キネマの神様(2021)

山田洋次監督による松竹映画100周年記念作品

原作は原田マハの同名小説

普通映画は、見る側を感動させて泣かせるものだけど

これは制作側のほうが泣いた感がすごい

主演の志村けんさんの急逝

緊急事態宣言で撮影が中断

新型コロナ感染拡大に伴う公開の延期、再延期

終盤の脚本が書き換えられたことは容易に想像できます

そして映画というのは面白さだけでなく、社会を映し出すもの

10年後、20年後にこの作品を見たとしても

新型コロナがやってきた「あの時」を思い出すことができる

ただ、主人公の書いた「才能ある」「凄く面白い」脚本が

作中ではバスター・キートンからヒントを得たとなっていますが

(「キートンの探偵学入門」(1924))

ウディ・アレンの「カイロの紫のバラ」(1985)まんま(笑)

最近の邦画でも「今夜、ロマンス劇場で」(2018)や

大林宣彦監督の遺作「海辺の映画館 キネマの玉手箱」(2020)があり

使いまわされている仕掛けに全く乗れなかった

そう感じたのは私だけじゃないはず

それも劇中の出水宏 は清水宏、小田は小津安二郎、桂園子は原節子

清水宏の「役者なんかものをいう小道具」は有名なセリフ

木戸賞は城戸賞、実際の賞金は100万円でなく50万円とショボい

山田洋次監督のジョークだと思えばよかったんですけど(笑)

2019年、ラグビーワールドカップに盛り上がる日本

アルコール依存症ギャンブル依存症のため借金を抱える

78歳の円山郷直(ごうちょく、通称ゴウ

出戻りの娘の歩は母の淑子にどうして別れなかったのと問い詰めます

そして父親のカードをすべて取り上げ、酒もギャンブルも禁止

唯一残った趣味、映画があるじゃないと言います

ゴウは家出し、親友のテラシンが支配人をする劇場に行き

ビールを盗んで映画を見る

スクリーンにスター女優、桂園子が現れると

ゴウにかっての撮影所の記憶が蘇ります

50年前のゴウは松竹の助監督で、テラシンは映写技師

淑子は撮影所のスタッフが通う食堂の看板娘でした

テラシンはカツ丼を出前してくれた淑子に一目惚れ

ゴウは園子とのドライブにテラシンと淑子も誘います

テラシンは淑子に将来は映画館をもちたいと語り、彼女の写真を撮る

園子はゴウちゃんとふたりでドライブしたかった、と呟きます

その後、ゴウが脚本を書き始めるとテラシンはとても面白く才能あると褒めます

そんなときテラシンが体調を崩し淑子がお見舞いに来てくれると

ゴウに淑子への恋心を打ち明けるテラシン

そこでゴウは手紙を書くようアドバイスします

しかし淑子が好きなのはゴウでした

断りの返事をなかなかテラシンに渡すことができないゴウ

テラシンはゴウと淑子の仲を疑りますが、基本お人好しなんですね

こういう人と結婚するのが一番幸せなんですけど

ゴウのようにどうしようもない男のほうが、なぜか女からはモテる

ゴウの初監督作「キネマの神様」の制作が決まり撮影に入りますが

初日からベテランカメラマン森田からアングルを巡って

自分の才能の無さを突き付けらる

ついにはセットから落ちて大ケガ

ゴウは映画制作を辞める決意をし、テラシンに淑子を譲ると言います

「物じゃないんだぞ」と怒るテラシン

ゴウが去る日、園子が淑子のところにやってきて

「追いかけたら後悔」「追わなくても後悔」

どっちの後悔を選ぶの、と淑子に聞きます

そして持ち合わせがないんだけど、困ったときは売ってと

自分の腕時計を渡すのでした

でも結局、淑子は苦労したんですね

働いてゴウの作った借金を返してきたのでした

今でもテラシンの劇場で掃除のおばちゃんをしています

家に帰ると、そっと孫の勇太の部屋に忍び込むゴウ

勇太はウェブサイトを作る仕事をやっていて、そこそこ貯金もある

ゴウは勇太にお金を貸してくれと頼みますが、あっさり断られ

テラシンから貰ったという「キネマの神様」の脚本を取り出します

「面白かった」「木戸賞に応募しよう」

賞金は100万円と聞き、ゴウもやる気に(笑)

