枯れ葉(2023)

原題は「Kuolleet lehdet」(落ち葉)

ユーロスペースにて「愛すべきアキ・カウリスマキ」特集

渋谷に行ったのは何年ぶりでしょう(笑)

監督引退宣言から6年ぶりの新作

反戦映画であり、小さな恋の物語ですが

アキの映画愛がいっぱい詰まっていました

音楽、酒、煙草、男と女、そしてワンコ

時代設定は定かではありません

古い真空管のラジオから

ロシアによるウクライナ攻撃のニュースが常に流れています

携帯電話はありますがメールの機能さえついていません

極めつけは煙草の吸殻をポイ捨て

でもカレンダーは2024年(笑)

それでも、歌われる歌が、使われているサントラが

映画のポスターまでがストーリーを見せて来れる

しかも「逢引き」「軽蔑」「気狂いピエロ」「ラルジャン

シシリアン」「若者たち」・・と

ムービーファンにとって痺れるものばかり

 

恐竜のポスターは「恐竜100万年」でしょうか?

(伯爵に聞いています 笑)

スウェーデン語のタイトルは「空気のない世界」のようです

【以下ネタバレを含みます】

ヘルシンキのスーパーマーケットで働くアンサは

賞味期限切れで廃棄する食品を困っている人に与えていたところを見つかり

ゼロ時間契約(雇用主は従業員に最低労働時間を保証する義務がない)のため

クビになってしまいます

電気代も払えなくなり、パブに皿洗いに行くものの

給料日に、麻薬取締法違反で店主が逮捕されてしまいます

そこにカラオケバーで知り合った男性、ホラッパが偶然やって来て

無一文の彼女にコーヒーとパンを奢り、映画を見に行こうと誘います

初めてのデートはジャームッシュの「デッド・ドント・ダイ」

ホラッパは「ゴダールの”はなればなれに”みたい」だったと感想を述べ

アンサはメモに電話番号を書いて渡しますが

ホラッパはそれを失くしてしまいます

本当に”はなればなれに”なるふたり(笑)

ホラッパは(彼女が近所だと言っていた)映画館の前で待ち続けることに

そうしてふたりは再会、アンサはホラッパを夕食に招きます

でも彼がアル中であることは一目瞭然

北欧でアルコール依存症は社会問題のひとつ(おまえの問題もな)

彼だけは他の男性と違うと期待していたのに・・

アンサはきっぱり別れを告げます

アンサはプラスチックのリサイクル工場で肉体労働の仕事に就き

同僚が餌付けしている野良犬をもらうことにします

その貧相な雑種犬が実に愛くるしい

体を洗ってあげて、ブルブルしたときなんて

演じてる女優さんも思わず本気の笑みを浮かべていましたね(笑)

職場で事故を起こし、アルコール検査で陽性が出てしまったため

仕事をクビになってしまうホラッパ

さらに次の建設現場でも酒を飲んで仕事をして

クビになってしまいます

ついに酒を止め、安ホテルに泊っていたホラッパはアンサに電話をかけます

「すぐに会いに来て」とアンサ

でもいくら待ってもホラッパはやって来ませんでした

そんなある日の犬の散歩中、ホラッパの親友フータリとばったり会ったアンサは

ホラッパが電車事故で意識不明になっていると教えられます

急いで病院に行き彼に話しかけるアンサ

(それがまたしょうもない雑誌の見出し記事を読むだけという 笑)

やがて意識が回復し退院するホラッパ

デートのためならと、上着をくれた同じホテルの宿泊客

元夫のだからと、スーツ一式用意してくれる看護師

さらに(貸すのではなく)返さなくていいし、お礼も不要と伝える潔さ

皆が無愛想で、冷めていて、テキトー

温かい言葉のひとつもない

だけど、これが本当の優しさ

なぜかって?

言葉ではなく、行動で示しているから

松葉杖でアンサと犬を追いかけるのホラッパ

「犬に名前はあるのかい」

「あるわ、チャップリンよ」

そうだよね

チャップリンの名言すべてが、アキそのもの(笑)

「落ち葉」とはたぶん、仕事も家族もないまま人生後半

社会から必要とされず踏みつけられている人間たちのこと

でもそんな男女にも、勇気があれば誰かを好きになれるし

先にあるのは微かな灯火だけだとしても、人生やり直すことができる

アキにしかできない窮困者たちへのエールだと思いました

アキ・カウリスマキからのメッセージ】

「取るに足らないバイオレンス映画を作っては自分の評価を怪しくしてきた私ですが、無意味でバカげた犯罪である戦争の全てに嫌気がさして、ついに人類に未来をもたらすかもしれないテーマ、すなわち愛を求める心、連帯、希望、そして他人や自然といった全ての生きるものと死んだものへの敬意、そんなことを物語として描くことにしました。

それこそが語るに足るものだという前提で。
この映画では、我が家の神様、ブレッソン、小津、チャップリンへ、私のいささか小さな帽子を脱いでささやかな敬意を捧げてみました。

しかしそれが無残にも失敗したのは全てが私の責任です」

アキ・カウリスマキ