原題は「The Squid and the Whale」
主人公が幼いころ母親と自然史博物館で見た
「ダイオウイカとマッコウクジラの対決」の展示(ジオラマ)のことで
ダイオウイカとマッコウクジラは、一般的には食う者と喰われる者の関係
マッコウクジラの主食はイカ類、特にダイオウイカが大好物で
鋭い歯を使ってダイオウイカを捕食しまが
ダイオウイカも身を守るために、長い触腕や吸盤を使って抵抗します
しかしマッコウクジラははるかに大きく強いため
ダイオウイカが勝つことはありまさん
しかし必ずしも負けるとも限りません
マッコウクジラがダイオウイカの吸盤の攻撃でダメージを与えられたり
時に絡めた触腕で深海に引きずり込まれると
(クジラは肺呼吸なので)窒息して死亡する可能性もあるそうです
ブルックリンに住むインテリ文学博士夫婦で
知的か知的でないかという点でしか人間を評価できない
バーナードは(ジェフ・ダニエルズ)は
かつては人気作家だったもののスランプが続き教職で生計を立てています
妻のジョーン(ローラ・リニー)は新進作家として成功を収め
平然と近所の男性や息子のテニスコーチと浮気し
家族に隠すこともありません
そんなすれ違いと、経済格差のふたりなので、当然のように離婚が成立
父親を崇拝している16歳のウォルト(ジェシー・アイゼンバーグ)と
母親に懐いている12歳のフランク(オーウェン・クライン)は
1週間ごとに両親の家を行き来するようになります
屁理屈ばかりのダメ男のキャラ&性をテーマにしたコメディは
昔のウディ・アレン作品と似通ったものがあるものの
こちらのほうがかなり毒が強い
しかもサクッと80分(笑)
モデルは監督・脚本のノア・バームバックの両親ということ
この毒舌お父さん、有名な映画評論家でもあるそうで
「ブルーベルベット」や「モニカ・ビッティ」や「勝手にしやがれ」の
(実生活でひとつもためにならない)話も伊達なわけじゃないんですね
ここまで私生活を糞みそに描かれていながら
ノアの映画にも2度出演したことがあるそうです
そういう普通の人との心情とは変わった感性の持ち主
でもこういうダメ男ってなぜか女性にはモテる(笑)
1986年
そんな両親の離婚のせいで、子どもたちにも徐々に影響が出てきます
アメリカは離婚協議できっちり私物を別けるんですね
弟フランクは「猫はどうするの?」と泣き
兄ウォルトは「パパが落ち目だから離婚するのか?」と母親に問います
ウォルトは両親の離婚を友人たちに知られたくありませんでしたが
母親が既に話していて
母親の浮気相手は近所の男性に、親友の父親
弟が尊敬するテニスコーチのアイヴァン(ウィリアム・ボールドウィン)でした
弟はそのせいで(歪んだ)性的興味を増してしまい
学校の図書館や好きな女の子のロッカーで自慰行為をして精液を塗ったり
ビールを飲み、鏡に向かってアイヴァンの癖を真似し始めます
ウォルトはクラスメイトのソフィーと恋人になります
それも(父親のアドバイスで)気になる美人の女の子ではなく
カフカの「変身」で話が合った手近なところで手を討つという(笑)
なのでキスをしても「そばかすが多いね」と言ってしまい気まずくなる
父親は父親でソフィーの品定めをします
それも父親としてではなく、男として(笑)
「自分ももっと手広くやっておけば良かった」と言ったり
デートで「ショートサーキット」を観に行こうというふたりについて行き
「ブルーベルベット」を見せたりする
さらに大学の教え子のリリー(アンナ・パキン)を家に下宿させ
彼女に気があるウォルトはソフィーの誘いを
「まだ、責任を持ちたくないんだ」と断ってしまいます
そんなウォルトの気持ちを知ってか知らずか、リリーと関係を持つ父親
結局リリーを諦め、ソフィーとも別れてしまうウォルト
ジェフ・ダニエルズとアンナ・パキンの情事は見る者にとって微妙ですが(笑)
ノアはふたりが「グース」で親子を演じていたことを知らなかったそうです
ウォルトは学校のタレントショーで自作の歌と歌って
一等賞を獲得したもののピンクフロイトの「ヘイ・ユー」を盗作したことがバレ
心理セラピーを受けることになります
セラピストが学士を持っていないことを馬鹿にするウォルト
それでもセラピストは、彼にポジティブな思い出を話すように頼みます
ウォルトはまだ弟が小さい6歳の時
母親にアメリカ自然史博物館に連れ行ってもらったことを思い出しました
両手で目を隠したこと
母親がそのジオラマについて説明するのを聞いて恐怖心が和らいだこと
母親はいつも自分のそばにいてくれたが、父親はそうではなかったこと
つまり幼いころは父親が売れっ子作家でかまってもらえず
今は母親の作品のほうが売れて、立場が逆転したということなんですね
久しぶりに母親に会い「パパの事、愛していた?」と尋ねるウォルト
父親も「もういちど4人で暮らさないか」と復縁を申し出しでます
が、この家族の話が素直にまとまるはずはなく
ウォルトの相談相手が母親の恋人アイヴァンになっているという(笑)
猫は逃げてしまい、その猫を追いかけた父親が倒れてしまいます
過労と診断され入院したベッドでもゴダールの話をしては
あれこれ要求し続け付き添ってほしいと懇願する父親に
ウォルトが黙っていると「傷つくよ」
父親にとっては息子への威厳と
アドバイスのつもりなんでしょうがね(笑)
自然史博物館を訪れたウォルトは
いつまでも見つめていたのでした
幼かったウォルトにとって、大きく強いと思っていたクジラは父親
イカは母親の姿のように見えたのかも知れません
それが今、完璧だと信じていた父親に挑んで倒そうとしているイカは
成長した自分の姿なのかも知れない
この世に完璧なだけの人間もいない、誰にでも弱みはあるのです
今の若い人は「親ガチャ失敗」という言葉を使うそうですが
ノアのように、逆にこんな両親だったおかげで
成功することもあるかも知れません(笑)
【解説】映画.COMより
「ライフ・アクアティック」の脚本家ノア・バームバックが、86年のニューヨーク・ブルックリンを舞台に、ある家族の崩壊を滑稽に描いた自伝的悲喜劇。落ち目のインテリ作家である父親バーナードと「ニューヨーカー」誌で作家デビューを飾ることになっている母親ジョーンの間に生まれた16歳の兄ウォルト、12歳の弟フランクは、ある日両親から離婚することを告げられる。ウォルトは父親に、フランクは母親についていくが、2人とも学校で問題を起こすようになる……。
2005年製作/81分/アメリカ
原題または英題:The Squid and The Whale
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント