異端の鳥(2019)

原題は「Nabarvené ptáče 」(ペンキを塗られた鳥)

作中で翼に白いペンキを塗った鳥(色違いの鳥)を群れに戻すと

ほかの鳥から一斉に攻撃され殺されてしまうシーンのこと

主人公の少年は死んだ鳥の姿を自分と重ねます

原作は、ポーランドユダヤ人作家イェジー・コシンスキの自叙伝

英題「The Painted Bird」邦題「異端の鳥」(1965

創作、盗作、「ホロコースト産業」の文学的デマだと批判を受け

ポーランドでは発禁になったそうですが

映画は素晴らしいと思います

ただしチェコスロバキアウクライナの合作で

私たちがよく見る戦争映画とは特色が違ううえ

ショッキングなシーンが多く見る人を選びます

「炎628」(1985)が大丈夫な人にはオススメ

(あるいは過度なスプラッタ 笑)

実際「炎628」で主人公の少年を演じたアレクセイ・クラフチェンコが

(大人になっているからわからない 笑)ソ連兵役で出演していますし

一村の虐殺シーンは「炎628」のリスペクトだそうです

(少年が埋められているのは「戦メリ」(1983)のオマージュ)

冒頭ひとりの少年が、大勢の少年に追いかけられ殴られ

少年が可愛がっているオコジョ?を奪い焼き殺します

家に帰るとおばさんのマルタが言う「自業自得だよ」

「ひとりで出かけるんじゃない」

そのおばさんが突然死んでしまった

驚いた少年はランプ落とし家は全焼してしまいます

そこから少年の放浪の旅が始まるわけですが

行く先行く先で、殴られたり、罵声を浴びたり

悪魔だ吸血鬼だと差別されるんですね

欧米の人ならすぐピンとくるのかも知れませんが

なぜ6歳くらいの子どもを、そんなに忌み嫌うのかわからない

だけどその都度助けてくれる大人もいて

女祈とう師「オルガ」

ある村へ辿り着いた少年は村人たちからリンチに遭いますが

「オルガ」は少年を買うと、占術の助手として手伝わせます

ある日少年病気になるとオルガは少年を土に埋め放置します

カラスに狙われた少年でしたが、腕がいいのでしょうね(笑)

少年は見事回復します

しかし川で魚を捕っている時村人から脅かされた少年は

川へ転落し流されてしまうのでした

小麦粉農家の「ミレル」

水車小屋へ流れ着いた少年は、拾われてミレルの家に連れてこられます

ミレルの妻は死んだ息子の服を少年に与え

少年はその家に住まわせてもらうことになりますが

ミレルは若い妻が使用人と浮気をしているのではないかと妻に暴力を振るい

ある日(発情期の)猫を拾ってきたミレルは、交尾する猫の姿を見て

使用人の眼をスプーンでえぐり家から追い出します

少年は逃げ、林で倒れていた使用人にえぐりだされた眼球を渡すのでした

野鳥を狩って売る「レッフ」

少年が鳥かごのたくさんある家を覗いていると

男に「ジプシーか?」「十字を切れるか?」と尋ねられ

少年が十字架のしるしを示すと、面倒を見てくれることになりました

レッフと少年が草原に野鳥を狩りにいくと

鳥かごを持ったルミドラという全裸の女が歩いてきます

レッフはルミドラと愛し合いますが、ルミドラは色情狂でした

村の少年全員と交わったせいで、母親たちに虐殺されてしまいます

ルミドラの死を悲しんだレッフは首吊りをはかり

少年はレッフの自殺を手助けしたあと、鳥たちを逃がすのでした

鍛冶屋の「スミス」

足を怪我した馬に遭遇した少年

馬を介抱するため近くの村に行くと、馬は村人に奪われ殺されてしまいます

少年は親切な鍛冶屋のスミスと妻に引き取られますが

その村はコサック(ウクライナ武装集団、というより山賊)と

ドイツ軍の絶え間ない報復がある場所で

スミスと家族はコサック撲殺され

酒場に連れて行かれた少年は無理やり酒を飲まされ拘束され

コサックからドイツ軍への親善のジェスチャーとして

ドイツ軍の前哨基地へ引き渡されたのでした

なぜ少年が酷い差別を受けているのか

少年はユダヤ人だったのです

(原作では少年を「ユダヤ人」とする描写はないそう)

そして当時のコサックはソ連政権下で弾圧されており

親衛隊に加担し共産国と戦った集団もいたそうです

老兵ハンス

ドイツ軍将校が引き渡された少年を処刑する志願者を募ると

ハンスは少年を線路の上歩かせ終着点まで辿り着きます

すると顎で「行け」と合図し

空へ向かって2銃弾を撃つのでした

司祭

ハンスに命を救われた少年は

輸送される列車から飛び降り、逃げ出すユダヤ人たちを目撃します

しかし親衛隊に次々と射殺され

その死体から衣服や靴を剥ぎ取る地元の住民たち

少年も瀕死の少年から靴を奪い

遺体が持っていた鞄からパンを見つけて食べる

が、何者かによって殴られ気絶

ユダヤ人の老人と共に町に運ばれ住民から袋叩きにあうものの

兵士の機嫌を取るため靴磨き、なんとか銃殺を逃れ

心優しい司祭に引き取られます

しかし司祭は重い病に冒されており

敬虔な信者であるガルボ少年を預かる事になります

 

