに
他の観光客たちも誘って「彼はいい人」の歌をプレゼントします
「彼は いい人」
「彼は いい人」
「みんなそう言う」
「おめでとう」
だけど父親はその様子を冷ややかに見つめていました
そこに、ホテルのベッドで全裸の父親が背中を向けて咽び泣く姿が重なり
足元にはカードが落ちています
「ソフィ 愛してるよ
忘れないで パパより」
赤ちゃんの泣き声で見ざめた、大人になったソフィー
「私が見てくる」と起き上がると、パートナー(女性)が
「ハッピーバースディ、ソフィ」と呟きます
その日はソフィーの31歳の誕生日でした
部屋には20年前父親が買った絨毯が敷かれています
ビデオの横に積まれているのは「How To Meditate」(瞑想)
「Being Aware of Being Aware」(気づくことを認識する)
「Tai-Chi」(太極拳)という本
ソフィーはひとり、MiniDVを見ます
しかし大人のソフィーの顔は嬉しそうでも
父親を懐かしむようでもありません
最後の夜、父親はレイヴ(ダンスミュージックのイベント)で
ソフィーに一緒に踊ろうと誘います
(レイヴには大人になったソフィーの姿もある)
いままでにないくらい陽気な父親がQueen & David Bowie の
「Under Pressure」(プレッシャーの下)の曲にあわせて踊ります
♪ love love love…
Can't we give ourselves one more chance?
僕たちにもう一度チャンスを与えてみないか?
Why can't we give love that one more chance?
愛にもう一度チャンスを与えてみないか?
Why can't we give love, give love, give love, give love
僕たちは愛を信じてみないか?
Give love, give love, give love, give love, give love?
愛を、愛を…
父親がソフィーを激しく抱きしめる
11歳のソフィーも父親を抱きしめる
でも31歳のソフィーは「会いたかった」でもない
「どうして死んでしまったの」でもない
嫌悪感露わに父親を突き放してしまうのです
そして11歳の笑顔のソフィと入れ替わる
父親と同じ年齢になったソフィーは、父親と撮ったMiniDVを見て
なぜ父親が死んだのか(自殺したのか)
その真実を探ろうとしたのでしょう
積んである本もそのため
しかしビデオを見終えたソフィは悲しい表情で視線を落としてしまいます
たぶんソフィーは11歳の時には気付かなかった
あるいは忘れていたことを思い出してしまったのです
・・・「彼はいいひと」じゃなかった
それは、見る人の想像に委ねられていて
何であったか明かされることはありません
もしかしたら父親は犯罪者で逃亡者だったかも知れないし
(豪華なロングバケーションをできる身分じゃなかった)
もしかしたら精神的な疾患を患っていたかも知れないし
もしかしたらソフィーと、父娘を超えた
恋人のような関係になってしまったのかも知れません
ソフィーがカラオケで歌った「Losing My Religion」
それはその時の父親の心情そのものでした
I thought that I heard you laughing
君が笑っているのを聞いた気がした
I thought that I heard you sing
君が歌っているのを聞いた気がした
I think I thought I saw you try
君がそうしようとしたのを見ただけなのだろう
But that was just a dream
でもただの夢だった
That was just a dream
夢でしかなかった
ソフィーに「さよなら」のカードを書いて入水自殺を決意する
でもソフィーを母親のもとに帰すまでと、留まったのです
空港でスコットランド行きの飛行機に乗るまでソフィを撮影する父親
別れを惜しんで何度もバイバイするソフィー
ソフィーが去ったあと、カメラを片付けた父親は
長い廊下の先のレイブの行われているドアを開けます
レイブと死だけが、彼が逃避できる場所だったのです
【解説】映画.COMより
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。
テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
2022年製作/101分/G/アメリカ
原題または英題:Aftersun
配給:ハピネットファントム・スタジオ