ゆきゆきて、神軍(1987)

「今日の結婚式は、花婿と媒酌人が共に反体制活動をした

 前科者であるがゆえに実現しました

 たぐいまれなる結婚式でございます」

凍り付く花嫁と親族たち(笑)

すみません、これはコメディ映画でしょうか

田中角栄を殺す」 「宇宙人の聖書!? 」の選挙カー

奥崎謙三がヤバすぎて笑ってしまうんですけど(笑)

面白いけど、「近寄りたくない人」「関わり合いたくない人」

今も生きていたらSNSでバズりまくりだと思います

ニューギニア戦線の日本軍の第36連隊の生き残りで

アナーキストで作家でもある前科三犯の奥崎謙三

かっての戦友たちの慰霊の旅に出ます

広島県の島本正行一等兵の墓を訪ね母イセコに感謝されると

「自分がお世話しますからニューギニアに行きませんか」と話をもちかけます

戦死した仲間や、その家族を思うやさしい気持ちはあるんですね

なので戦争が生み出した悲劇

義憤(ぎぶん)に駆られた男の正義のための行動

という見方もできるんですけど

本人自体が道から外れすぎている(笑)

そしてそういう自分に酔っているのです

戦後36年目にして、36連隊のウエワク残留隊に従軍していた

(遺族には戦病死したと伝えられた)吉沢と野村という2人の日本兵

終戦23日目に敵前逃亡の罪で銃殺処刑されていたことを知ると

真実を探るため、2人の遺族とともに

ウエワク残留隊の生き残りに会いに行きます

これ、今なら顔を隠したり声を変えると思うんですけど(笑)

実名のうえ、家や家族まで撮影されてよく上映の許可がおりましたね

 

最初は誰も口を開かないし、無礼な態度を取られるときもあります

すると奥崎は暴力を振るってでも、無理矢理自白させます

「食べたか?食べていないか?」

やがて奥崎が冷静になり

(間があるのはスタッフが奥崎を止め、話し合いによる演出だろう)

戦争責任を取るべき本当の相手を探す事が困難になること

後世に真実を伝えないと、再び戦争を起こしてしまう可能性があること

「誰が悪い」を追求する事ではなく、戦争を止める事が大切だと

問い詰めると、誰もが「食べた」事を認めることになります

神戸市で食堂を営んでいる元衛生兵のおやじは

ジャングルでは周囲4キロを米軍に包囲され、飢えと疲労のため

白人を白ブタ、土人(原住民)を黒ブタと呼び

人肉食が行われていたことを告白します

2人の日本兵は食べ物を探すため脱走し

終戦後戻ってきたため処刑されたといいます

「じゃあ、ブタというのはすべて人肉のことだったんですね」

土人(本物の)豚を取ったら、土人から殺されるからね」

「でも白ブタも黒ブタも捕まえられないこともあったでしょ

 そういう時は部隊の下の方から殺して順番に食べていったんじゃないですか」

「いや、私のいた部隊では日本兵は食べなかった」

処刑を命令した元ウエワク残留隊隊長村本政雄に会いに

広島県大竹市に行き「軍法会議によらない処刑は殺人だ」と迫ると

村本は、処刑を命じた理由は2人が人肉を食べようとしたためで

自分は処刑の場にいなかったと答えます

そこで(奥崎に組み伏せられて大騒ぎになった)妹尾幸男を再訪すると

妹尾は村本の命令で妹尾と高見(旧姓妹尾)含めた5人で2を撃

最後に村本が拳銃とどめをさしたといいます

 

高見を再訪した奥崎は

照準こそ外したものの、自分も撃ったことを認め

やはりとどめをさしたのは、村本だと言います

さらに奥崎のいた36連隊本隊でも「くじ引き」が行われ

橋本義一軍曹が殺された事件があったことを知ります

奥崎はアナーキストの知人大島栄三郎と妻のシズミを遺族にしたて

埼玉県深谷市にいる元軍曹で病気療養中の山田吉太郎に会いに行きます

そこでもキレて喧嘩になり、奥崎が自分で110番する始末

山田は橋本が食料を盗んだため他の兵士の食料にされたのだろう

自分も危なかったが、山のこと勘が利いたので食われなかったと言うと

足を怪我したかもしれないと救急車で運ばれるのでした

島本イセコが死に墓参りに行く奥崎

イセコはニューギニアに行くためパスポートを作っていました

(ローマ字のサインが悲しすぎる)

1983年、奥崎はひとりニューギニアに行

 

その年、村本宅を再訪すると出てきた息子に発砲し重傷を負わせ

殺人未遂などの罪で徴役12年の実刑判決を受けます

そんな奥崎を支え続けた奥さん

だから苦労して早死にしたんだわ



 

【解説】映画.COMより

ドキュメンタリー映画監督の原一男が、過激な手段で戦争責任を追及し続けるアナーキスト奥崎謙三の活動を追った傑作ドキュメンタリー。神戸市で妻とバッテリー商を営む奥崎謙三は、自らを「神軍平等兵」と名乗り、「神軍」の旗たなびく車に乗って日本列島を疾駆する。ある日、自身がかつて所属していた独立工兵第36連隊で、終戦後23日も経ってから敵前逃亡の罪で2人の兵士が処刑されていたことを知った奥崎は、その遺族らとともに真相究明に乗り出す。時には暴力も辞さない奥崎の執拗な追及により、元兵士たちの口から事件の驚くべき真実と戦争の実態が明かされていく。1987年の初公開時は単館上映ながら大ヒットを記録。第37回ベルリン国際映画祭カリガリ映画賞を受賞するなど、国内外で高く評価された。戦後75年、奥崎謙三生誕100周年となる2020年の8月、全国のミニシアターでリバイバル公開。

1987年製作/122分/日本
配給:疾走プロダクション
劇場公開日:2020年8月14日

その他の公開日:1987年8月1日(日本初公開)