勇太と協力し現代風に書き直すことにしました

その脚本がなんと入賞

78歳の最高齢新人脚本家として注目を浴びます

テラシンの劇場で映画仲間と祝賀会

ゴウは酔い「東村山音頭」を歌うのでした

家に帰るとゴウは淑子にテラシンからだと封筒を渡します

入っていたのはでドライブのときの写真でした

楽しかったあの頃を思い出し、泣いてしまう淑子

授賞式の日、長年の不摂生がたたって入院してしまったゴウ

代わりに歩がステージに立ちゴウの書いたスピーチを読み上げます

それは短い短いスピーチでした

「淑子、淑子さん、僕の淑子ちゃん」

「ありがとう、どうしようもない父さんを許して」

2020年、横浜港にクルーズ船ダイヤモンドプリンセス号が到着

新型コロナの集団感染のニュースが流れています

退院したゴウを連れてテラシンの映画館に向かう家族

テラシンから緊急事態宣言を受け、映画館を閉館すると伝えられると

淑子と歩は水戸賞の賞金のうち70万円をテラシンに受け取って欲しい

映画館を続けて欲しいと渡すのでした

スクリーンには園子の映画が映し出されています

「おじいちゃん、園子さんと良い関係だったんだ」と勇太に自慢するゴウ

「おじいちゃんの脚本みたいに、スクリーンから飛び出してきたりして」

 

するとスクリーン園子突然ゴウを見つめ、本当に飛び出しゴウの隣に座ります

「ゴウちゃん歳をとったわね淑子ちゃんは一緒なの?焼けちゃうわね」

「淑子は幸せかな?」

「ゴウちゃんが幸せなら淑子ちゃんも幸せよ」

さあ、撮影の時間よ行きましょう」

 

園子手を掴むと、ゴウは50年前の姿に戻っていました

スクリーンの中に入りカチンコを鳴らすゴウ

倒れたゴウに気付いた歩が駆け寄ります

相変わらず山田洋次、大大大好きな

家族を困らせてばかりのダメ男

仕事を続けられない、酒に逃げる、しかも反省しない(笑)

愛すべき社会不適応者の物語

好演は沢田研二の孫役の前田旺志郎クン

独特な役柄ながら山田ワールドにうまく溶け込んでいました

兄弟漫才をはじめ、子役からのキャリアも長いですし

俳優としての将来が益々楽しみですね



【解説】映画.COMより

松竹映画の100周年を記念した作品で、人気作家・原田マハの同名小説を山田洋次監督が映画化。“映画の神様”を信じ続ける男の人生と、彼を取り巻く人々との愛や友情、家族の物語を描く。映画監督を目指し、助監督として撮影現場で働く若き日のゴウは、撮影所近くの食堂の娘・淑子や仲間の映写技師テラシンとともに夢を語らい、青春の日々を駆け抜けていた。しかし、初監督作「キネマの神様」の撮影初日に転落事故で大きなケガを負い、作品は幻となってしまう。大きな挫折を味わったゴウは夢を追うことを諦めてしまい、撮影所を辞めて田舎へと帰っていった。それから約50年。かつて自身が手がけた「キネマの神様」の脚本が出てきたことで、ゴウの中で止まっていた夢が再び動き始める。「男はつらいよ」「学校」「釣りバカ日誌」など松竹の看板シリーズを手がけてきた山田監督がメガホンをとり、山田監督作に数多く携わってきた朝原雄三も脚本に参加している。現在のゴウを沢田研二、若き日のゴウを菅田将暉21役で演じる。ゴウ役は当初、志村けんが務める予定だったが、志村が新型コロナウイルス感染症の肺炎により降板、後に死去したことから、かつて志村と同じ事務所でもあった沢田が志村の意思を継ぎ、代役としてゴウを演じることになった。

2021年製作/125分/G/日本
配給:松竹