戦争のはらわた(1977)

原題は「Cross of Iron」(鉄十字勲章)

公開当時ホラー映画ブームだったので

「ホラー映画ファンも見に来るかもしれない」という期待を込めて

この邦題にしたそうです(ばかだ 笑)

 

ナチス・ドイツ側の視点から戦場を描いた異色作ですが

サム・ペキンパーの本名は「ベッケンバッハ」で実はドイツ系

アメリカに移民してきた曾祖父が「ペキンパー」と改名したそうです

 

オープニングで流れるのはスターリングラード戦で

ナチス・ドイツ大敗北するまでの記録フィルムと

(美女と笑う高官や、戦死したりシベリアの収容所に送られた兵士の姿)

「小さなハンス」(メロディは日本の童謡”ちょうちょ”と同じ)という

 

ドイツ語で「ハンス」とは「男の子」という意味もあり

名前がわからない男性を「おい、ハンス」 と呼ぶこともあるそうです

1番の歌詞は、小さなハンスが旅に出て行き、母親が大泣き

2番は、外国で月日が過ぎ大きなハンスになり(OPでは2番が2度歌われる)

3番は、故郷に戻ったハンスの顔を誰もわからなかったが

母親だけは「私の息子おかえり」と迎えるというというもの

ペキンパーは「小さなハンス」に、自分のルーツであるドイツへの哀愁と

家族をもとを離れ遠くの外国に出征した

多くの若者の姿を重ねているのです(たぶん)

内容的にはペキンパーの最後の西部劇(笑)

戦う相手がナチス・ドイツソ連になっただけ

だけど敵は味方の中にもいるということ

歪んだ思想、私利私欲に溺れた者

(国家利益より)地位や名誉を守るため手段を選ばない権力者

結局のところ、主題は反ナチス

見どころは、なんといってもジェームズ・コバーンのかっこよさ(笑)

ペキンパーより、ジェームズ・コバーンを称える映画といっていい

彼が敵を倒すのはナチスのためじゃなく

部下たちを生きて故郷に帰らせるためなのです

1943年の東部戦線(独ソ戦)に配属された

貴族出身のフランス人、シュトランスキー大尉(マクシミリアン・シェル)

