家へ帰ろう(2017)

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「 神様はひとりだけよ 呼び方は違っても、みんな同じように守ってくれるわ」

原題は「EL ULTIMO TRAJE」(最後のスーツ)

 

ユダヤ人のお爺さんのロード・ムービーといえば

手紙は憶えている」 (2015)がありますが

(年月を超えた)復讐ではなく、和解

しかもわかりやすくシンプルなので

見終えた後の気分はいい

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ブエノスアイレスに住む88歳の仕立屋アブラハム

「ホームの奴らに自慢する」ために

孫たちと写真を撮ろうとしていました

娘たちに家を売却され

老人ホームへの入居が決まっていたのです

 

しかし孫娘のひとり、ミカエラがいない

アブラハムが呼びに行くと、iPhone6を買うお金をくれたら

写真を撮ってあげてもいいと言う

これだけのシーンで、アブラハムの家族が

いかに計算高く、気難しいのが判ります

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子どもたちが帰ると、その夜アブラハム

最後に仕立てたスーツを持って家出

知り合いの孫娘からポーランド行きの片道切符を買い

マドリード行きの飛行機に乗ります

 

最初に出会ったのは、自称ミュージシャンのレオナルド

口うるさいアブラハムを嫌って席を移動しますが

所持金がなくマドリードの空港で足止めを食らっていたところを

アブラハムに助けられます

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次に出会ったのはマドリードのホテルの支配人、マリア

マリアと楽しい時間を過ごし幸せな気分に浸かったのもつかの間

ホテルに戻ると所持金が全て盗まれていました

 

マリアはアブラハムが勘当した娘、クラウディアに会うよう勧め

翌日レオナルドが家まで送ってくれました

「おじいちゃん?」と孫娘、戸惑うクラウディア

結局父親はお金に困ってやって来ただけだった

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その時アブラハムはクラウディアの腕に刻まれている

自分と同じユダヤ人ナンバーの刺青を発見すると

ポーランド行くのには最低限の額でしたが

娘はお金を父親に渡すことにします

 

ホロコーストの生存者、または亡くなった人の子孫が

ホロコーストを忘れないため、同じユダヤ人ナンバーを

タトゥーとして入れることが実際多いそうです

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マリアとレオナルドに見送られ、列車に乗ったアブラハムは夢を見ます

「死の行進」

 

1944年~1945年の冬にかけ、敗戦の迫ったナチス・ドイツ

前線(ロシア戦線)の迫った強制収容所を破棄し

囚人たち(ほとんどはユダヤ人)はドイツ国内に移されることになります

しかし囚人たちには、水も、食料も

雨風や寒さをしのぐ場所も与えられず行進させられ

脱落した者は次々と銃殺されるのです

 

行進を逃げ出し、右足を引きずった少年が生家のドアを叩きます

家の主人(元の使用人)は少年を追い出そうとしますが

息子ピオトレックは、少年を半地下の使用人部屋に匿い

介抱するのです

 

優しくて、お人好しのピオトレック

ブエノスアイレス行きを手配してくれたのもピオトレックだった

生長られたのは彼が助けてくれたおかげ

なのにアブラハムは70年間、一度も彼に連絡しなかったのです

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モンパルナス駅でフランス語を話せないアブラハムは案内係に

「NO GERMANY、POLONIA」と書いた紙を見せます

しかしドイツを経由せず、ポーランドに行くことは出来ない

 

居合わせた人々が悲劇のユダヤ人かよ、飛行機を使えよ

そう顔に書いているのがわかる

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見かねた女性が、イディッシュ語ユダヤ語)を話せると通訳してくれ

何とか列車に乗ったアブラハムでしたが

イングリットと名乗るその彼女がドイツ人であることを知ると

一切口をきかなくなってしまいます

気を利かせた彼女は、アブラハムの前から一旦姿を消しますが

 

ベルリン駅に到着すると、自分の洋服をレッドカーペットのように並べ

ホームの椅子まで、アブラハムの足が直に地面につかないようにします

いくら相手がドイツ人でも、女性にここまでさせるなんて

しかもテーラーでありながら、洋服を踏みつけるなんて

さすがに男として、恥に思えてきた(笑)

ワルシャワ行きの列車には、しっかりホームを歩き乗り込みます

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ついにワルシャワに到着

しかし長旅の疲れで倒れてしまい救急病院に入院します

病院で出会った女性看護師がまたいい人なんですね

ウッチという町に行きたいというアブラハムを車で送ってくれたのです

70年ぶりの「ピオトルコフスカ通り122」

不安を隠せないアブラハムに「神様のご意志よ」と励ます看護師

 

こういうときの欧米の人たちの親切って本当にスマートで

同情の押し売りはしないし(お金は貸さない、渡すのはくれてやる時)

何も言わず去っていくのがまたカッコイイ

 

鍵のかかった玄関

階段を降りると、半地下の窓にミシンで生地を縫う丸い眼鏡の老人

老人が気配に気付き、顔を上げたとたん満面の笑みで出迎えてくれた

「おかえり、家に入ろう」

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ポーランド人の国民性は、信心深く(9割以上がカトリック教)

人懐こくてもてなし好き

働き者で節約(数学)が得意ということ

 

ポーランドにはホロコーストの記憶だけじゃない

家族との思い出もあったんだ

今までのこと、ピオトレックに話すことはたくさんあるはず

 

70年の時を経て、助けてくれた人々への感謝の気持ちに気付き

ユダヤ人以外にも心を開くことができるようになったアブラハム

同じ道を通っても、帰り道に見る景色はきっと違うものになるでしょう

娘に謝りたい、マリアともう一度会いたい

残りの人生は少ないけれど、やることはまだまだいっぱいです(笑)

 

 

【解説】allcinema より

ホロコーストを生き延び、ポーランドから逃れてきたアルゼンチンで戦後を生きたユダヤ人の老人が、人生の最後にかつて自分を救ってくれた親友に感謝を伝えるため、たった一人で母国へと向かう中で様々な出会いを重ねていく波乱の旅を、主人公を苦しめ続ける過酷なホロコーストの記憶とともに描いた感動のロード・ムービー。主演は「タンゴ」のミゲル・アンヘル・ソラ、共演にアンヘラ・モリーナ。監督は本作が長編2作目のパブロ・ソラルス。
 アルゼンチン、ブエノスアイレス。子どもたちや孫に囲まれ、家族全員の集合写真に収まる88歳のユダヤ人の仕立屋アブラハム。翌日、彼は老人施設に入ることになっていた。しかしその夜、家族の誰にも告げずに家を出ていく。向かう先は、ホロコーストの忌まわしい記憶から彼が決してその名を口にしようとしない母国ポーランドアブラハムは、第2次大戦中にユダヤ人である彼を匿ってくれた命の恩人である親友に、最後に仕立てたスーツを届けに行こうとしていたのだった。しかし飛行機でマドリッドに降り立った彼は、そこから列車でポーランドに行くためには、あのドイツを通らなければならないと知る。頑固一徹の彼にとって、ホロコーストを生き延びたユダヤ人の自分が、たとえ一瞬でもドイツの地を踏むなどということは、決して受け入れられることではなかった。いきなり難題に直面し、駅ですっかり途方に暮れるアブラハムだったが…。