君の名前で僕を呼んで(2017)

原題も「CALL ME BY YOUR NAME

原作はアンドレ・アシマンの同名小説

脚本は純愛映画の匠、ジェームズ・アイヴォリー

 

ひとことで言えばLGBTの(Bバイセクシャルの)少年の

「ひと夏の経験」ものですが

インテリ度はかなり試されます(笑)

1983年、北イタリアのとある避暑地にある別荘

考古学者であるパールマン教授は毎年夏の間

優秀な大学生を招待しています

今年の夏休みやって来たのは、24歳のアメリカ人大学院生

オリヴァー(アーミー・ハマー

 

そしてパールマン教授はアプリコット(果実)の間違った言語的起源を

やってきた学生に解説します

パールマン家はいわゆるハイブローなんですね

(教養や学識があり、趣味がよく高級なさま )

アプリコットの語源の正しい解釈を説明したオリヴァーは

教授から(キリスト教の聖職者からの)祝福のポーズを受けました

パールマン教授の17歳の息子エリオ(ティモシー・シャラメ)は

「毎年学生にやっている」とオリヴァーに教えます

つまり同じレベルの知性の持ち主でないと、受け入れられないということ

 

そういう人を試すようなやり方は、嫌味に思えますが(笑)

価値観、趣味、性格の相性いろいろありますが

知性のレベル(学歴や記憶力の高さではない)の

相性は重要だと思います

性の意識に対する相性も

エリオは読書家で、音楽の才能にも長けている

だからといってガリ勉というわけでなく

夜遊びもするし煙草も吸うし、ガールフレンドもたくさん

生まれながらにして、何もかも恵まれているのですが

何かが違う、物足りなく感じています

 

オリヴァーはユダヤ人を隠すことなく

ダビデの星のネックレスをしている

(後にエリオがしているネックレスは彼から贈られたものだろう)

頭がよくハンサムでマッチョ、自由で楽天

スポーツマンでダンスも上手く女性から注目の的

最初はそんなオリヴァーの言動を不快に感じたものの

エリオはだんだんと彼に惹かれます

オリヴァーに無視されると、とてもつらい

メインシーンのひとつが、エリオがギターでバッハを弾き

その曲をピアノでリスト調に、ブゾーニ調に

若い頃のバッハ調に弾き分けるところ

だけどオリヴァーはアレンジしたものでなく

元のバッハが聞きたいと言う

それって”ありのままの君がいい”って意味ですよね(笑)



これは「カプリッチョ 変ロ長調(最愛の兄の旅立ち)」という曲で

バッハが家族に反対されるなか

宮廷楽長になるためスウェーデンへ旅立った

に宛てて作曲したものだそうです

音楽を追及するため、仕事で成功するため、とわかっているものの

愛する家族が遠い外国に行ってしまい辛い・・という曲

夏が終わればオリヴァーはアメリカに帰ってしまう

エリオの気持ちと、この曲がリンクします

 

だだね、 ティモシー・シャラメくんがあまりに美青年すぎて(笑)

ビョルン・アンドレセン(ベニスに死す)超え

レオナルド・ディカプリオ以来の逸品

アーミー・ハマーが野暮ったいおじさんにか見えません

思春期の少年が、年上の美貌の男性に恋する

というシチュエーションがいまいちしっくりこない(笑)

ダンスパーティでは官能的なダンスを踊るオリヴァー

女友達のキアラが彼を狙ってる

エリオはマルシアとイイ感じ、彼女とセックスもしますが

 

エリオはオリヴァーと自転車で街に出かけたとき

母が古いフランス小説を読んでくれたときの話をします

それは騎士が身分違いの王女に恋をした物語で

騎士はその熱烈な思いを王女に

「話すべきか 命を断つべきか」と苦しむもの

エリオはオリヴァーにキスをする

だけどオリヴァーは、ダメだ、止めようと言う

その時は

 

1983年頃ってちょうどエイズ後天性免疫不全症候群)の原因として

HIVヒト免疫不全ウイルス)が発見された年

それまでも(今でも)同性愛者への差別はあったでしょうが

(最初にエイズが確認されたのが同性愛者の男性だったため)

ゲイ=エイズみたいな偏見があった時だったと思うんです

 

