ちいさな独裁者(2017)

 

新宿武蔵野館にて鑑賞

原題のDerHauptmannはドイツ語で「大尉のこと


第二次世界大戦末期、一兵卒でありながら将校の身分を詐称し

収容所を支配して多数の囚人の虐殺を行い

「エムスラントの処刑人」と呼ばれた戦争犯罪人
ヴィリー・ヘロルトの事件をベースにした物語
 

エンタメ性こそ一切ありませんが

とても真面目に作られていると思います

戦争がいかに、人間に狂気をもたらす恐ろしいものなのか

私たちに問いかけてくる


ラストの、主人公たちが現代のドイツの街をパトロールしては

無抵抗の人に横暴をしていく姿も怖い

時代や姿が変わっても、今もなお「独裁者」は生まれる

そんなメッセージを残します
 

19453、脱走兵のヘロルトは側溝に落ちた軍用車から
勲章の付いた空軍大尉の軍服を見つけ身に付けます
その瞬間彼は将校になりきり、敗残兵たちを指揮下に収めるのです
 
412日、一行はエムスラント収容所アシェンドルフ支所に到達
そこで「総統の命令のもと活動している」とヘロルトは嘘をつき

「ヘロルト即決裁判所(StandgerichtHerold)」として

ドイツ国防軍の脱走兵や政治犯を拷問および処刑していくのです
 

419日、イギリス空軍によって収容所が爆撃
420日、パーペンブルクで連合軍の到着に備えて白旗を掲げていた農夫
(作中では市長)を処刑、街を占拠しホテルで酒池肉林
その後も「ヘロルト即決裁判所」は処刑を続けていきます
 
53日、海軍軍事裁判所でヘロルトは全ての罪を認めたにもかかわらず
なんと、執行猶予処分(懲罰部隊への転属)
しかし再び彼は脱走し行方をくらますのでした
 

自らが脱走兵でありながら、将校の制服を着ただけで
将校になりすまし、規律だからと自分と同じ脱走兵たちを虐殺

服装の変化や、与えられた階級だけで人格が変わる
外見だけで相手の価値を決める
人間に潜む先入観
 
いざ絶対的な政権や権力を握ってしまうと
「独裁者」となり悪政を行ってしまう性
 

これは戦時に問わず、誰にでもおこりうる
人間の負の面を認識させてくれる警鐘

 

この作品を見て「胸糞悪く」ならない人がいるでしょうか
戦争を決して美化しない、ドイツ映画界には敬意を示します
 


【解説】allcinemaより
 「フライトプラン」「RED/レッド」のロベルト・シュヴェンケ監督が、ドイツ敗戦直前の混乱期に起こった驚きの実話を映画化した戦争サスペンス。一人の脱走兵が、偶然手に入れたナチス将校の軍服を着て身分を偽り、騙された多くの兵士を部下に従え、次第に冷血な暴君へと変貌していくさまをサスペンスフルに綴る。主演はマックス・フーバッヒャー。
 第二次世界大戦末期の19454月。敗色濃厚なドイツ軍では軍規違反が相次ぐなど混乱が広がっていた。若い兵士ヘロルトも部隊を命からがら脱走し、無人の荒野をさまよっていた。その時、偶然にも打ち捨てられた車両の中に軍服を発見、それを身につけたヘロルトは、“部隊からはぐれた”という兵士に大尉と勘違いされ、彼を部下として受け入れる。その後も道中で出会った兵士たちを次々と配下に従え、いつしか総統直々の命を受けたとする“特殊部隊H”のリーダーへと成り上がっていく。そんなヘロルトが、脱走兵の収容所を訪れ、ついには自らの偽りの権力を思う存分振りかざしていくのだったが…。