反撥(1965)

原題は「REPULSION(嫌悪、拒絶反応)

神経質で潔癖性女性が姉の不倫により精神を病んでいき

妄想に苦しみ人殺しまでしてしまうというもの

 

この映画、どうしてもルイス・ブニュエル「昼顔」1967)と

比べてしまうと思うんですよね

「昼顔」のセブリーヌは少女時代の性的な虐待や反キリスト精神で

劣等感を植え付けられ不感性(性的機能障害)になってしまう

そのため夫とまともな性生活が送れず、罪悪感を抱き

サディスティックな妄想にしたるようになり

(夫のため)不感症を克服しようと売春宿で働くようにります

一方、キャロルはどうして社会生活をうまく送れないのか

男性を受け入れることができないのかわからず苦しんでいる

ひとりか、女性だけでいるのが楽なのに

美人だから歩いているだけで男から口笛を吹かれ、口説かれる

ボーイフレンドはしつこいし(彼自身はやさしく嫌いじゃない)

姉は毎晩男を連れ込み喘ぎ声を出している

幼少期の家族写真に理由が隠されていることはわかるけど

何があったかの説明は一切ない

 

何かしらの障害があったのかも知れないけど、ヒントもない

ヒロインに共感することは難しい

そこが一瞬のカットで想像させるブニュエル

若かりし日のポランスキーとの力の差かな、と

 

でもそれはあくまで私が「反撥」と「昼顔」を見比べた場合で(笑)

「反撥」が見事な作品であることには違いありません

カトリーヌ・ドヌーヴ22歳頃)の

シャンプーの香りまでしそうなブロンドの髪のゆらめき

肉体の感触まで想像させる、美しくて妖しいエロティシズムな画

カメラはギルバート・テイラー

ロンドンのエステサロンで働くキャロルは心ここにあらず

同僚のブリジットや上司が心配しています

ボーイフレンドのコリンがデートに誘ってもうわの空

アパートに帰ると姉のヘレンが恋人のマイケルのために

うさぎ料理を作ろうとしていました

洗面所にあるキャロルのコップにはマイケルの歯ブラシと剃刀

気持ち悪い

キャロルは妻子持ちなのよと責めますがヘレンは聞く耳をもちません

大家から家賃の督促がきているにもかかわらず

ヘレンはキャロルに家賃を預け、彼女の反対を押し切って

マイケルとふたりきりでイタリア旅行に行ってしまいます

壁に亀裂が出来、壁から無数の男の手が現れる幻覚

ベッドでは知らない男にレイプされる夢に苦しめられる

サロンでは客に怪我をさせ、店長から厳しく注意され

ブリジットから(無断欠勤して)三日間どうしてたの、外に出ないと

映画がいいわ、「黄金狂時代」を見たと

チャップリンの真似をしてキャロルを笑わせると

キャロルのバックの中に、ブリジットはうさぎの頭を見ます

ヘレンがマイケルのために料理しようとしていたうさぎ(結局しなかった)

キャロルはその頭部をマイケルの剃刀で切り取って

自分のバックにしまい込んでいたのです

皮を剥いだうさぎの生肉は、たぶん男性器の象徴なのでしょうね

キャロルの性交に対する強い憎しみが感じられる

逆に壁などのひび割れは、自分の傷つけられた心と身体でしょう

(オマエはそういう勘だけは鋭いな 笑)

何も手に付かず、食事もせず、家賃の支払もせず

アパートに引きこもってしまったキャロル

マイケルの妻が電話でまくし立てるので電話のコードも抜いてしまった

心配したコリンが訪ねてきてもドアを開けようとしない

苛立ったコリンがドアを壊しってくると

燭台?で彼を殴り殺しバスタブに沈め

(火事場の馬鹿力ってやつ?)

友達になれたら家賃はタダにしてもいいと襲ってきた大家のことは

ナイフで刺し殺し、ソファーをひっくり返し遺体を隠す

(火事場の馬鹿力ってやつ?その2)

アイロンをかけ(コンセントは入っていない)

ベッドに入るとまたレイプされる夢

 

雨の中、旅行から帰ったヘレンは悲鳴をあげます

壊れたドア、滅茶苦茶な部屋、男の死体

マイケルはベットの下に隠れていた

キャロルを抱きかかえ外に飛び出しました

いち早くキャロルの異変(病気)に気付いていたのは

キャロルが最も嫌っていたマイケルで

最後にキャロルを救ったのもマイケルという皮肉

(姉のほうが早く気付けよ)

ラスト、子どもの頃休暇で訪れたブリュッセルの家族写真のアップ

そこに写っていたのは、カメラに決して目線を合わせることのない

ブロンドの少女でした

おそらくキャロルは精神病院に入り、そこで過ごすでしょう

真っ白で潔癖な世界(エステサロンにも近いものがあった)

それこそが彼女が望んでいた場所

世の中には、ひとりでいることのほうが

好きな人もいるのだから

 

 

【解説】KINENOTEより

ジェラール・ブラッシュの協力を得て「水の中のナイフ」のロマン・ポランスキーがシナリオを執筆、自ら監督した心理ドラマ。撮影は「博士の異常な愛情」のギルバート・テイラー、音楽はチコ・ハミルトンが担当した。出演は、「シェルブールの雨傘」のカトリーヌ・ドヌーヴ、「女ともだち(1956)」のイヴォンヌ・フルノー、他にイアン・ヘンドリー、ジョン・フレーザー、バトリック・ワイマークほか。

キャロル(カトリーヌ・ドヌーヴ)は姉のヘレン(イヴォンヌ・フルノー)とアパート暮しをしている。姉にはマイケルという恋人があり、毎日のようにアパートに連れて来て泊め、神経質で潔癖なキャロルに嫌悪感を抱かせた。キャロルにもコリンという恋人があったが、接吻されただけで身の毛がよだつ。アパートに帰って口をすすがずにいられない。なぜだろう。ある日姉たちは旅行に出かけた。一人残されたキャロルは勤め先でも男の話だけしか聞けない。一人ではアパートの冷蔵庫の食べ物さえ口にしたくないのだ。そしてある晩、男に犯される夢を見た。不思議にもそれを肌身に感じたのである。店も休むようになり、ぼんやり部屋で過すようになった。部屋の壁が大きく裂けたり、粘土のようにやわらかくなるのも彼女の幻覚なのか事実なのかわからない。そんな時、コリンが訪ねて来た。なかば狂っているキャロルにとって、男はただ嫌悪の対象でしかない。彼を殺し浴槽に沈めた。部屋が大きく歪んで見えたりする。夜になるとまた「男」が忍びこんでくる。家主が家賃をとりに来た。家主はネグリジェ一枚で放心したようなキャロルに欲望を感じて迫る。彼女を抱きしめたとき、キャロルはマイケルの残していた剃刀で滅茶苦茶に切りつけ、彼さえ殺した。完全に狂った。それから幾日か。旅行から帰った姉とマイケルは二つの死体と、生ける屍になったキャロルを見出したのだった。