太陽はひとりぼっち(1962)


「愛し合うのに互いを知る必要ないわ

 ・・・愛し合う必要もないかも」

 

 

原題は「L'ECLISSE」(日蝕)で

(名声などからの)失墜という意味もあるそうです

邦題は同じアラン・ドロンの「太陽がいっぱい」(1960)の

成功にあやかって付けたもの(ばかだ)

 

ミケランジェロ・アントニオーニ監督による”愛の不毛三部作”の

「情事」1960「夜」1961)に続く最後の作品ですが

(「赤い砂漠」(1964)を加えて愛の不毛四部作ともいわれることもある)
 

恥ずかしながらアントニオーニ初体験(笑)

 

何も起こらない、何も解決しない

何を言いたいのかわからない

腑に落ちない結末とういのが

このシリーズの特徴だそうですが

 

愛の不確実性を表現するのには成功していて

 

男女の不毛や、倦怠や、無意味を

当時の核戦争になればすべて消えてしまうという恐怖や

 

人間の価値観によって、アフリカで動物たちが殺されている現実

金融取引で破産してしまう人々に置き換えて例えている

そう思います

 

殺風景な風景に、生活感のない部屋、この漂う虚無感が

ドロンとモニカ・ヴィッティの美さをより際立させる

カメラは「81/2」(1965)のジャンニ・ディ・ヴェナンツォ

 

朝、ヴィットリア(モニカ・ヴィッティ)は恋人と別れます

彼女には相手を愛せなくなった、何か理由があるのだろうけど

男には理解できない

当然のようにストーカー化してしまいます

 

そんな時出会ったのが、株の仲買人ピエロ(ドロン)

証券取引所の描写は実際の記録映像かというくらいリアル

 

人々が右往左往して叫び続け、怒鳴りまくる活気と迫力

そして投資家たちの様々な表情に溢れています

それと対比するように、人気のない街を通り過ぎていく馬車

 

酔っ払いに車を盗まれ、男が川に落ちて水死

その車を修理して乗ろうとするピエロに

ヴィットリアは別の車にしてと言う

 

新たな付き合いが始まるものの、空虚な雰囲気は消えず

愛など見当たらないただの戯れ

 
 
ピエロとも、友人たちとも、笑い、思い切りはしゃぐ

なのに別れた途端に冷めてしまい

能面のような顔になるヴィットリア

 

明日もあさっても、これから毎日会い続けることができる

今夜もまた会おうとピエロと約束するヴィットリア

 

でもその時が来ても、うれしさも、喜びも何もない

裕福で幸福なはずなのに、すべてが満たされないまま

 
 
この作品が理解しにくいひとつの理由は

愛することは必要なのか?という問いかけに

答えられないところにあると思います

 

 

相手の気持ちを考えるとか、他人を理解するなどすべて戯言

株式投資と同じ、人間の気持ちにも浮き沈みがあり

左右されてしまう

 

アントニオーニとモニカ・ヴィッティ6本もの作品で組み

公私ともにパートナーだったそうですが

アントニオーニの想いとは違い、結婚まで至らなかったそうです

 

アントニオーニがヴィッティから、訳もわからず感じていた閉塞感

そんな理不尽さが”愛の不毛”作を作り上げたのかも知れません

 
 
しかも虚しさを映像美にまで託すというこの技は

アンドレイ・タルコフスキーまでにも影響を与えたという

映画職人のための映画でもあるでしょう

 

そしてすべてシーンが画になるアラン・ドロン

 

彼のネームバリューこそが、今もこの作品を

名作の仲間入りにしているのかも知れません

 


【あらすじ】KINENOTEより

ヴィットリア(モニカ・ヴィッティ)は婚約者リカルド(フランシスコ・ラバル)と重苦しい話しあいの一夜をあかしたすえ、彼との婚約を解消した。あとを追うリカルドをふりきって、彼女は一人になる。ブルジョアの彼との間にある埋めがたい距離をそのままに、結婚することは耐えられないことだ。彼女は証券取引所にいる母を訪ねる。株価の数字の上げ下げを追う狂騒的な取引所の雑踏の中で相場を張っている素人投資家の母は、彼女の話を聞こうともしない。女友達のアニタとマルタの三人で、深夜のアパートでふざけちらしてみても、空しさは消えない。アニタの夫のパイロットが操縦する飛行機にのってみても、倦怠の日々は少しも姿をかえはしない。ふたたび訪ずれた取引所では、株の大暴落がはじまっていた。彼女の母は投資資産のすべてを失ったすえ、大きな借金をせおいこんだ。巨額の金を暴落で一瞬に失った肥った中年男は、カフェのテラスで茫然と紙に草花の絵を描いていた。取引所には株式仲買所につとめる美貌の青年ピエロ(アラン・ドロン)がいて、前から彼女と時々言葉をかわしていた。この日を境に、二人は接近した。二人は町を歩く。公園、ビルの谷間、建てかけの建築物のある道、市場。そして二人は、ピエロのオフィスで結ばれる。抱きあって、話をかわし、笑い、やがて朝がきて、二人は別れる。「あした会おう、あさっても、次の日も……」。二人はキスして、別れていく。やがて電話のベルがオフィスに鳴りひびいて、新しい一日がはじまろうとしている。二人が散歩した公園もビルの街並も、建てかけの建築物のある道も、今日も少しも変らずにそこにある。しかし、新しくはじまった今日のどこが、旧いすぎさった昨日と違うのか。ヴィットリアは昨日と同じように、今日の中にまた歩みはじめる。