浮き雲(1996)

「マッティ・ペロンパーに捧ぐ」

 

原題は「Kauas pilvet karkaavat」(”雲が遠くに逃げていく”=漂流雲)で

いくら追いかけてもつかめない夢のようなもの

日照時間が少ないフィンランドならではの絶望感

とはいえ、ラストはハッピーエンド(笑)

 

アキ・カウリスマキによる「パラダイスの夕暮れの続編であり

「敗者3部作」第1作目

アキ曰く、本作は「漂流雲」の一方は「自転車泥棒」の悲しみ

もう一方は「素晴らしき哉、人生」の喜び

その中間に「フィンランドの現実」があるということ

1991ソビエト連邦が崩壊し、フィンランド・マルッカが下落

フィンランド経済は打撃を受け、庶民は不況に喘いでいました

舞台は当時のヘルシンキ、不運の連鎖から立ち直ろうとする夫婦の物語

老舗の名門レストラン「ドゥブロヴニク」で給仕長を務める

イロナ(カティ・オウティネン)は、毎晩仕事が終わると

夫のラウリ(カリ・ヴァーナネン)が運転する路面電車で帰るのが日課

そんなふうに仲良く暮らす素敵な夫婦ですが

ラウリはちょっと見えっ張り、イロナに相談もせず

ローンで高価なテレビ(ソニー製がトレンドだった時代)を買ったり

本がないにもかかわらず(笑)本棚を買ってしまいます

返済に不安なイロナ

ジャームッシュの「ナイト・オン・ザ・プラネット」とブレッソンの「ラルジャン」のポスター)

そんな時ラウリが突如会社をリストラされてしまいます

人員削減のため(平等を期すための)くじ引きで

クビのカードを引いてしまったのです

そのうえプライドが高く、失業保険も受け取ろうとしません

ようやく観光バスの運転手の職を手に入れ(花束を買って帰るのがかわいい)

イロナが安堵したのもつかの間

健康診断で引っかかり、仕事だけでなく運転免許まで失ってしまいます

イロナも勤めていたレストランが大手チェーン店に買収されてしまい
従業員は誰ひとりチェーン店に雇われることなく

他のレストランで面接をしても、38歳という年齢だけで断られてしまいます

やっと見つけた小さなスナックで厨房兼清掃兼フロアとして働き始めますが

オーナーの脱税が発覚し、給料をもらえないまま店は閉店してしまいます

怒ったラウリがオーナーに未払いの給料を貰いに行くと

オーナーの仲間にボコボコにされ血だらけで港に捨てられます

イロナに仕事が見つかったと嘘をつき

生命保険を解約したお金で安ホテルに泊まります

イロナの悲しみや不幸を

失ったのであろう子どもの写真1枚で表す演出が逸品

(写真は少年時代のマッティ・ペロンパー)

ボロボロの靴をガムテープで補強したラウリが家に戻ると

テレビも家具も差し押さえられていました

ラウリが靴を修理しに行くと、そこで働いていたのは

ドゥブロヴニク」でイロナの同僚だった

(靴の知識は全くない)メラルティンでした

メラルティンはラウリに、一緒にレストランを経営しないかと持ちかけます

イロナはレストランを開店するための必要な経費を計算し

銀行に融資を頼みに行くものの、担保も保証人もなく

当然断られてしまいます

そこで一攫千金を目論んだラウリは

車を売ったお金でカジノにくものの大負け

ついには家まで売りに出されてしまいます

(バカすぎる夫を決して怒らない妻の寛大さよ)

やむを得ず未経験の美容院で働くことになったイロナ

そこで「ドゥブロヴニク」のオーナーだったスヨホルム夫人と再会すると

スヨホルム夫人はイロナに開業の資金を出すことを申し出てくれます

イロナは早速店の準備に取りかか

ラウリメラルティンアルコール中毒路上生活をしていた

元調理長のラユネンを見つけて更生復帰させ

イロナは「ドゥブロヴニク」と同じ

フィンランドの伝統的メニューのレストラン

「レストラン・ワーク」を開店します

しかし初日、ひとりも客は来ず落ち込むスタッフ

ラウリはひとり看板を背負い町中をPRします

 

次の日、初めての客が入るとランチタイムは満席

さらに30人もの予約の電話まで入るのでした

閉店となり店の外に出たイロナの肩を抱くラウリ

ようやく幸先が見えそうになったふたりは、じっと空を見上げるのでした

 

常に「幸福度の高い国」としてトップランキングを誇るフィンランド

それはアキの映画のように、お金やモノも必要だけれど

「心の豊かさ」こそを最も大切にしているからと感じました

 

 

【解説】映画.COMより

電車の運転手ラウリとその妻でレストランの給仕長イロナは、不況のあおりを受けて同時期に失業してしまう。2人は職探しを始めるが、なかなかうまくいかず……。フィンランドアキ・カウリスマキ監督が、皮肉をちりばめた独特のタッチで描く。出演者にはカティ・オウティネンやカリ・バーナネンら、カウリスマキ作品の常連が勢揃い。また本作の撮影前にこの世を去ったマッティ・ペロンパーも、写真というかたちで特別出演している。

1996年製作/96分/フィンランド
原題:Kauas pilvet karkaavat
配給:ユーロスペース
劇場公開日:1997年7月19日