「あそこに自分は宇宙人だと言ってる人が居るんですけど」
原題は「Kin-dza-dza!」
知る人ぞ知るシュールな脱力系SFコメディ
私はこういうしょうもないB級C級映画も好きなのですが(笑)
この奇妙な映画が国際的に高い評価を受けたのは
旧ソ連の厳しい検閲を通り抜けたという作り手の賢さ
ダネリヤ監督(反体制のグルジア人)の手腕を称えたもの
スタンリー・キューブリックへの崇拝が感じられますし
テリー・ギリアムであり
セルジオ・レオーネのような世界観もあります
宇宙船を開発する技術がありながら、誰もが貧しく
食料やエネルギーを手に入れるため平気で嘘をつく
にもかかわらず、人種差別による階級意識だけは厳格だという
祖国に対するアンチテーゼは
国や時代を越えても考えさせられるものがありました
1980年代、冬のモスクワ
妻にパンとマカロニを頼まれた建築家のウラジミールが
街へ買い出しに出かけると、ジョージア人の大学生のゲデバンから
「あのひとがヘンなこと言っています」と助けを求められます
その浮浪者のような男が、「自分の星に帰りたい」と懇願すると
男の話を信じられないウラジミールは
彼の言う「空間移動装置」のボタンを押してしまいます
次の瞬間、ウラジミールとゲデバンは砂漠のど真ん中に瞬間移動していました
ここはロシアのどこかの砂漠だと、街を求めてふたりが歩き始めると
謎の飛行物体に乗ったふたりの男が現れ「クー」のポーズ(笑)
これってどっちが元ネタかわからないですけど、北野武さんの「コマネチ」か
「オレたちひょうきん族」の「パーデンネン」じゃないですか(笑)
(ロシアの映画界では北野武さんのファンが多いらしい)
今でもロシア人は、このポーズをマネすることがあるそうです
ウラジミールの高飛車な態度にふたりはさっさと去ってしまいますが
彼が煙草に火をつけたとたん速攻戻ってきます
ここはキン・ザ・ザ星雲にあるブリュクという惑星で
マッチ(火薬)1本が貴重なエネルギー(それだけで宇宙船を飛ばせる)
ブリュクではチャトル人とパッツ人という2つの人種に別れていて
パッツ人は鼻に鈴を付け、チャトル人の儀礼に従わなければなりません
識別器ではウラジミールもゲデバンもパッツ人
パッツ人のビーは格上のチャトル人のウエフに
「クー!」のポーズをとるよう命令します
もちろん従わないウラジミール
地球に戻るためには船を高速で移動させる「加速装置」が必要とわかり
そこからブリュク星人と、マッチ箱を持っているウラジミールとの
駆け引きが始まります
しかし「加速装置」の他に水と食料を手に入れようとしたウラジーミルは
商人に騙されマッチのほとんどを盗られてしまいます
激怒したビーとウエフはふたりを飛行船から降ろしますが
観覧車のような建物を見つけたふたりはそこで
パッツ人がチャトル人に芸を披露すると(檻の中でやるルール)
お金が手に入ることを知ります
ウラジーミルがゲデバンが持っていたバイオリンでロシアの流行歌を歌うと
なぜかブリュク星人たちは大絶賛
お金が入り気を良くしたビーとウエフは再びふたりを飛行船に乗せますが
飛行船は燃料切れで動かなくなり、4人は飛行船を押しながら
燃料を手に入れる場所を探します
さらに地球に帰るための加速装置と、地球の座標を調べるため
労働施設や劇場、天文装置のある都会(地下)を目指します
そこでは「PJ」と呼ばれる権力者が仕切っていました
チャトル人の上にはエツィロップという
ブリュク星の警察官であり権力者がいて、ステテコの色で見極められます
黄色が偉く、赤はもっと偉い
その最も階級の高い赤いステテコを履いているのが「PJ」
(階級が上ほど、さらにバカそうになるという喜劇)
こんな差別はないほうがいいと訴えるゲデバンに
ビーは「差別をなくしたら、上に上がるという目標が無くなるのでやめてくれ」
マッチが欲しい理由も「虐めたい」ため
裕福になって「土地を買い貧しい人たちを入植させる」と言うのです
夢や理想ではなく、結果から考えるという発想の転換
ブリュク星語の解説があるのも面白い(笑)
そうしてビーとウエフが逃げてしまったため
ウラジーミルは警察に通報、飛行船を捕まえることはできましたが
ビーとウエフが死刑判決を受けてしまいます
そこにモスクワで会った男が(靴下を貰ったお礼に)
ウラジーミルを助けにやって来ます
しかしウラジーミルはビーとウエフを見捨てることができず
男の誘いを断ってしまいます
ビーとウエフを助け出したウラジミールとゲデバンですが
地球へ向かう中間地点の(カーストで最上級の)惑星では
(植物になること(生産すること)が幸せ=真の共産主義世界)
(カーストで最下位のブリュク星の)ビーとウエフをサボテンにしてしまいます
ウラジミールはビーとウエフを助けるため、時間を戻してもらうよう頼みます
そうしてビーとウエフは旅立つ前のブリュク星へ
ウラジミールは妻のいる家に帰ることができたのでした
再び街に買い物に出かけたウラジミールはゲデバンに再会
ブリュク星での記憶は失われていましたが
パトカーのライトを見た途端
ふたりは反射的に「クー」のポーズをしたのでした
面白いけど「パブロフの犬」の如き
意志と反して身体は従ってしまうという、これもまた皮肉なものです
【解説】映画.COMより
1986年、ソビエト連邦時代のジョージア(グルジア)で製作され、当時のソ連で大ヒットを記録した脱力系SFコメディ。ある日、建築技師のマシコフは、「あそこに自分は異星人だという男たちがいる」と困った様子の学生ゲデバンに助けを求められる。異星人など信じられないマシコフが、その男たちが持っていた空間移動装置のボタンを押すと、次の瞬間、マシコフとゲデバンは地球から遠く離れたキン・ザ・ザ星雲のプリュク星へとワープしていた。そこでは何故か地球のマッチが超貴重品で、2人はマッチの価値を利用してなんとか地球へ帰ろうとするのだが……。日本でもカルト的人気を誇り、89年に都内の劇場で行われた「ソビエトSF映画祭」で初めて紹介された後、2001年にニュープリント版、16年8月にデジタルリマスター版で公開。21年5月にはアニメ版「クー!キン・ザ・ザ」の公開にあわせ、実写版の本作も4度目の劇場公開を果たす。
1986年製作/135分/ソ連
原題:Kin-dza-dza!
配給:パンドラ