関心領域(2024)

原題は「The Zone of Interest

300万人のユダヤ人を虐殺した(現在ではおよそ100万人強というのが通説

アウシュビッツの所長で戦犯、ルドルフ・ヘスとその家族がモデル

ここでの「関心領域」とアウシュビッツを隔てている壁のこと

そして壁1枚隔てたヘス家の豪邸と家族の暮らしのこと

すなわちアウシュビッツは「無関心領域」

というのが私の解釈

【ここから結末に触れています】

 

壁の向こうから聞こえてくる悲鳴にも、黒い煙にも無関心

ユダヤ人の使用人が食料品と一緒に届ける衣料品をみんなで分け

奥さんザンドラ・ヒュラーは毛皮のコートを身にまとい

ポケットに入っていた口紅をつけてみる

ユダヤ人の家政婦だったという母親を実家から呼び

豪華な食べ物や素晴らしい庭を手に入れたと披露する

指にはユダヤ人が歯磨きに隠していたというダイヤの指輪

彼らはずる賢いと笑う

ところが旦那に異動の命令が下され

奥さんは今の素晴らしい暮らしを捨てたくないから

旦那に単身赴任しろという

表向きは仲睦まじい夫婦で子煩悩な父親

しかし旦那は若いユダヤ人女性を部屋につれてこさせ

(奥さんとの寝室に戻る前に下半身を洗うリアルさよ)

 

奥さんは奥さんで、タバコ1本でユダヤ人の庭師に

相手をさせている様子

(ふたりを見て気まずそうにUターンする犬の演技素晴し

ユダヤ人のメイドは夜な夜な森に落ちている林檎を拾い

死の灰の山まで持っていき、林檎をばら撒いている

(強制労働させられているユダヤ人に食べさせるためだろう

川で遊んでいた子どもたちの体を洗わせたのは

汚染物質(毒ガスの素)が誤って流れ出てしまったということか

 

壁を囲むライラック剪伐を禁止するよう命令したのは

収容所(でやっていること)を隠すため

それらのことは無意識に子どもたちにも影響を与え

兄は幼い弟を植物の温室に閉じ込める

年老いた母親だけが、死の煙を我慢できず

逃げるように帰ってしまいます

 

アウシュビッツ内の描写はひとつもありません

収容されているユダヤ人もひとりも出てきません

親衛隊本部から(軍服の襟の髑髏マークが気になる)

再びアウシュビッツに戻れることになったと

作戦に自分の名前が付けられたことを喜び

妻に電話で報告するヘス

電話を終えた多と、ヘスが吐きそうになるのは

ユダヤ人に対するこれ以上ない嫌悪か

それとも強欲な妻対してか

この先さらなるジェノサイドを繰り返す自分になのか

そのアウシュビッツが今では世界遺産に認定され観光地化

多くのツアー客が訪れる「関心領域」になったという皮肉

 

そして、ネタニアフ首相イスラエルに対する

皮肉でもあるように思えてしまったのは

私だけなのでしょうか

人間が一番怖いのは、大義名分のため

自分たちが犯罪を侵しているという感覚が麻痺してしまうこと

 

エンタメ性こそ一切ありませんでしたが

私たちはそのしっかりとしたテーマを

読み取らなければいけないのです

 

 

【解説】映画.COMより

「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」のジョナサン・グレイザー監督がイギリスの作家マーティン・エイミスの小説を原案に手がけた作品で、2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門でグランプリ、第96回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞。ホロコーストや強制労働によりユダヤ人を中心に多くの人びとを死に至らしめたアウシュビッツ強制収容所の隣で平和な生活を送る一家の日々の営みを描く。
タイトルの「The Zone of Interest(関心領域)」は、第2次世界大戦中、ナチス親衛隊がポーランドオシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉で、映画の中では強制収容所と壁一枚隔てた屋敷に住む収容所の所長とその家族の暮らしを描いていく。
カンヌ国際映画祭ではパルムドールに次ぐグランプリに輝き、第96回アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞、音響賞の5部門にノミネートされ、国際長編映画賞と音響賞の2部門を受賞した。出演は「白いリボン」「ヒトラー暗殺、13分の誤算」のクリスティアン・フリーデル、主演作「落下の解剖学」が本作と同じ年のカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したサンドラ・ヒュラー。

2023年製作/105分/G/アメリカ・イギリス・ポーランド合作
原題:The Zone of Interest
配給:ハピネットファントム・スタジオ