大工の「ガルボス」

ガルボスが少年を引き取ったのにはわけがありました

彼の裏の顔はペドフィリアで(愛犬の名前はユダ)

少年を性奴隷として扱います

少年の異変に気付いた司祭は再び少年を教会に通わせることにしますが

そのことでガルボスから折檻を受けた少年は

彼をトーチカのある穴に誘いこみ、鼠に食い殺させるのでした

 

平穏もつかの間、司祭が死亡し

新しい司祭のミサで教典をひっくり返してしまうというミス

少年は信者たちによって教会を追い出され

肥溜めに投げ込まれてしまいます

「ラビーナ」

雪の中を彷徨っていた少年は誤って氷の湖に落ちてしまいます

気が付くと病気の夫(老人)と暮らすラビーナという女性に助けられ

間もなく夫が死ぬと(ラビーナが殺したと思われる)

彼女は少年を可愛がりだします

少年も彼女のことが好きになりますが

そのような行為ができる年齢に達してないんですね

(遭難したのは雪の中なのに、助けられた家が冬の季節でない謎 笑)

ビーナは少年を侮蔑し、山羊で性欲を満たす姿を見せます

屈辱に耐えかねた少年は山羊を殺し

切り取った頭部をラビーナの部屋へ投げ込むと、その場を去るのでした

ソ連軍の狙撃兵「ミートカ」

戦争孤児としてロシア軍に保護された少年

将校は兵士のひとり、ミートカに少年の世話を頼みます

ある晩、(女性を求めて外出したと思われる)何人かの兵士が

地元住民によって虐殺されます

夜中に駐屯地を抜け出したミートカについていく少年

高い木の上で夜明けを待つと、ミートカは現れた男たちを狙撃します

忘れるな、やられたら、やりかえす

そしてソ連軍が駐屯地を離れる日、ミートカは少年に拳銃を贈るのでした

「父親」

戦争は終わりを迎え、孤児院に入れられた少年

そこでもやはり理不尽な折檻を受け、市場商人に殴られる

でももう6歳の頃のやられっぱなしの自分じゃない

少年はミートカの拳銃商人を撃ち殺します

 

孤児院へ戻ると父親が迎えに来ていました

少年を抱きしめて涙を流し、お母さんの待つ家に帰ろうと

宿では少年が好きだったというキャベツのスープを作る

だけど少年の顔には一切の感情はなく

自分を捨てた父親を許ぜない

スープを投げ捨て夜の町を彷徨う

 

翌朝、バスに乗った

そこで疲れてってしまった父親の腕に刺青の番号を見つけます

父親も自分と同じ、過酷な思いをし命がけで助かったんだ

曇った窓ガラスJOSKA(ヨスカ)指でなぞってみる

名無しの少年にさようなら

ヴァーツラフ・マルホウル監督は

2年をかけ原作の映像権獲得

3年をかけて17バージョンのシナリオ
4
年をかけて資金調達

撮影に2年(主演の少年の成長を描くため)費やしたそう

なんと制作期間は13年近く

しかも使用された言語はロシア語とドイツ語の他に

(国や地域が特定されないよう)インタースラーヴィクという人工言語

なんてストイック(笑)

そしてこの映画の凄いところは

本当に怖いのはナチスでもロシア兵でもない

普通の人々の憎悪だということ

しかもそれは貧しさだったり、嫉妬だったり

誰にでも起こりうること

過激なシーンは多いけど、タブーを描いた傑作

「お気に入り」を献上します

 

 

【解説】allcinema より

イェジー・コシンスキの問題作『ペインティッド・バード(異端の鳥)』を「戦場の黙示録」のチェコの俊英ヴァーツラフ・マルホウル監督が映画化した衝撃作。ホロコーストを逃れ、たった一人で田舎に疎開した少年が目の当たりにする差別と暴力の数々と、少年自身を待ち受ける過酷な運命を全編モノクロによる冷徹な筆致で描き出す。主演は新人のペトルコトラール。共演にウド・キアステラン・スカルスガルドハーヴェイ・カイテル
 ホロコーストを逃れ、一人暮らしの叔母を頼って田舎へと疎開してきた少年。しかしその叔母が急死し、身寄りをなくした少年は、生き延びるために一人さまよい歩く。そして行く先々で、共同体の異物として扱われ、壮絶な虐待を受け続けるのだったが…。