終電車(1980)


タイトルの「終電車」は大戦中のナチ占領下のパリでは夜間外出禁止のため
地下鉄の「終電車」に人々が殺到したことに由来しているそうです
 
実際ストーリーとは関係ないですが
ラブロマンスっぽいタイトルではあります
 

トリュフォーの最大のヒット作品ということですが
ひとえにカトリーヌ・ドヌーヴ(当時37歳)の存在感があってでしょう
漂う色香、妖艶さ、大人の女の”完成系”を演じ切っています
 
時代とフィルムの画像の色合いもぴったりで
すべてのシーンが滑らかにつながっていく何気ないカメラワーク
ドヌーヴの脚だけで表現するエロチズムはさすがのもの
 

夜の街を歩く美女に一目惚れしてしまい
つきまとう新進俳優ベルナール(ドパルデュー)
 
当然フラれてしまうわけですが、その女性は自分が主人公を演じる舞台の
劇場の女支配人で主演女優のリオン(カトリーヌ・ドヌーヴ)でした
 

そして劇場の地下には、ドイツ軍のユダヤ人狩りを避けて
密かに舞台の演出の指示を出す夫のルカが潜んでいました
 
私が名作を見ると、どうも変態映画に変換される確率が高くて
申し訳ないんですけど(笑)
 

自分に心を寄せるベルナールを冷徹に突き放し
テキパキ仕事をさばいてくマリオン
 
しかし地下の小さな穴に耳を澄まして劇場の様子を探る夫は
マリオンもベルナールに惹かれているのに気が付いている
 

舞台初日、幕が下りた後マリオンは成功のうれしさのあまり
ベルナールにキスをしてしまいます
 
ベルナールがそのことを問いただしても、マリオンは覚えていませんでした
そんな自分でも気が付かない、なにげない行動のほうが本心なのです
 

普通の男なら妻のそのような心の変化に嫉妬するはず
だけどルカは違う、さらなる創作の意欲が溢れ
舞台までをマリオンとベルナールの物語にしてしまうのです
 
若い男を虜にする自分の美しい妻に萌え
その男に妻を抱かせて興奮し
その刺激がさらなる想像力を掻き立てる
 

そこにパリの雰囲気に似合わないナチス占領下という緊張感と
劇団員やドイツ軍の御用批評家らが入り乱れるバックステージの華やかさ
子どもが孤独なのもトリュフォー作品の特徴
 

そしてやはり複数愛だと感じてしまう
 
新作の劇中劇とリアルがクロスするトリッキーなエンディング
夫とベルナールの間に入ってマリオンが手をつなぐ舞台挨拶
 

同じ男ふたりと女ひとりの物語でも「突然炎のごとく(1962)は
破滅に向かいますが、こちらはハッピーエンド
 
それは晩年になってはじめて子ども(娘)を儲けた
ファニー・アルダンとの関係が大きかったのかも知れません


 
【解説】allcinemaより
ヌーヴェル・ヴァーグを代表するトリュフォーが極めて伝統的なフランス映画のムードの中に、その円熟の映画話術を開花させた、なめらかなビロードの手触りのする作品である。ドイツ占領下のパリ。女優マリオンは、南米に逃亡したユダヤ人で、支配人兼演出家の夫の代わりにモンマルトル劇場を切り盛りしていることになってはいたが、その実、夫ルカは劇場の地下に潜み、夜の妻の訪問だけを楽しみに国外脱出の機会を待つ身だった。現在の演出家ジャン=ルーは独軍にも顔がきき、御用評論家とも親しい。相手役ベルナールはどうもレジスタンスと通じているらしい。そして新作『消えた女』は好評を持って迎えられるが、評論家ダクシアは芝居をユダヤ的と非難した。それを怒ったベルナールは偶然居合わせた彼を殴りつける。劇場存続に賭けるマリオンは愛を感じ始めていたベルナールを遠ざけねばならない。そんな折、いよいよレジスタンスの参加を決意したベルナールが劇場を去ろうとすると、抜き打ちのゲシュタポの捜査。マリオンはベルナールを地下に向かわせ夫を救う。初対面の彼にルカは、妻は君に夢中なのだ、と告げる。その夜、結ばれるベルナールとマリオン……。劇場は解放の日まで執念の上演を続け、ルカは800日ぶりに陽の光を浴びる……。感情を抑えたドヌーヴの能面的美貌がこのサスペンスフルな作品を完全に支配している。女優を演じるという難行を完璧にやってのけたのはさすが。占領下にあっても逞しく生活を謳歌するパリの市井の人々が影の主役(彼らが殺到する早い時間の地下鉄最終便が題名となっている)で、その丹念なディテール描写が映画全体に生きてくる具合も絶妙である。