愛しのタチアナ(1994)

みなさん、2024年あけましておめでとうございます

今年はアキ・カウリスマキで明けることに決めていました

 

原題は「Pidä huivista kiinni, Tatjana」(ちょっと待って、タチアナ)

カティ・オウティネンとマッティ・ペロンパ

黄金コンビのオフビートロードムービー

2023年はWBCでの日本代表の優勝や、大谷翔平ア・リーグMVP

藤井聡太将士の八冠達成という明るい話題もありましたが

 

岸田首相の長男翔太郎秘書官更迭、LGBT差別発言で荒井首相秘書官更迭

自民党女性局のフランス研修、不倫問題で山田政務官が辞任

安倍派と二階派による政治資金裏金疑惑、買収の疑いで柿沢衆議院議員逮捕

ビッグモーター不正請求、闇バイト強盗「ルフィ」、ジャニーズ事務所性加害

日大アメフト部員逮捕、ダイハツ不正問題、円安、物価高

2月でウクライナ侵攻1年水力発電所ダム決壊、イスラエルによるガザ侵攻

気候変動よる記録的猛暑、洪水、干ばつ、山火事・・・

多くの人災という膿が発覚しているにもかかわらず

当事者たちは「記憶にない」「意図はなかった」と悪びれもしない

真面目に生きていることが馬鹿らしくなってくる

 

そんな心がくたびれたときでも

やさしさを取り戻してくれるのがアキ

舞台は1960年半ばのフィンランド南部

金もろくに持たない男ふたりが旅に出て

エストニア人とロシア人の女性の旅行客と知りあい

車で国境まで送っていく、それだけの話

当時のエストニアソ連の併合国で(1991年独立)

フィンランドは西側諸国に同調しつつ

隣国ソ連とも友好な関係を保ちたいという

中立政策がとられていたそうです

そんな冷戦真っただ中の世の中

分断された西側と東側の人間はどうやって融和すべきか

それをわずか60分

アキは可笑しくもほろ苦い、男と女のロマンスに例えました

仕立屋のバルトは、母親がコーヒーを切らしたことに怒り

母親を物置に閉じ込めると

修理工の友人でレイノ(マッティ・ペロンパー)と

バルトの黒いヴォルガ(ソ連製の車)で

当てのない旅に出ることにします

バルトはコーヒー中毒なんですね

そしてレイノはウォッカ中毒

東欧ではウォッカもですが、にんにく料理が好まれるため

臭い消しのためにコーヒーをよく飲み

コーヒー豆を直に食べたりもするそうです(笑)

バルトとレイノは途中立ち寄ったバーで

バスが立ち往生して足止めされていた

タチアナ(カティ・オウティネン)とクラウディアという

外国人の女性ふたりと出会います

男たちはロシア民謡を踊るダサい女と見下しながら、気にしています

女たちは車で港まで送ってもらいたいため、逆ナンすることにします

 

タチアナはエストニア人でフィンランド語を少し話せますが

ロシア人のクラウディアは言葉が通じません

酒を飲み(アキの作品では珍しく)バルトに饒舌に語り続けるレイノ

でも女たちには全く話かけない、じゃなくて話かけれない

一応これでもタフな男を演じ、カッコつけているんですね(笑)

ショーウィンドーに飾られた工具を見て勝手に盛り上がり

彼女らは「ロシア人の男ならもっと楽しませてくれるのに」とあきれ顔

だけど暗黙の了解でバルトとはクラウディアと

レイノはタチアナとホテルの同じ部屋に泊まります

でもコーヒーしか頭にないバルトは、コーヒーコーヒーと

本当はクラウディアと仲良くなりたいくせに(笑)

コーヒーの話ばかり

 

レイノはウォッカを飲みすぎベッドに横になるとそのまま寝てしまう

タチアナはレイノの指からやさしく煙草を取ると、そっと毛布をかけ

レイノの横で猫のように丸くなり眠るのでした

レイノは寝たふりをしていただけで

実は彼女の仕草に気付いていたのでしょうか

タチアナのやさしさに、愛しさが込み上げたのだと思います

 

男と女が同じ部屋に泊まり(たぶん)何事もなく朝を迎える

でもベンチに並んで座った時

レイノの肩にタチアナがちょこんと頭を乗せると

思わずタチアナを抱き寄せてしまうレイノ

やがてフィンランド湾に到着すると

タチアナとクラウディアはふたりにお礼を言い

エストニア行きのフェリーに乗ります

 

彼女らを見送ったレイノがバルトに訊ねます

「外国(ソ連)に行ったことがあるか?」

「ない」

「行こう」

東西の壁より、国境の壁より、 言葉の壁より

男には乗り越えなきゃいけない壁がある(笑)

レイノとバルトはフェリーに乗り込むのでした

 

そしてタリン駅、ロシア行きの列車にクラウディアが乗ると

そこでもバルトは黙って見送るだけ

レイノはフィンランドには帰らず、タリンでタチアナと暮らすと言います

タチアナに喜びの表情が浮かぶ

バルトはひとり寂しく帰路につき、ヴォルガに乗り込むと

そこにはレイノとタチアナとクラウディアもいました

しかも4人を乗せた車がカフェに突っ込んでしまいます

それはバルトが、自分の壁をぶち破りたいという妄想だったのです

 

バルトは物置から母親を出すと、コーヒーを淹れてもらい

再びミシンを動かし仕事を始めるのでした

アキの映画に登場する主人公は私たちと同じ

不器用で、お金もなく、政治家のように口もうまくない

 

でもちょっとの親切と、働こうとする意欲

大切な家族や、好きになれる人がいたら

人生捨てたものじゃない

たとえ小さくても、確かな幸せがそこに存在している

そう教えてくれるのです

 

 

【解説】映画.COMより

2人の無口な中年男と2人の外国人女性の奇妙な旅を、アキ・カウリスマキ監督独特のタッチで描いたロードムービー。60年代フィンランドコーヒー中毒の仕立て屋バルトと、彼の友人でロックンローラー気取りの修理工レイノは、退屈な田舎町を捨てて旅に出る。途中出会ったエストニア人とロシア人の女性2人組を港まで送ることになるが、彼らは会話することもなく、ただひたすら旅を続ける。そしてついに港に到着した4人は……。

1994年製作/62分/フィンランド
原題:Pida huivista kiinni, Tatjana
劇場公開日:1995年