コリーニ事件(2019)

原題も「Der Fall Collini」(コリーニ事件)

 

ドイツの法廷もの

アメリカ映画の、いかに感動的に「陪審員に訴える」かとは違い

「正しい法律」とはなにかを考えさせられる佳作

被告席がガラス張りになっていたり、証人が判事側を向いてたり

法廷の作りや配置が違うところも興味深かったですね

血を浴びた老人がホテルのロビーの椅子に座り込み

従業員に大企業の社長ハンス・マイヤーがスイートで死んでいると告げます

国選弁護人に選ばれたのは新人のトルコ人弁護士ライネン

検視の結果、イタリア人の被告人コリーニは

無抵抗の被害者の頭に銃弾を3発撃ち込んだうえ

死体の頭を何度も踏みつけ頭蓋骨を破損させるという

残忍極まりない行為に及んだことがわかります

終身刑は間違いない状況

しかしそこまでの犯行に至るには何か相当な恨みがあるはず

だけどコリーニは何も話さない

「・・・迷惑はかけたくないんだ」

 

事件を紐解くきっかけになったのは、犯行に使われたワルサ―P38

鑑識した人物は今ではこの銃はほとんど見かけないし

販売もされていないと言います

ライネンはあることを思い出しました

かって被害者の家の図書室で同じ銃を見たことがあるのです

ワルサ―P381938ドイツ国防軍の制式拳銃に採用され

第二次世界大戦中はドイツ軍によって最も使用された銃でした

1944年6月、ナチス将校だったハンス・マイヤーは

侵攻したイタリアのモンテカティーニでドイツ軍人ふたりが

ファシズムパルチザンのテロにより殺され

その報復として民間人20人を虐殺したのです

その中のひとりがコリーニの父親でした

ナチスの将校が軍資金や技術資料をもって国外逃亡したり

実業家として成功した例は多くあり

温厚で人種差別などとんでもない、人助けをするような好好爺が

実は元ナチスということも実際あるのでしょう

そんな元戦犯を救済するための法律が1968年に制定された「ドレーアー法」

民間人を虐殺した場合でも「上司の命令だった」という理由で

責任を免れることができるというものです

 

日本では処刑された戦犯を靖国神社で英霊(神)として祀り

近隣国から問題視されていますが

ドイツでも「身内を裁く」ことの難しさがわかります

一方で虐殺されたり、拷問を受けた当事者や家族にとって

戦争は何十年経っても終わらない

過去にコリーニは正式にハンス・マイヤーを戦犯として起訴しましたが

ドレーアー法のせいで却下されていました

 

法が裁けないならば、自分が裁く

コリーニは結婚もせず、子どもも作らず

自らも死ぬつもりで仇を討ったのです

ただ主人公がなぜトルコ人なのか、とか

ハンス・マイヤーが面倒を見るようになった関係がわかりにくく

かっての恋人で孫のヨハナとのラブシーンも余計

ケバブ屋のバイトだったのに、ってアンタ 笑)

序盤のサイドストーリはないほうが良かったかもですね

でもピザ屋のドラゴン・タトゥーなお姉さんが出てくるあたりから

グッと面白くなるので(笑)

最後まで投げ出さずに見てください

コリーニ役がフランコ・ネロなのは嬉しい驚き

原作者のフェルディナント・フォン・シーラッハの祖父は

ナチス党全国青少年指導者でドイツでは有名な弁護士ということ

そんな元ナチス幹部の存在や法律が身近にあってこそ

実際にある刑法をここまで切り込むことができたのでしょう

2012年、ドイツ連邦法務省では調査委員会を立ち上げたそうです

 

 

【解説】映画.COMより

ドイツの現役弁護士作家フェルディナント・フォン・シーラッハの世界的ベストセラー小説を映画化した社会派サスペンス。新米弁護士カスパー・ライネンは、ある殺人事件の国選弁護人を担当することに。それは、ドイツで30年以上にわたり模範的市民として働いてきた67歳のイタリア人コリーニが、ベルリンのホテルで経済界の大物実業家を殺害した事件で、被害者はライネンの少年時代の恩人だった。調査を続ける中で、ライネンは自身の過去やドイツ史上最大の司法スキャンダル、そして驚くべき真実と向き合うことになる。主人公ライネンを「ピエロがお前を嘲笑う」のエリアス・ムバレク、被告人コリーニを「続・荒野の用心棒」の名優フランコ・ネロが演じる。監督は「クラバート 闇の魔法学校」のマルコ・クロイツパイントナー。