システム・クラッシャー(2019)

「やる気ない」
「なくてもできる」

 

原題の「Systemsprenger」(システム破り)とは

ドイツ語の隠語で、乱暴で問題ばかり起こし

(そのため施設を転々とする)制御不能な子どもたちのこと

監督のノラ・フィングシャイトはホームレス女性のドキュメンタリー映画の撮影中

宿泊支援施設「カリタス女性シェルター」で14歳の少女に出会い

福祉機関のサービスを受けられなくなった

「システム・クラッシャー」と呼ばれる子どもがいることを知り

保護施設、児童精神科医、児童心理学者などに話を聞き

5年間にわたり調査し脚本を書いたそうです

日本でも喧嘩や暴力行為や、指導に従わず他者へのいやがらせが絶えない

学級崩壊の引き金になるような児童は結構いるのではないかと思います

それが発達障害によるものか

虐待などによる後天的な疾患かは当事者でないとわかりませんが

保護者でさえ養育が困難になり、育児放棄してしまう場合もあるんですね

そういう子どもを更生させる大変さを、実にリアルに描いていて

しかも救いも解決策もない

なぜならかれらが反抗する本当の理由は「ママに愛されたい」だけだから

愛を独占したいという気持ちが、自分や他人を傷つけてしまうのです

なのにここまでしても、大人はわかってくれない

 

母親には母親の都合もあるだろうし

(子どもより、好きな男と)幸せをつかみたい気持ちもわからなくもないけど

そういう女ほど、なぜかダメンズしか寄ってこない悪循環

ラストのフレームがひび割れる表現は

大人に都合のいいシステムを飛び出して、未来へ飛び立つ・・

という意味なんでしょうね(たぶん)

とんでもない悪ガキでも、立派な大人になるというのも

よくある話ですし(笑)

9歳の女の子バーナデット、通称「ベニー」は

父親からの虐待が原因で(特に顔を触られると)すぐに暴力を振う狂暴な性格で

里親、グループホーム、特別支援学校から次々追い出され

社会福祉課のソーシャルワーカー、バファネは

彼女の受け入れ先を探すのに苦労していました

見つからなければ精神病棟に入院させるしかありませんでした

施設から逃げたベニーはヒッチハイクをして家に帰り

(子どもだけで留守番していて)ホラー映画を見ている

幼い弟妹に見ちゃダメだとアニメにチャンネルを切り替え

食事を用意して食べさせます(幼い子に対する思いやりはある)

そこに母親のビアンカが戻ってくるとベニーはママに会えて大喜び

ところが(一度別れたがヨリを戻したらしい)彼氏のイェンスが一緒だと知ると

 

ベニーは花瓶でイェンスを襲い、次にビアンカを襲います

イェンスはベニーを殴るとクローゼットに閉じ込め

ビアンカは警察を呼ぶのでした

バファネは、16歳以上の不良少年のための更生スタッフ

(怒りのコントロールトレーナー)のミヒャを通学付き添い人として雇い

ミヒャはベニーを自立させるため、電気も水道もない森のコテージで

彼女とともに3週間の隔離生活をすることにします

 

(ワルの取り扱いに慣れている)ミヒャは「賭け」を利用したりして

ベニーにやる気を起こさせ、やがてベニーもミヒャとの生活が気に入ります

でも(虐待を受けたPTSDにより)「おねしょ」をしてしまった夜

ミヒャのベッドに忍び込むとベッドから追い出されてしまい

(成人男性が9歳の女の子と寝たらそりゃ問題になるよね)

コテージから逃げ出してしまいます

ベニーは近くの酪農家に保護されていて

(青少年更生のために協力してもらっていると農家と思われる)

ミヒャがこんな真似をして「精神病院に入りたいのか!」と激怒すると

(自分がクビになるという本音も漏らしてしまう)

酪農家は「税金の無駄遣いだ、そうしたほうがいい」と言います

 

でもこの不愛想で口の悪い爺さんが

いちばんベニーのような子どもを理解している気がします

3週間の森での生活が終わると、ベニーは車の窓ガラスに頭を打ち付け

施設に戻ることを拒否

ミヒャは仕方がなく「一晩だけ」の約束でベニーを自宅に泊めます

ミヒャの家には妊娠中の妻のエリと赤ちゃんのアーロンがいて

エリは温かくベニーを迎え入れます

ベニーがミヒャに「私のパパになって」と頼むと、それは無理だとミヒャ

「あんたの家族を殺したら独り占めできる」とベニー

それは子どもの何気ないひとことだけど

子どもだからこそ、向こう見ずな残酷さが怖い

ミヒャはベニーの付き添い人を辞めようとしますが

バファネはミヒャに続けて欲しいと説得します

 

