手紙は憶えている(2015)




原題は「Remember」(覚えている)


私はどうして、こういう鬱々とした

後味の悪い映画が好きなのでしょう

ラストの「IRemember」というセリフに震える



90歳の主人公を演じたのは御年89クリストファー・プラマー

見ている自分も老人の気分になってしまうほどの素晴らしい演技
認知症と正気に戻った時の切り替え

歩きもおぼつかず息切れ、みんなが話す言葉が早く感じる

ホテルも、ショッピングセンターも巨大ですぎてたどりつけない


しかもクリストファー・プラマーは俳優になる前は

ピアニスト目指していたそうです

サウンド・オブ・ミュージック(1965)のトラップ大佐

歌だけではなくピアノも上手いのね()




ニューヨークのある住居型介護施設

寝ると記憶がなくなる、認知症(短期記憶障害)の老人

ゼヴ(クリストファー・プラマー)妻のルースの死後

「君が忘れても大丈夫なように全てを手紙に書いた

その約束を果たしてほしい」と

友人のマックス(マーティン・ランドー)から大金とバスの乗車券

そして1通の手紙を託されました


ふたりはアウシュヴィッツ収容所の生存者でした

家族はナチに殺され、アウシュヴィッツでの責任者

オットー・ヴァリッシュ

死んだユダヤ人の身分を盗み「ルディ・コランダー」という名で

アメリカに移住して生活しているといいます


見つかった「ルディ・コランダー」は4

車椅子で体が不自由なマックスに代わり

託された手紙だけを頼りにおぼつかない足取りで

ゼヴは復讐に旅立ちます




シャワーヘッド
車窓から眺める貨物列車
何処かから聴こえるサイレン
天井に据え付けられた拡声器

無意味に見えるすべてが、アウシュビッツを彷彿させるメタファー


まさか人を殺しに行くとは誰も思わない

おじいちゃんの一人旅にいろいろな人がやさしい

子どもたちも可愛くて親切


護身用と思われたのか簡単に銃を買えてしまうし

パスポートの期限が切れても国境越えまでさせてもらえるとは()




1人目の「ルディ・コランダー」(ブルーノ・ガンツ)は

確かに元親衛隊でしたが、アフリカ勤務

アウシュヴィッツとは全くの無関係だったのです




2人目の「ルディ・コランダー」(ハインツ・リーフェン)も

純粋なドイツ人でしたが、ユダヤ人同様に

アウシュヴィッツに監禁されていた同性愛者でした




3人目の「ルディ・コランダー」は、すでに死んでおり

父親の友人だと名乗るゼヴを

警察官である息子(ディーン・ノリスは熱烈に歓迎してくれます

ナチグッズのコレクターであったという「ルディ・コランダー」に

彼こそ家族を殺した男だとゼヴは確信するのですが

軍では虐殺とは無関係な料理人だったと教えられます

息子に「何をしに来た?」責められるゼヴ


「ルディ・コランダー」の息子はユダヤ人を嫌悪するネオナチでした

ゼヴはその息子とその愛犬をとっさに射殺してしまいます

その射撃の上手さと残酷さに驚く




そして最後の「ルディ・コランダー」(ユルゲン・プロホノフ)に
会いにいきます

セヴはルディの声を聞いてすぐに

彼がオットー・ヴァリッシュと確信しました

ルディは長い間ゼヴを待っていたと言い、やさしく抱擁し肩を叩きます

そんな彼に銃を向け、自分のしてきたこと全てを家族に話せという

そうしなければルディの可愛い孫娘を撃つぞという


しかしルディの腕にもアウシュビッツでの囚人番号は刻まれていました

IRemember」その時セヴは過去の記憶を取り戻します



(略称SWCという

ホロコーストの歴史博物館としてだけではなく

今でも反ユダヤ主義を監視する国際的な影響力のある組織があり

ドイツ敗戦後に逃亡した戦争犯罪の疑いがあるナチス党員の追及

2003年まで行っていたそうです


そういう組織があることを知ると、マックスがいかに

「ルディ・コランダー」の居場所を突き止めたのかがわかりやすい


そしてエジプト生まれのカナダ人というアトム・エゴヤン監督

ハリウッドの描くユダヤ人やナチス党員とは一味も二味も違う




アウシュヴィッツで行われた残虐な行為と

家族を失った哀しみは何十年経っても消えることはないということと同時に

ナチスの残党もまた生き抜くことに必死だったと訴えているのです


日本での戦争体験者も登場人物と同じく高齢な方ばかり

しかし戦争は何十年経っても「終わらない」現実なのです


もうすぐ原爆の日、そして終戦記念日

戦争や、戦争の2次災害を考えるのによい題材だと思いますし

サスペンスとしても秀作なので、私的にはおすすめ


そしてベテラン俳優陣の見事な演技に

もちろんお気に入りです
だって「枯れ専」ですもの(笑)



「スウィートヒアアフター」「白い沈黙」のアトム・エゴヤン監督が「人生はビギナーズ」のクリストファー・プラマーを主演に迎え、アウシュヴィッツを生き延びた老人の復讐の旅路を描いたサスペンス・ドラマ。70年前にナチスに家族を殺された主人公が、認知症による記憶障害に苦しみながらも、友人から託された手紙を頼りに復讐へと向かう壮絶な旅の顛末をサスペンスフルに綴る。共演はマーティン・ランドー
 最愛の妻に先立たれ、認知症も日々悪化していく90歳の老人ゼヴ。ある日、友人のマックスから1通の手紙を託される。そこには、目覚めるたびに記憶を失ってしまうゼヴのために、彼が果たそうとしていたある使命が詳細に綴られていた。2人はアウシュヴィッツ収容所の生存者で、ともに家族を収容所の看守に殺されていた。しかも、その犯人は身分を偽り、今ものうのうと生き延びていたのだ。手がかりは“ルディ・コランダー”という名前で、容疑者は4人にまで絞り込まれている。そこで車椅子で体の自由が利かないマックスに代わり、手紙とかすかな記憶を頼りに、たった1人で復讐へと旅立つゼヴだったが…。