彼には「鉄十字章」を胸に故郷に戻るという(歪んだ)名誉心がありました

さっそくソ軍の少年兵捕虜を連れていたシュタイナー(コバーン)に

少年兵を殺害するようを命じますが拒絶され疎ましく思いますが

彼は最前線を任されている歴戦の兵士であり

上官と部下からの信頼も厚く

さらにシュトランスキーがどうしても欲しい鉄十字章だけでなく

歩兵突撃勲章、対戦車撃破勲章、クリミア防衛勲章、戦傷勲章・・

などを授章している戦地の英雄

迂闊に処罰することもできません

そこで彼を味方につけた方が得策だと考え

ブラント大佐(ジェームズ・メイソン)に推薦して

シュタイナーを曹長に昇格させますが

シュタイナーの態度は変わりませんでした

シュタイナーは少年兵を(独断で)家に返すことにします

シュタイナーの親切に少年はハーモニカを渡し

有刺鉄線を越え森を走り抜けていくと

突然ソ連軍の奇襲攻撃が始まり、少年は誤射され死んでしまいます

狼狽したシュトランスキーは、部隊の指揮行なわず

基地に身を隠し本部へ応援の要請をします

その間、マイヤー少尉が塹壕での白兵戦(剣槍などによる近接戦闘で戦死

シュタイナーも砲撃の爆発で倒れ病院へ運ばれます

脳震盪の後遺症記憶が錯綜(さくそう)し苦しむシュタイナー

やがて看護師のエヴァと恋仲になり、彼女と暮らす約束をしますが

病院を慰問しに来た最高司令部の幹部たちのパーティーに招かれると

死んだ戦友との食事を思い出し豪華な食卓をひっくり返してしまう

前線へ戻ることを決意しま

帰隊すると、またもや鉄十字章を授章するシュタイナー

シュトランスキーはシュタイナーを呼び出し

鉄十字章を得るため自分を推薦してほしいと頼みます

シュトランスキーはトリービヒ中尉の弱み(同性愛者で処罰対象)を握り

虚偽に加担させると

防戦を指揮したマイヤー少尉の功績を自分のものにしていたのです

するとシュタイナーは「勲章が欲しければやるよ」

勲章なんて死んだ仲間と引き換えに貰った鉄の板だと
鉄十字章をシュトランスキーに投げつけたのです

シュタイナーに馬鹿にされたと思ったシュトランスキーは報復として

本部から撤退命令を受けると、シュタイナーと小隊を最前線に残し

人事に貴族である特権を生かし、パリへ異動する内定をとりつけます

シュトランスキーの汚職に気付いたブラント大佐は

告発するための証言をシュタイナーに求めますが

戦友以外、全てのナチスを憎んでいるシュタイナーは協力を拒みます

残されたシュタイナーたちはソ連軍の戦車(T-34)の攻撃を受けると

対戦車地雷で反撃、敵歩兵を振り切りなんとか逃げ切り

 

孤立した小隊が到達したのはソ連軍の女性兵士が潜む民家でした

(悪さしたドイツ兵が大事なところを食いちぎられる)

そこで地図とソ連軍の軍服を奪い、敵の塹壕哨戒線を突破し味方と合流

通信機で(奪ったソ連軍の軍服を着た隊員がいるため)「捕虜と帰還」する

と連絡します

しかしシュトランスキーの手下のトリービヒが「ソ連軍の罠」だと発砲を命令

機関銃(MG42)によりシュタイナーの部下は次々と殺されていきます

トリービヒを射殺(PPSh-41)したシュタイナーは

「借り」を返すためシュトランスキーのところにに向かいますが

ソ連軍の激しい攻勢が再開され

ブラント大佐は戦後のドイツの復興させるためだと

良心派のキーゼル大尉(デビッド・ワーナー)を脱出させ

短機関銃(MP40)を携えると、自ら歩兵の先頭に立つのでした

 

そんな中、ひとり逃げる準備をするシュトランスキー

シュタイナーが小隊やトリービヒの死を伝えても

逆に部下を殺したとなじります

しかしシュタイナーはシュトランスキーを撃つことをやめ

「あんたが俺の小隊だ」と銃(MP40)を渡します

するとシュトランスキーも格好をつけ

プロイセン将校の戦いを見せよう」と意気込むのですが(笑)

混戦の中、銃の再装填法さえできないシュトランスキー

 

それを笑うシュタイナーの声と

シュトランスキーの「くそっ」という言葉で画面は途切れます

そして流れるテロップ

 

Don't rejoice in his defeat,youmen.

彼の敗北を喜ぶなかれ

For though the world stood up and stopped the bastard,

世界がその畜生に立ち向かい、阻んでも

The bitch that bore him is in heat again

そいつを産んだメス犬が、また発情する

Beolt Brecht

ブルトルト・ブレヒト

この最後の言葉が一番響きますよね

 

戦争が終わって、たとえ平和になっても油断してはいけない

必ず次の独裁者が現れるのだから



 

【解説】映画.COMより

ワイルドバンチ」や「ゲッタウェイ」「わらの犬」などで知られるアメリカ映画界の巨匠サム・ペキンパーの唯一となる戦争映画。第2次世界大戦下、ソ連軍の猛攻によって絶望的に追い詰められていくドイツ軍歩兵小隊の命運を、戦場のリアリズムを徹底追及して描いた。1943年、ロシア戦線。ソ連軍との戦闘が激化し、撤退を余儀なくされていくドイツ軍の小隊長シュナイター伍長は、勲章を手に入れることしか興味のない無能な指揮官のシュトランスキー大尉を嫌悪していた。2人の関係が険悪になっていくなか、シュトランスキーは勲章を得るため、シュナイターの部隊を策略にかける。日本では1977年に劇場公開。2017年、公開40周年を記念してデジタルリマスター版が公開。

1977年製作/133分/イギリス・西ドイツ合作
原題:Cross of Iron
配給:コピアポ・フィルム
劇場公開日:2017年8月26日

その他の公開日:1977年3月12日(日本初公開)