暗黒街のふたり(1973)


ギャバンとドロンがこれまでに組んだ

ギャング映画を想像させるような、この邦題はなんだ(笑)

 

原題は「DEUXHOMMES DANS LA VILLE」で

直訳すれば”都市のふたりの男”という意味

 

監督になる前のジョゼ・ジョヴァンニは本物のギャングで

しかもゲシュタポに協力するファシスト

 

戦後には強盗殺人に関与し、死刑の判決まで受け

しかし人知れず尽力した父親のおかげで大統領恩赦を受け

死刑台から免れることができたそうです

 

出所後は自らの経験を題材に小説を発表しながら
映画監督、脚本家としても活動
 
しかもかっての仲間が、再び犯罪に手を染めないよう
援助したということ
 

そんなエピソードを知ると、この映画がさらに深いものに感じます
かっての犯罪者にあまりにも残酷な社会と

ギロチン刑への批判

 
まず冒頭で「フランスにはまだ2台のギロチンがある」と
ギャバンが嘆きます

 

フランスでは1981年にミッテラン大統領によって死刑制度が廃止されますが

それまで死刑の執行方法はフランス革命から続くギロチンのみ

 

しかも死刑囚の処刑の写真を新聞で発表までしていたというのですから

驚きます(日本は絞首刑)

 

 


ズヌーブ(ギャバン定年間近のベテラン保護司

10年前に銀行強盗で逮捕されたジーノ(アラン・ドロン)の更生を信じ

周囲の反対を押し切り出所させます

 

しかし世界一不運が似合う男といえば

アラン・ドロン(笑)

 

早速昔の悪い仲間たちが現れ不穏な空気が漂います

それでも愛妻ソフィーとの新しい生活のため

仲間を遠ざけ、真面目に仕事に取り組もうとするジー

仕事も軌道に乗り、新車も購入

 

そんな彼とソフィーを家族同様に迎えるカズヌーブ

だけどソフィーが交通事故によって死んでしまう

 

やっと立ち直り新しい恋人ができたところに現れたのが

かってジーノを逮捕した刑事、ゴワトローミシェル・ブーケ

 

カズヌーブがいくらジーノの更生を主張しても

ゴワトローはジーノの再犯を信じて譲らない

 

ジーノの恋人のルシーが銀行員であることも災いして

銀行強盗のために付き合っていると信じ込んでいるのです

 

司法による特権を悪用したストーカー行為

ミシェル・ブーケが見事にヤな奴を演じ切っています

こんなに付きまとわれたなら、誰でもノイローゼになってしまう

 

ゴワトローがルシーを尋問しに来た時、ついにジーノは爆発
 

ゴワトローしてしまいます

 

いくらルシーとカズヌーブが弁明しても

ジーノの「仕事熱心な刑事を殺した前科者というレッテルは変えられない

 

あっという間にジーノに死刑が言い渡されます

 

もし私が陪審員でも、同じく有罪に票を入れるでしょう

そうなった”過程”など考えないし、知ろうとも思わない

 

いくら真面目に働いて、更生しても

 

元犯罪者がおかれた立場がどれだけ厳しいのか
 
 
こんな私にも堂々と訴えてくる

非エンターテイメントながら、強力な1

 

ギャバンが亡くなる3年前に制作された、ドロンとの最後の共演作
 

死刑台に向かう憔悴しきった主人公と、もの言わぬ目と目で語る一瞬

最後まで法の正義を信じた老保護司の虚無

 

ふたりがあまりにも大物過ぎて(笑)

ストーリーの持つ重要性が語られることは少ないようですが

 

自分も加害者関係者
になって考えさせてくれる

隠れた社会派問題作でしょう

 


【あらすじ】KINENOTEより

ジーノ(A・ドロン)は三十歳。十年前に銀行強盗の首領として逮捕され、十二年の刑を受けたが、保護司のジェルマン・カズヌーブ(J・ギャバン)の力添えによって出所することが出来た。彼には美しい妻ソフィー(I・オッキーニ)が待っていた。ジーノの新しい生活が始まった。妻は小さな花屋を経営しており、それは質素だが、明るい、楽しい日々だった。ある日、ジーノの出所を知った昔の仲間がやってきた。再び手を組んで大仕事をしようという。ジーノはきっぱりと断わった。犯罪歴を持つ者はパリを始め、大都会、港町に住むことを許されない、いわゆる“所払い”というやつだ。ジーノと妻はやがてモー市に移住した。一方、ジェルマンもモンペリエに移住した。軽犯罪係への転勤ということだが、ていのいい左遷であった。それでも、ジーノとジェルマンの家族は、週末にはピクニックに出かけた。突然、悲劇がジーノを襲った。楽しいピクニックの帰路、暴走してくる二台の車を避けようとしたジーノのスポーツカーは横転して、大破したのだ。この事故で最愛の妻ソフィーが死んだ。自暴自棄の日々が続いた。月日が流れ、ようやく傷が癒えると、ジェルマンのすすめでモンペリエに移り、刑務所で身につけた印刷技術に助けられ、印刷工場で働くことになった。そして、新しい恋人ルシー(M・ファーマー)がジーノの前に現われた。同時に、ジーノの運命を変えるもう一人の人間が出現した。この地に赴任してきたゴワトロー警部(M・ブーケ)だった。もう忘れかけていた十年前、銀行に押し入ったジーノを捕えたのがゴワトローだった。以後、ゴワトローの執拗な監視の眼が、ジーノを追い廻し始めた。ある日、ジェルマンのところへ、ルシーがとび込んできた。「ジーノが警察に留置されている」。容疑は何もなかったが、ゴワトローは異常な程ジーノを憎んでいた。偶然、ガソリン・スタンドで昔の仲間と会ったことが、ゴワトローの気に入らなかったのだ。しかし、ジーノは二度と昔の仲間と仕事する気はない。ゴワトローは彼を信ぜず、二度と奴らに会わない宣誓書を書けという。無茶苦茶な要求だったが前科者は常に弱い。釈放されてからも、ゴワトローの追求は続いた。そんなとき、昔の仲間が銀行を襲った。もちろんジーノとは無関係だったが、ゴワトローはジーノが首領だと思いこんでいる。重傷を負った一人を病室のベッドで尋問するが、ジーノの犯行を立証出来ないゴワトローは、ついに彼の家にまで押しかけ、ルシーを脅迫する。これを蔭で盗み見ていたジーノの怒りが爆発した。ゴワトローがルシーの身体に手をかけたときジーノはゴワトローに襲いかかり、首をしめ上げた。ゴワトローは死に、ジーノは逮捕された。公判、過去に犯した行為が決定的に心証を悪くしている上、被害者は刑事だ。検事のたくみな弁舌がより一層、極悪人としてのジーノを印象づけた。ジーノの女性弁護士(M・リボフスカ)は、犯罪を誘う要素が、この国に存在することを強く指摘した。処刑の際の十七世紀の遺物ギロチンが、いまだに使われているような古さを、あの劣悪な刑務所内の環境を。しかし、裁判官も陪審員も彼女の弁論には無関心であった。既に結論は最初から出ていたのだ。判決が出た。求刑どうり死刑だった。大統領への助命嘆願も拒否され、処刑の日がやってきた。ギロチン前に引きだされたジーノが、最後に振り向いたときの眼が、ジェルマンの心に焼きついた。