就職や社会活動にも支障があったでしょう

本作は(原作とは違う)エイズが社会問題になる前を設定したそうですが

性的マイノリティ者が平穏な生活を送るためには

同性愛やバイセクシャルを隠し、異性婚する人も多くいたのでしょう

オリヴァーは「大人になれ」と言うけれど

エリオは若く自分の気持ちも、性へのエネルギーも抑えきれない

ついにオリヴァーはエリオを受け入れることにします

 

初めて結ばれた日ふたりは呟く

「君の名前で僕を呼ぶ」「僕の名前で君を呼ぶ」

「エリオ」「オリヴァー」「オリヴァー」「エリオ」

そしてエリオはオリヴァーに、彼がここを発つとき

彼の着ていた水色のシャツが欲しいと言います

君の名前で僕を呼んで」とは愛する人

お互いの大切なものを交換をすること

ふたりはお互いの名前と

初体験(アナルセックス)とシャツを交換したのです

 

でもどんなにふたりの関係を秘密にしていても

周りの人間はおのずと察するもの

マルシアは何日も連絡をくれないエリオから

愛されていないことを知り(引き際も知っている)

両親も17年育てた息子の特性に気付かないわけがない

オリヴァーが研究のためミラノ旅行することになったとき

母親はエリオが同行することを提案します

 

ミラノでふたりは山道を走ったり、泥酔したり、ホテルで愛欲に溺れる

ここでは誰も自分達を知ってる人間はいない

だけど別れの日はやって来る

駅のプラットホームで最後の抱擁

走り去っていく電車に「エリオ」「エリオ」と呼びかけるエリオ

そして母親に「迎えに来てほしい」と電話をかけるのでした

でも本題は実はここからで

この映画はLGBTだけがテーマではなく

マイノリティに一番大切なのは家族の支えだということなんですね

父親が息子に伝える言葉には

「招かれざる客」(1967)スペンサー・トレイシーを思い出しました

 

賢いお前にはわかるだろう
稀有(けう=めったにないこと)で特別な絆が

お前と彼の間には 知性だけではない全てがあった

彼は善良だ、お前も善良だから

今は何も感じたくないだろう

2度と感じたくないかも


こういう話をしたいのは私とではないだろうが

お前は確かな何かを感じた
お前たちは美しい友情を得た
友情以上かもしれない
うらやましく思う

でも、エリオはいつか彼が戻ってくるかも知れないと

きっと心のどこかで信じていた

 

そしてハヌカ祭(クリスマスの時期に行われるユダヤ教の祝祭)

オリヴァーから電話が来ます

来夏結婚する、2年間付き合っていた女性と婚約した

だけど「君との出来事を何ひとつ忘れない」と

 

暖炉の前で静かに涙を流すエリオ

出会った、好きになった

でもふたりの行く道は同じじゃなかった
それだけ

さようなら僕のエリオ(オリヴァー)

さようなら17歳の夏

本当にシャラメくんが美しく、瑞々しい

そして異端な息子を理解しようとし励ます

両親のなんて素敵なこと

そこにあるのは言葉のチカラ

 

それを当時89歳のジェームズ・アイヴォリーが書き上げた

いくつになっても人間は愛を語れるというお手本

ちなみに89歳でのアカデミー賞受賞は

全カテゴリーで最高齢受賞の記録を樹立したそうです

 

ちょっと迷うところもありましたが、切り上げ(笑)

アイヴォリー様に「お気に入り」を献上いたします

 

 

【解説】allcinema より

 アンドレ・アシマンの同名小説を「日の名残り」「モーリス」の名匠ジェームズ・アイヴォリー監督が脚色し、「ミラノ、愛に生きる」「胸騒ぎのシチリア」のルカ・グァダニーノ監督で映画化した青春ラブ・ストーリー。北イタリアの避暑地を舞台に、17歳の男子高校生がアメリカからやって来た24歳の青年相手に生涯忘れることのできない情熱的な恋に落ちていく瑞々しくも切ないひと夏の出来事を、郷愁溢れる筆致で美しく繊細に綴っていく。主演は本作の演技でみごとアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた新星ティモシー・シャラメと「ソーシャル・ネットワーク」「J・エドガー」のアーミー・ハマー。共演にマイケル・スタールバーグ、アミラ・カサール。
 1983年、夏の北イタリア。両親とともに毎年夏休みを過ごしている田舎のヴィラへとやって来た17歳のエリオ。彼はそこで、大学教授である父がインターンとして招いた24歳のアメリカ人大学院生オリヴァーと出会う。自信に溢れて自由奔放なオリヴァーに最初は苛立ちを覚え、つい反発してしまうエリオだったが…。