ベニーは以前暮らしたことがある里親に預けられ

ベニーの母親は彼氏と別れたので、ベニーと再び暮らせることを打ち明けます

ベニーもバファネもソーシャルワーカーたちも喜び

これからの生活のためのケース会議(支援の方向性の確認と課題共有)の日

母親はやはりベニーと一緒に暮らすのは無理だと会議から逃げ出してしまいます

バファネが理由を問いただすと

ベニーの凶暴さが弟妹に悪影響を及ぼすことが心配だからと言います

(自分の男関係のほうが悪影響とは思わないのね)

バファネはちゃんとベニーに別れを告げるべきだと説得しますが

それさえも聞き入れてもらえず母親は消えてしまいます

ベニーを失望させてしまったことに涙を流すバファネ

バファネが何故泣いているかも気付かず、彼女を慰めますベニー

母親と暮らせないと知ったベニーは(お気に入りの)アイススケート場で

里親のもとで一緒に暮らす里子からアイスキャンディを取り上げ

奪い返そうとした里子が知らずにベニーの顔に触れてしまったため

里子の顔をスケートリンクに何度も打ち付け、重傷を負わせてしまいます

ベニーは以前滞在たことがある緊急宿泊施設に(短期的な措置として)戻され

精神科医は、ベニーのような子どもの更生で実績のある

ケニアの施設に留学することを勧めます

 

ベニーはミヒャの家に逃げ

ミヒャは妻の勧めでベニーを翌朝まで預かることにします

早朝、ミヒャと妻がまだ眠っている間ベニーは彼らの寝室に入

ベビーベッドから赤ちゃんを抱き上げるとキッチンに連れて行き

ミルクを与え可愛がります

赤ちゃんがベニーの顔に触れても、今までのようにキレることはありません

 

ベニーは自分でも、自分を制御できないことを理解し始めていて

相手を傷つけてしまうという失敗を克服しようとしていたんですね

でもその姿は大人には見えない

母親エリが赤ちゃんを取り戻そうとすると

ベニーは赤ちゃんを離そうとせず攻撃的になってしまい

浴室に鍵をかけて閉じこもってしまいます

ミヒャがドアを壊して中に入ると、ベニーは窓から逃げ

赤ん坊は無事でした

 

ベニーは靴下と寝間着姿のまま冬のを走り続け

やがて寒さで倒れてしまいます

そこに現れたのは、夢か現か酪農家が飼っていた犬でした

犬小屋の中で犬を抱くベニー

病院に運ばれたベニーは、夢の中で皆から赦してもらいます

バファネは怪我をさせた里子は回復したといい

学校に復帰するとミヒャがやさしく見守ってくれている

そうしてベニーはケニア留学する決心をします

だけど飛行機が飛び立つ直前、空港セキュリティを抜けて逃げ出してしまいます

 

ソーシャルワーカーが追いかける中

ベニー空中に飛翔し微笑んだのでした

 

 

【解説】映画.COMより

社会に居場所をなくしてしまった9歳の少女の姿を繊細かつ強烈な描写で描き、2019年・第69回ベルリン国際映画祭アルフレッド・バウアー賞銀熊賞)など世界各地で数々の賞に輝いたドイツ映画。
父親から受けたトラウマを抱える9歳の少女ベニーは手のつけようがないほど攻撃的で、里親やグループホーム特別支援学級など行く先々で問題を起こしていた。ベニー本人は母親のもとへ帰ることを望んでいたが、母親はベニーに愛情を持ちながらも接し方がわからず、施設に押しつけ続けている。そんな中、非暴力トレーナーのミヒャは3週間の隔離療法を提案し、ベニーと2人きりで森の山小屋で過ごすことに。はじめのうちは文句を言い続けていたベニーだったが、徐々にミヒャに対して心を開き始める。
本作出演後に「この茫漠たる荒野で」でハリウッドデビューを果たしたヘレナ・ゼンゲルが主人公ベニーを熱演し、「西部戦線異状なし」のアルブレヒト・シュッフがトレーナーのミヒャを演じた。監督・脚本は、本作が長編デビュー作となるノラ・フィングシャイト。

2019年製作/125分/ドイツ
原題または英題:Systemsprenger
配給:クレプスキュールフィルム