太陽に灼かれて(1994)

原題は「Утомлённые солнцем」(”疲れた太陽”という意味もある)で

1930年代にソ連で流行した、ポーランドのタンゴに由来

原曲はポーランド語で「最後の日曜日(To ostatnia niedziela」)

 

公開当時はスターリン時代の共産主義者(正しくは社会主義)による

大粛清に対する批判的な内容が認められ

アカデミー外国語映画賞カンヌ映画祭審査員グランプリ

W受賞をしたのではないかと思うのですが

2022年、監督脚本をしたニキータ・ミハルコフ(現78歳)は

プーチンを支持し「ロシアのプロパガンダを広めた」 と

ウクライナ侵攻を正当化する発信をします

リベラルなブルジョア民主主義と

プロレタリア(資本主義社会における賃金労働者階級)こそが

ロシアに苦難をもたらしているのだと

だからこの映画のもつ意図を、もう一度確かめたかった

そして見方を変えると、映画から受ける印象も全く違うことがわかりました

自身が演じた革命の英雄こそミハルコフが理想に描いている男

かってのソ連で農村や農民を守る師団長であり

大粛清とは、スターリンの名前と特権を使った西洋文化に感化された者たちが

スパイだ、裏切り者だと嘘の供述書を作り

真の愛国者を裁いていったと信じているのです

すべては西側の捏造

世界虐殺者ランキング1位は毛沢東で6000万人

2位がスターリンで2000万人、ヒトラーは3位で1100万人

ロシアや中国を擁護するわけではありませんが

(世界一他国で虐殺している)アメリカが数字を捏造することは

得意中の得意

それでも今見ても、やはり傑作でしたね

特にミハルコフの娘、ナージャ

親ばかでも七光りでもない、世界一の子役といっていいほど上手い

最後はナージャの笑顔だけで泣きそうになる(笑)

1936年、国民が顔を見ただけでその人とわかる

革命の英雄コトフ大佐(ニキータ・ミハルコフ)は

(旧貴族階級の)妻の一族が暮らす「芸術家村」で休暇を過ごしていると

そこに、サングラスで髭面の男に変装した妻のマルーシャの従弟

ミーチャ(オレグ・メーシコフ)が帰ってきます

陽気で言葉巧みなミーチャの帰省を、家族は温かく迎えますが

マルーシャもコトフ大佐も不穏を隠せません

その理由が一家で川遊びに行ったときに解ります

久々に会ったマルーシャとミーチャを気遣い

娘のナージャナージャ・ミハルコフ)をボートに乗せ川下りをするコトフ大佐

コトフ大佐はナージャに、この柔らかく可愛い足を守るために

「良い世の中にしたい」「お父さんはそのために努力しているんだ」と

「よく勉強し 両親を尊敬し この国を愛するように」と語ります

その頃、川辺では毒ガス訓練が行われ

川に飛び込み沈んだミーチャを探すマルーシャ

藪に隠れていたミーチャはマルーシャを捕まえると

ふたりが結ばれた時のことを話します

しかしミーチャは去っていき、マルーシャは手首を切り自殺未遂

水に浸からなければいけないのね、血が乾いて死ねなかったと告白します

コトフ大佐とナージャが川辺に戻ると誰もいません

慌てて家に帰るとマルーシャはミーチャとピアノを弾き

皆は陽気に踊っていました

自分だけが疎外されている気分になるコトフ大佐

さらにミーチャナージャ相手に、わざと皆に聞こえるよう

おとぎ話を装い、ある男が愛する女性と引き裂かれ追放された話をします

昼寝の時間となり、逃げるマルーシャを屋上で捕まえる大佐

ミーチャを外国にやったのは大佐かとマルーシャが問うと「そうだ」と

しかし事実は、貴族出身の彼守るため国外に派遣したこと

マルーシャを独占したい気持ちがあったことも、正直に告白します

愛を確信するマルーシャ

夕方になり、大佐はミーチャをサッカー遊びに誘い

蹴られたボールが林に入ると、大佐とミーチャはボールを探しに行きます

そこで大佐はミーチャが、ピアニストや作家を名乗る秘密警察官で

(大佐がマルーシャとの仲を引き裂いたと逆恨みして)

大佐の同志や、革命の英雄たちを

でっちあげた起訴状で逮捕したことは判ってると告げます

ミーチャは大佐に「ドイツ、あるいは日本に情報を売った」スパイの容疑で

明日、車が迎えに来るといいます

大佐は知っている、(たとえ嘘でも)密告されたら最後

粛清を逃れられないことを

ミーチャがナージャに、大佐と共に仕事に戻ると説明しすると

スターリン少年団に入りたい)ナージャ

共産党の車がやってくると大はしゃぎ

やって来た運転手に角まで運転もしてもいい?とおねだり

この笑顔に、誰が断れるでしょう

愛しい娘との別れを惜しむ大佐

しかし、胸が張り裂けそうな思いはミーチャも同じでした

大佐への復讐のためだけに生きてきた

マルーシャの愛を取り戻せると信じていた

でも結果は違った

大切なものを失ったのは自分のほうだったのです

草原の道をふさぐガス欠のトラック

トラックの男は誰も知らない町を探し続けています

大佐だけが、その町を知っていると言いますが

大佐は殴られ、口を封じられ

トラックの男は殺されてしまいます

その町こそが彼らが目指した

皆が平等で、自由で、平和に暮らせる場所なんだろうな

でも誰もたどり着くことができない場所

その日、スターリンの飛行船建造4周年記念日

ミーチャの後ろに飛行船が舞い上がります

その翌日、クレムリンが見えるアパートに戻ったミーチャは

手首を切り赤く染まった浴室に横たわっていたのでした

1936年8月12日コトフ大佐は裁判もなく銃殺され

1956年11月に名誉回復

禁固10年を言い渡された妻のマルーシャは1940年死亡

1956年名誉回復

娘のナージャも逮捕され、同じく1956年に名誉回復

現在はカザフスタン在住だと幕は閉じます

 

 

【解説】映画.COMより

旧ソ連映画を代表する名匠ニキータ・ミハルコフが30年代のスターリンの大粛清をテーマに、激動の時代に引き裂かれた男女の悲劇を描いた人間ドラマ。ミハルコフが主演を兼ね、脚本をルスタム・イブラギムベーコフと共同で執筆、製作にも参加。撮影は「ウルガ」のヴィレン・カルータ。美術はウラジミール・アロニン、アレクサンドル・サムレキン。録音はフランスのジャン・ウマンスキー、編集はイタリアのエンツォ・メニコーニ。音楽は「惑星ソラリス」などタルコフスキー作品で知られ、「機械じかけのピアノのための未完成の戯曲」「ウルガ」でもミハルコフと組んだエドゥアルド・アルテミエフ。出演はほかに「恋愛小説」のインゲボルガ・ダプコウナイテ、ミハルコフの末娘ナージャ、舞台の名優でミハルコフの「絆」などのオレグ・メシーコフ。主題歌はロシアン・タンゴの名曲『疲れた太陽』。67回米アカデミー外国語映画賞、94年カンヌ映画祭審査員グランプリ受賞。キネマ旬報外国映画ベストテン第6位。

1994年製作/135分/ロシア・フランス合作
原題:Outomlionnye Solntesm Soleil Trompeur
配給:ヘラルド・エース日本ヘラルド映画
劇場公開日:1995年7月15日