
「何かを待たず 今日から生き始めよう 意外と時間がない」
原題は「Johnny」(ヤン神父のニックネーム)
ドラックと酒に溺れ盗みを働く不良と
閉鎖的な田舎町に赴任してきた身体障害をもつカトリック教の司祭
よくあるはみ出し者同士モノ、不良少年の更生モノだなと
映画のスタートからも、エンジンがかかるまで
かなりの時間を要するのですが(笑)
最後まで見てよかった
ラストにはちょっとした驚きと感動がありました

ギャンググループの一員のパトリクは
酒とドラッグ、不法侵入に器物破損、暴力と盗みを繰り返す日々
ある日強盗に入った家で(悪い予感がして教会から戻ってきた)主に捕まり
執行猶予付きの判決を受け
裁判所から(刑を軽減、あるいは消滅させる更生プログラムとして)
社会奉仕活動をするよう命じられます

同じ頃、パックに赴任してきた
ヤン・カチコフスキー
彼は生まれつき重度の視力障害と身体障害(左側麻痺)を患っていて
町の人々から差別的な眼差しで見られ、神父としても認められず
行き場のなかったヤン神父は
それでも困っている人を助けたいと訪問介護をはじめます
そこで目の当たりにしたのは
苦しいのは高齢者や、末期疾患を抱えている人だけじゃない
介護をする側、家族も同じだけ
もしかしたらそれ以上に苦しんでいることを知り
ホスピスセンターを開設することにします

日本でも「おくりびと」(2008)という映画で
「おみおくり」の仕事というのは
人の死を商売にする、家族の哀しみにつけ込む汚い仕事という
間違ったイメージを変えたい、というテーマが感じられましたが
本作の舞台も2004年頃、今から20年くらい前の話ですが
カトリック教会でもホスピスのような施設には(死を待つ人の家のような)
たぶんあまり良いイメージを持っていなかったんですね

そこにやって来たのがパトリクに
ヤン神父は(彼がどういう人物かだれでも一目見てわかる 笑)
来れる日に来るように、できることをやること、と説明します
そして初日、寝たきり患者の床擦れの介助を手伝わされたパトリクは
それを見ただけで嘔吐
無理、無理、無理
結局バーに行き酒を煽りクスリをやって女と絡む

でも、社会奉仕しなければ減刑されない現実
自分でもできそうな簡単な雑用や大工仕事をこなしていくことにします
とはいえ、入居者たちも怪しい見た目のパトリクに警戒している
老婦人の居室で若き日の老婦人の写真の額を落として壊してしまい
老婦人が戻ってくると、額を腰に隠し持ち去っていくパトリク
引き出しにしまっていた指輪が消えていなくて、ホッとする老婦人
ホスピスでの環境に慣れてきたころ
老紳士のローマン氏から買い物を頼まれ、町に出かけるパトリク
買い物を終え帰ると、ヤン神父から
これは(お金を盗んで逃げないか、お釣りをネコババしないか)
ローマン氏からの試験だったと教えられるパトリク
でもパトリクはローマン氏のしたことを怒りませんでした

その理由のひとつが、自分と年のさほど変わらなそうな女性から
ビデオメッセージ(スマホメッセージ?)を頼まれたことだと思うのです
彼女は我が子の誕生日ごとに、メッセージを贈ろうとしていました
気軽に撮影を引き受けるパトリクですが、次第に真剣になっていく顔
これは何かの映画の真似事じゃない
彼女は難病で余命いくばくもなく、もうすぐ死んでしまうと知ったから
今まで悪事を尽くしてきたパトリクでも
さすがにそういう人たちに向ってまでは
自分の怒りや不満をぶつけることはできなかったのでしょう

そしてついに本当の「死」と向き合う日がきてしまいます
元女優だったという老婦人
マニキュアの塗りかたが下手だと怒られ
朗読をすれば、何度も同じ間違いを注意される
でも彼女が好き
彼女のため(ホスピスでは予算やメニューが限られているため)
彼女の食べたかったという思い出の料理を作る
だけどその時は訪れ、老婦人はパトリクに
大切にしていた指輪を差し出します
あなたにじゃない
あなたに本当に好きな女性が出来たら渡して、と

もう少しそばにいてと頼まれ、転寝してしまうパトリク
気がついた時、老婦人はすでに亡くなっており
もっとしてあげることがあったのではないか、話すことがあったのではないか
どうしたら善かったと嘆くパトリクに、ヤン神父は
「そばにいて、手を握るだけで良い それだけだ」 と、答えます
私もその言葉に賛成ですね
愛する人にその時がきたら、静かに見守って逝かせてあげたい

一連の出来事で、パトリクに料理のセンスがあることに気付いたヤン神父は
パトリクを厨房担当にします
最初はポーチドエッグさえ満足に出来ませんでしたが
(だからといって神父が食事を投げ捨てるのはよくないよ 笑)
すぐに腕前が上達
食材を運ぶ業者?の女性とも恋の予感
ヤン神父はパトリクを料理学校に通わせ
一流のレストランのシェフとして働けるよう面接の機会まで儲けます
余命半年と宣告された悪性の脳腫瘍(多形性膠芽腫GBM)で苦しみ
パトリクをサポートしながら
ホスピスの維持費を稼ぐためイベントにも参加するヤン神父
ヤン神父の行動はやがて町の人々にも称賛され
教会に礼拝にやってくる信者も増えますが

パトリクが金を借りている男と、借金を返済しなかったことでトラブル
(その男の母親がホスピスに入居したことで和解?する)
さらに裁判所から刑期の執行猶予を取り消す通知が届き
刑務所に入れられてしまいます
刑務官に昔の仲間と同じ牢に入れないよう頼むパトリク
でもヤン神父は諦めませんでした
自分の知名度と人気を利用し、パトリクを釈放することに成功するのです
そして最初に述べた、ちょっとした驚き
それはこの映画が実話をもとにしているということを
最後まで全く気付かせないということ

ポーランド人にとってはヤン神父(1977-2016)も
パトリク(Patryk Galewski 1986生)も超有名人で
ラストにご本人の映像が出たときには
(同じような演出の映画は数多くあるけれど)
特にパトリクの成功した姿には胸が熱くなりました
ただひとつ不満をいえば「ジョニー」というタイトルが活かされていないこと
パトリクが長男につけた名前もジョニーと思いきや、ヤンだし(笑)
【解説】Netflix (ネットフリックス) 公式サイトより
裁判所命令により、ホスピスで働くことになった元犯罪者。そこで出会った心優しい神父との友情が、やがて彼の人生を変えていく。
監督:ダニエル・ヤロシェック脚本:マチェイ・クラシェフスキ出演:ダヴィッド・オグロドニック , ピョートル・トロヤン , ベアタ・ジガルリツカ
2022年/ポーランド/120分
ジャンル:ドラマ , 実話ベース
配信:Netflix