愛の嵐(1974)

原題は「Il Portiere di notte 英題はThe Night Porter」で

ホテルで夜間勤務するフロント係のこと

 

シャーロット・ランプリングの上半身裸の強烈な印象

第二次大戦中の元ナチ親衛隊の将校と性奴隷にされたユダヤ人の少女が

13年後再会し倒錯した愛に溺れるというもの

ユダヤ人協会や、映画批評家や、世界中のモラリストから

批判を受けるとわかっていながら

脚本を書きメガホンをとったリリアーナ・カヴァーニの勇気と

ナチズムと、性的マイノリティへの偏執的な美学に拍手を送りたい

ルキノ・ヴィスコンティを尊敬しているような内容ですが

溝口健二の「近松物語」や

内田吐夢の「浪花の恋の物語」も思い出させる

行く手には破滅しかない愛を、あえて選んでしまう

大今良時の「聲の形」も近いものがあります

障害があることで、クラスメイトたちからいじめられた女の子と

彼女をいじめた中心人物の男の子が恋愛関係になっていく、というもの

さすがに、ここまでハードではないですけど(笑)

たとえ愛の在り方が人と違ったとしても

いつの時代にも「ロミオとジュリエット」は存在する

これもひとつのメロドラマ

1957年、ウィーンのホテルで夜間ポーターとして

(偽名のマックスで)働いているマクシミリアン(ダーク・ボガード)は

パトロンである伯爵夫人(イザ・ミランダ)を悦ばせるため

若い男の調達することも仕事のひとつでした

ホテルの宿泊客のほとんどが戦争犯罪者で

A級戦犯とわかれば処刑される)元親衛隊たちとマクシミリアン

ホテル内で(架空の)連合国による裁判に備えて秘密会議を開き

戦争犯罪証拠を隠蔽するため

通報や脅迫される可能性のある証人を見つけて

排除する戦略を立てていました

そんなとき、マクシミリアンは宿泊に来たひとりの女性と目が遭います

彼女はアメリカから来たオペラのオーケストラの指揮者の妻

ルチア(シャーロット・ランプリング)でした

マクシミリアンの脳裏にウィーンのユダヤ人収容所での出来事が蘇ります

収容所にやってきた高名な社会主義学者の娘

今までなら決して手に入るはずのなかった上流階級のお嬢様

親衛隊の将校で収容所の責任者でもあったマクシミリアンは

少女を思い通りにします

今となっては、全て忘れたい

なかったことにしたい黒歴史

もう二度と会わないことを願っていたのに

再び燃え上がってしまった情愛

それはルチアも同じでした

ルチアはアメリカに戻ると夫に告げますが、結局ホテルに残ってしまう

ルチアの部屋を訪れたマクシミリアンが

ルチアを殴りレイプしようとすると

彼女からも激しくマクシミリアンを求めてしまいます

ルチアはマクシミリアンの部屋に泊りに行き

マクシミリアンはルチアを鎖で繋ぎ監禁します

それはかって収容所で行っていた行為のリフレイン

マクシミリアンは伯爵夫人に僕の天使が帰ってきたと打ち明けます

そして、これはサロメなのだと

オスカー・ワイルドの戯曲「サロメ

(自分の兄である)前王を殺し妃を奪いユダヤの王となったエロドは

妃の美しい娘サロメにいやらしい視線を向けるようになります

そのことに耐え切れないサロメは、牢に閉じ込められている

預言者カナーン(洗礼者ヨハネ)に相談するため会いに行くと

サロメは彼を一目見たとたん恋に落ちてしまいます

しかしヨカナーンサロメの忌まわしい生い立ちをなじり彼女を拒みます

怒ったサロメはお前に口づけしようと言い

ダンスを踊ってくれたなら、何でも好きなものを褒美にやろうと言う

エロド王にサロメはヨカナーンの首を要求します

銀の皿にのって運ばれてきたヨカナーンの首に口づけするサロメ

これを見たエロドサロメを殺してしまいます

親衛隊将校たちが見つめる中

親衛隊の制帽と軍服のズボンで踊るルチア
髪は短く刈られ、あばらが浮き、細い腕に黒革の手袋

小さな胸だけが重力を感じる

マクシミリアンは褒美だと段ボールの箱を持ってこらせ

ルチアが開けると入っていたのは生首でした

最初は驚いたものの、ほくそ笑むルチア

彼女の嫌っていた男の首をプレゼントしたんだ

マクシミリアンはそう伯爵夫人に告白します

仲間で弁護士のクラウス(フィリップ・ルロワ )や

ハンス(ガブリエル・フェルゼッティ)

(マクシミリアンの思いを寄せている)バレエダンサーのバートらは

狂信的なナチス時代となんら変わっていませんでした

生き証人であるルチアの存在を知られたマクシミリアンは

夜間ポーターを辞め、ルチアと部屋に引き籠ることにします

しかし食料の配達は止められ、銃で狙われ外出もできない

空腹のためベッドで横になるだけのルチア

それでも瓶に残されていたジャムを舐め、愛し合うふたり

やがてトイレに行っても出るものさえなくなり

電気も止められてしまう

クローゼットの中には親衛隊の制服と、白いワンピースとブーツ

戦犯の証拠品をマクシミリアンはいまだ大切に取っていたのです

最後の気力で愛し合ったマクシミリアンとルチアは

車に乗りドナウ川に向かいます

心中するつもりだったのでしょうか

そこにふたつの銃音が響くと、ふたりは倒れてしまうのでした



 

【解説】映画.COMより

戦後のオーストリアを舞台に、かつてユダヤ人収容所で出会った元ナチス親衛隊員とユダヤ人女性の倒錯した愛とエロスを描いた作品。1957年、ウィーン。元ナチス親衛隊員のマックスは、現在はその素性を隠し、ホテルのフロント兼ポーターとして働きながらひっそりと暮らしていた。ある日、彼が勤めるホテルに、著名なオペラ指揮者が妻ルチアを伴って宿泊する。ルチアは、かつてマックスが強制収容所で性の愛玩物として弄んだ少女だった。ルチアにとってマックスは2度と会いたくない相手のはずだったが、2人は倒錯した快楽に溺れていく。シャーロット・ランプリングがルチアを体当たりで熱演、特にナチス将校たちの前で半裸で歌い踊る姿は強い印象を残した。マックス役に「ベニスに死す」のダーク・ボガード。イタリアの女性監督リリアーナ・カバーニがメガホンをとった。

1973年製作/118分/イタリア
原題:Il portiere di notte
配給:日本ヘラルド映画
劇場公開日:1975年11月1日