「お産の時の話を聞いてみたい」
原作は佐木隆三の「身分帳」
モデルは前科10犯で延べ23年間も刑務所に入り
成人してからはシャバで2年以上続けて暮らしたことがなかったという田村明義
獄中で佐木の犯罪小説を読んだ田村が45歳で出所したのち
直接「自分をモデルに小説を書いてくれ」と連絡して実現
田村(当時46歳)のインタビューをもとに制作されたラジオ番組
「戸籍のない男〜バラ24本の幸せ〜」の音源を奇跡的に入手
田村の肉声をもとにイメージを膨らませ脚色したそうです
タイトルの「すばらしき世界」は配給会社から
「”身分帳”では意味も分からず、客を呼べない」というタイトル変更の要請で
西川が考えついたもの
「幸せの黄色い自転車」でもよかったけど
それではパクり感が強すぎる(笑)
終盤にかけての主人公三上正夫(役所広司)と
(自称「ケンカのマー坊」と言うダサさ)
テレビクルーで三上の母親探しを頼まれた津乃田(仲野太賀)
スーパーの店長(六角精児)が
逃げるが勝ち、見て見ぬふりすることも必要だと
アドバイスします
そのちょっと前、ミシンの仕事もなく、自動車免許も取れず
何もかもうまくいかない三上は、結局故郷でヤクザをしている
下稲葉(白竜)を頼ると、派手な歓迎はうけたものの
下稲葉の組が警察沙汰になり
下稲葉の妻マス子(キムラ緑子)は三上に金一封を与え逃がします
東京に戻った三上は、区役所のケースワーカー(北村有起哉)の勧めで
介護施設の就職が決まります
その頃には最初トラブルを起こした、同じアパートの外国人労働者たちとも
元気に挨拶を交わす
介護士ふたりに虐められている現場を目撃
思わず介護士たちを叩きのめそうとする三上でしたが
保護司に言われて「見て見ぬふり」をしてしまう
介護士を許せなかった
でも阿部が殴られていたのは、入居者のの介助中にスマホでゲームをしていたから
彼らも三上と同じ、カッとなり殴ったあと止まらなくなってしまったのです
それを笑い話にしてしまうのも、かっての自分の姿なのかも知れない
保護司の奥さんの言う通り
素直で、真っ直ぐすぎるのよ
阿部は殴られたことなど忘れたかのように
台風が来るからとコスモスの花を摘み、三上に差し出します
帰り道、元妻(安田成美)から「娘と一緒に会いたい」と電話が来たのは
私は神様からの贈り物だったと思います(現実ではなく、幻)
神様はこの「すばらしき世界」の「見て見ぬふりをする」という苦行から
三上を救うため手を差し伸べたのです
そして天国では、迎えに来た白い割烹着のお母さんに
手に持っていたコスモスの花束を渡したと、そう信じたい
三上が死んだアパートに集まった保護司や津乃田たちの上には
(監獄からは見れない)真っ青な空が広がっていました
【解説】映画.COMより
「ゆれる」「永い言い訳」の西川美和監督が役所広司と初タッグを組んだ人間ドラマ。これまですべてオリジナル脚本の映画を手がけたきた西川監督にとって初めて小説原案の作品となり、直木賞作家・佐木隆三が実在の人物をモデルにつづった小説「身分帳」を原案に、舞台を原作から約35年後の現代に置き換え、人生の大半を裏社会と刑務所で過ごした男の再出発の日々を描く。殺人を犯し13年の刑期を終えた三上は、目まぐるしく変化する社会からすっかり取り残され、身元引受人の弁護士・庄司らの助けを借りながら自立を目指していた。そんなある日、生き別れた母を探す三上に、若手テレビディレクターの津乃田とやり手のプロデューサーの吉澤が近づいてくる。彼らは、社会に適応しようとあがきながら、生き別れた母親を捜す三上の姿を感動ドキュメンタリーに仕立て上げようとしていたが……。
2021年製作/126分/G/日本
配給:ワーナー・ブラザース映画