原題は「Portrait de la jeune fille en feu」(燃える少女の肖像)
批評家から絶賛され、国際的にも高い評価を受けた本作
映画と視聴覚における女性と男性の平等
性とジェンダーの多様性を促進を目的とする活動をしているそうです
主演は元配偶者のアデル・エネル
私の好みの作品というわけではありませんが
(登場人物の見た目や性格によるものだと思う)
今までのレズビアン映画とは違うアプローチで印象的でした
さらに絵画的で美しいショットの数々
普通というか、すなわち男性による監督作品だと
長回しだとか、空撮によるロングショットが多用されたり
衣装や調度品にこだわりそうなものだけど
(予算の関係かも知れないが)そこまで凝っていない
あくまで登場人物の心情にスポットをあてています
だからといってウエットじゃない
後にも引きずらない(そこが男と違うところ 笑)
こういう作品では破滅型の恋愛に慣れてしまっているので(笑)
そこにどこまで感情移入できるかどうかで
感じ方が違ってくるのではないでしょうか
18世紀末のブルターニュの孤島
画家のマリアンヌ(ノエミ・エルラン)は、島の屋敷に住む伯爵夫人から
ミラノの貴族と婚約させるため修道院から戻ってきた
娘のエロイーズ(アデル・エネル)の肖像画を描くことを依頼されます
当時は貴族はお見合いするのに
女性の肖像画を先に男性に送らなければならないという
決まりがあったのですね
なのでエロイーズは不機嫌極まりない
ドレスは1着だけ、毎日修道着姿で過ごしています
どうして自分だけ肖像画を差し出さなければならないのか
しかも結婚を拒んで崖から身を投じた姉の代わりに結婚させられるのです
エロイーズの散歩相手として彼女を観察するよう
伯爵夫人に頼まれたマリアンヌは
メイドのソフィー(ルアナ・バイアミ)の助けも借りながら
試行錯誤しながら肖像画を書き上げます
自分が屋敷にやってきた本当の理由をエロイーズに打ち明け
完成した絵を見せるマリアンヌ
するとエロイーズは「本質を捉えていない」とその肖像画を否定します
思わず感情的になり、絵の顔をつぶしてしまうマリアンヌ
伯爵夫人は怒りますが、新たな絵を完成させるために
自分が本土に帰っている間の5日間の猶予を与えます
ここから物語が大きく展開していくんですね
伯爵夫人が不在の屋敷でマリアンヌ、エロイーズ、ソフィーの3人きり
エロイーズは肖像のモデルになることを承諾します
さらにマリアンヌが女性の画家には制約があり自由に描けないことを知ると
(女性蔑視に対する怒りで)マリアンヌと距離が近くなります
同時にソフィーが妊娠していることがわかり
(相手が誰かはまったく問題にされない=糞野郎なのだろう)
伯爵夫人がいない間に堕胎しようと3人で協力しあいます
(マリアンヌも中絶の経験者であることを明かす)
そんな中でも、楽しくトランプゲームに興じたり
ギリシャ神話(ルーベンス)の「オルフェとエウリュディケ」について
語り合あったりします
妻エウリュディケを蛇に噛まれて亡くしたオルフェは
妻を愛するあまり冥府の神々に妻を返してほしいと頼みます
オルフェの願いを拒むことが出来なかった(夫婦神)ハデスとペルセポネは
2人が冥界を出るまで「後ろを振り返って妻を見てはならない」
という条件をつけます
妻の前をオルフェは暗く険しい道を歩き続けます
ところが地上まであとわずかというところで
妻が心配になったオルフェは振り返り妻の顔を見てしまいます
たちまち冥界に落ち消えてしまったエウリュディケ
ソフィーは約束を破って妻を見たオルフェを非難します
しかしマリアンヌが「エリュディケの記憶を確かめたかったのでは」と言うと
エロイーズが「エウリュディケこそ、見て欲しいと願ったのではないか」と
答えます
この「見る」「見て欲しい」というのも
この映画のテーマのひとつですね
