映画に愛をこめて アメリカの夜(1973)

「女は魔物か?」

 

原題は「La nuit americaine」(アメリカの夜

英題「Day for Night」 とは夜のシーンを昼間に撮影すること

(カメラのレンズにフィルターをかけて光を遮断する)

つまり映画とは「嘘」の世界というたとえ

粋なタイトルですね

想像していた内容とは違いましたけど(笑)

面白かったです

ジャクリーン・ビセットはこの映画がいちばん綺麗

1秒ごとに入れ替わる撮影現場

時間に追われ、撮影に追われ、編集に追われる

私たちが憧れる映画スターと、現実の姿とのギャップ

下世話のオンパレード


アル中でセリフを憶えれないベテラン女優セヴリーヌ

高倉健のごとく、プロ意識しかない紳士俳優アレクサンドル

命がけのスタントマン、その男と駆け落ちする女助監督

女助監督にフラれて撮影をボイコットする若手俳優アルフォンス

そのアルフォンスと撮影のため1晩寝てしまった精神衰弱のヒロイン、ジュリー

そんな個性豊かな俳優たちや

プロデューサーに現場スタッフに保険屋からの要望

それを全てまとめるのが監督の仕事

撮影しているのは「パメラを紹介します」という映画

最初の脚本は、父親(舅)と息子の妻が恋に落ちて駆け落ち

残された息子と母親が慰め合うものでしたが

度重なるトラブルに脚本は何度も書き換えられ

そのたびに撮影をやり直し

映画監督役はフランソワ・トリュフォー自身が演じていて

登場するエピソードの多くはトリュフォーの体験談や

映画界では有名な裏話だそうです

セリフを憶えられないセブリーヌのモデルはマルティーヌ・キャロル

フェリーニの撮影が口パクだったとは 笑)

彼女の「昔は女優は女優、ヘアメイクはヘアメイクだったのに」は

イングリッド・バーグマンの言葉

トリュフォーロベルト・ロッセリーニの助監督だった)

アレクサンドルのモデルはハンフリー・ボガード

繰り返される喫煙シーンは、煙草を短くカットして撮影

子猫がNGシーンを繰り返すのは「柔らかい肌」での出来事

 

ジュリーが特製のバターを要求してスタッフを困らせるのは

エヴァの匂い」撮影時のジャンヌ・モローの逸話

ジュリーの告白をそのまま脚本に引用するのは

夜霧の恋人たち」でカトリーヌ・ドヌーヴトリュフォーに言った言葉を

トリュフォーとドヌーヴは恋人同士だった)

のちの「隣の女」の脚本でファニー・アルダンのセリフに使い

(この時トリュフォーファニー・アルダンと付き合ってる)

ドヌーヴに「私のセリフじゃない!」と洩らされてしまったこと

これがハリウッドだったら

セクハラや#MeTooになりかねませんが(笑)

フランスは恋愛に寛容

男と女の関係には、常に間違いがつきものであることを知っているのです

監督が耳に付けているのは補聴器(トリュフォーも難聴だった)

夢はトリュフォーの幼い頃の思い出

チャップリンの真似をして、スーツ姿で杖を鳴らしながら夜道を歩く少年

閉館した映画館の前に近づくと、杖で柵の向こうの掲示板を引き寄せ

市民ケーン」のポスターを盗むのです

このシーンがいちばん好きかも

いくつもの困難を乗り越え、映画が完成したとき

スタッフ一同は家族のような関係になりますが、さようなら

それぞれが次の現場へと向かうのでした

そして何事もなかったかのように映画は公開され

私たちに感動を与えてくれるのです



【解説】映画.COMより

フランソワ・トリュフォー監督が、映画を愛する者たちに捧げた群像劇。フランス・ニースのスタジオ“ラ・ビクトワール”を舞台に、「パメラを紹介します」という映画の撮影を行っているスタッフ・キャストたちの人間模様が描かれる。出演はジャクリーン・ビセットジャン=ピエール・レオほか。原題の「Day for Night」とは、カメラレンズにフィルターをかけて、夜のシーンを昼間に撮影することを指す。73年度のアカデミー賞では外国語映画賞を受賞した。

1973年製作/115分/G/フランス・イタリア合作
原題:La nuit americaine