にっぽん昆虫記(1963)

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自分の描きたいテーマを徹底的に調べぬくことから

「調査魔」とまであだ名された今村昌平

本作の映画化のため当時の日活の専務を出張先まで追いかけていき

風呂場で背中を流してまで、企画を口説き落としたという力作

 

ちなみにこのころ今村の奥さんが、近所の奥さんを集めて

アニメのセル画の着色の収入で、監督を支えていたのも有名な話

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タイトルの由来は、生殖本能本位で生きる人間の姿を

昆虫観察のように客観的視点で描いたことから

女も虫も、ジタバタしながら案外長らく生きながらえる

(冒頭の地面を這いつくばる虫は「ゴミ虫」の仲間)

今のハリウッドなら差別だ#MeTooだと叩かれそうですな(笑)

 

在日韓国人小沢昭一)もあんな描かれ方したら

炎上どころか、毎日ワイドショーで取り上げられ確実に訴えられそうです

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東北の寒村、娘のとめが生まれたと喜ぶ知的障害の百姓、忠治(北村和夫)に

(女の子だとわかり、殺したいときには腹に戻すのか)

妻のえん(佐々木すみ江)はヤリマンだから誰の赤子かわからんと笑う

役所の職員たち

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それからもえんは近所の情夫(桑山正一)と納屋でヤリまくり

それを見たとめ(5歳くらいになっている)は

「(一緒に寝てるので)おらもおっとうと夫婦か」と忠治に尋ねます

「んだ、夫婦だ」と答える忠治

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そりゃあ、うちの息子たちも小さいときは

「おかあさんと結婚する」「お嫁さんになって」とか

可愛いこと言ってくれましたが(笑)

 

ここでは、ちょっと違う

娘がファザコンというより、秘境独特の閉鎖的な

(血の繋がりはないので近親相姦にはならないとしても)

親子や老若を問わない、奇妙な性的関係を漂わせます

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昭和17年、23歳になったとめは母えんによって

地主の三男坊に足入れ婚させられ妊娠

しかし三男坊は内縁の妻の女中と、子までいました

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父忠治のもとに戻り翌年娘の信子を出産

乳が張るからと父に乳を吸ってもらうという(早口言葉ではない)

食糧事情を考えると(栄養価は高いので)捨てるのはもったいないのもわかるし

母乳プレイというのもあるけど(それは別の変態)

こういうことは珍しいことではなかったのかもしれませんが

父娘というシチュエーションは居心地が悪いですね(笑)

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26歳になったとめは信子を忠治に預け

製紙工場に働きに戻り、係長(長門裕之)と肉体関係を持ちます

が、とめが組合活動に夢中になりすぎたのと

係長が昇進したのをきっかけに、係長には捨てられ会社もクビ

(ところどころ挿入される川柳がツボ 笑)

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30歳、上京しアメリカ兵の愛人(春川ますみ)宅の家政婦として働くようになりますが

アメリカ兵と愛人の寝室をのぞき見している間に

その家の娘がシチューの鍋をひっくり返し火傷死してしまいます

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罪を償うため新興宗教に入信したとめは

そこで売春宿の女将と知り合い、女中として雇ってもらうと

やがて客がつくようになり、問屋の主人のパトロンもできて

やり手の女衒(ぜげん=売春を斡旋する仲介)となります

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この当時は戦争のおかげで、圧倒的に若い男が少なくて

女が余っているんですね

しかも娯楽がないので、男女とも性欲を消費することが

人間の業そのものになっている

浮気も、妾も、愛人も、売春も

お金さえあれば、あたりまえの状態

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しかしとめが、パトロンの唐沢(河津清三郎)に貢ぐようになり

雇っていた女たちを邪見に扱い、彼女たちに逃げられた挙句

密告され逮捕されてしまうのです

娘を育てるために恥も外聞も捨てて頑張ってきたはずが

自分でも気づかぬうちに搾取されるから、搾取する側に回っていいた

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しかも、とめが刑期を終え出所すると

仲間と農地を開拓するための資金20万を貸して欲しいとやってきていた

娘の信子(吉村実子)が、資金提供を交換条件に唐沢の愛人になっていました

信子の若い肉体に溺れる唐沢

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しかし信子はとめや唐沢にしてみれば、はるかに現代っ子でした

お金と、性と、愛情は全く別物

うまいこと唐沢から20万円だまし取り、田舎に帰って再び農作業に励み

(大型トラクターを運転する姿が頼もしいぜ)

不安そうな恋人に、腹の子はあなたの子だと言いきるのです

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東京で唐沢との生活を守ろうと、信子に会うため

故郷に向かう田舎の砂利道を歩くとめ

老いて子に頼るのもまた、生き物の真理

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今村の描く人間像は誰もがたくましいし、生命力しか感じない

(死ぬ間際まで”チチ、チチ”だからな 笑)

そこに左幸子の凄まじい演技力が、さらなる相乗効果をもたらしている



これもひとつの日本の戦後史

傑作に違いありません

 

 

【解説】今村昌平長谷部慶次とともに書いたオリジナル脚本を監督し映画化。コールガール組織のマダムになった女の半生を、昆虫観察のような視線で描いたドラマ。大正7年に東北の農村で生まれた松木とめは、23歳で製糸工場の女工して働き始めた。しかし地主の本田家へ嫁入りさせられ、出征する俊三に抱かれ妊娠する。娘の信子を出産したとめは本田家を出て製糸工場に戻り係長と関係を結ぶようになるが、会社をクビになってしまう。とめは単身上京し、売春を始める。コールガール組織を作るまでになったとめは、故郷から父親と娘を呼び寄せた。