(女だけの)島の夜祭に行き、女性たちの歌を聞いたエロイーズは
(ラテン語で「逃げられない」という意味の「フジェレ・ノン・ポッサム」)
情熱的な歌声に、ドレスの裾に焚き火の炎が燃え移っても気にしないほどでした
その姿がのちにマリアンヌが描く「燃ゆる女の肖像」になります
翌日、マリアンヌとエロイーズは海辺で初めてのキスを交わし結ばれると
中絶先(産婆?)が見つかったというソフィーに尽きそいます
目をそらすマリアンヌに「しっかりと見ておくのです」とエロイーズ
しかもソフィーの中絶シーンをマリアンヌに描かせます
カトリックの修道院に入っていたエロイーズにとって堕胎はご法度なはず
その彼女が中絶を記録に残そうとする
これはたぶん男性の思想
女性に対する理想の押しつけへの反撥なのでしょうね
これが目の前にある「女性の現実」
生理も妊娠も中絶も女性だけが味わう不平等
愛もセックスもファタンジーじゃないんだと
肖像画の完成が近づくと、それはマリアンヌが島を去ること
そしてエロイーズの結婚を意味していました
ベッドでエロイーズの姿を小さなスケッチに描きとどめていたマリアンヌは
エロイーズにせがまれ、彼女の愛読書の28ページ目に自画像を描いて贈ります
翌朝マリアンヌが目を覚まし、キッチンに向かうと
食事をしている男性が挨拶をしてきました
「Buon giorno!」(イタリア語)
・・・終わった
それは3人で過ごした平等で自由な時間が終了した合図
彼女たちが再び男たちが支配する世界に戻るとき
伯爵夫人から報酬をもらったマリアンヌは
エロイーズへの思いを振り切るように屋敷を出て行こうとします
すると「振り返って」の声し
そこにはマリアンヌが何度も見たエロイーズ幻影
純白のローブを着たエロイーズが立っていました
「エウリュディケこそ、見て欲しいと願ったのではないか」
島での別れの後、マリアンヌは2度エロイーズと再会したことを思い出します
一度目は男性(父親)の名前で画家として成功していたマリアンヌが
美術展で、娘を傍らにしたエロイーズの肖像画を見た時
良き妻、良き母となった姿のエロイーズ
しかし絵の中のエロイーズは、愛読書の28ページ目に指を挟んでいました
いつかマリアンヌがこの絵を見て欲しいと願ったのです
2度目はコンサートホール
マリアンヌの向かいのバルコニー席に偶然エロイーズが座ったものの
マリアンヌに目を向けることはありませんでした
しかしヴィヴァルディの「四季」の「夏」がはじまると
エロイーズの顔はしだいに歪み、涙が頬をつたいます
それはかつてあの屋敷でマリアンヌがエロイーズに弾いて聴かせた曲でした
【解説】映画.COMより
18世紀フランスを舞台に、望まぬ結婚を控える貴族の娘と彼女の肖像を描く女性画家の鮮烈な恋を描き、2019年・第72回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィアパルム賞を受賞したラブストーリー。画家のマリアンヌはブルターニュの貴婦人から娘エロイーズの見合いのための肖像画を依頼され、孤島に建つ屋敷を訪れる。エロイーズは結婚を嫌がっているため、マリアンヌは正体を隠して彼女に近づき密かに肖像画を完成させるが、真実を知ったエロイーズから絵の出来栄えを批判されてしまう。描き直すと決めたマリアンヌに、エロイーズは意外にもモデルになると申し出る。キャンパスをはさんで見つめ合い、美しい島をともに散策し、音楽や文学について語り合ううちに、激しい恋に落ちていく2人だったが……。「水の中のつぼみ」のセリーヌ・シアマが監督・脚本を手がけ、エロイーズを「午後8時の訪問者」のアデル・エネル、マリアンヌを「不実な女と官能詩人」のノエミ・メルランが演じた。
2019年製作/122分/PG12/フランス
原題または英題:Portrait de la jeune fille en feu
配給:ギャガ