帰らざる夜明け(1971)

 

原題は「La Veuve Couderc」(未亡人クーデルク)

カミュの「異邦人」の主人公

ムルソーの後日譚を思わせるようなストーリーでしたね

ムルソーは母親の葬儀で涙を流さなかったせいで

人間味のかけらもない冷酷な人間だと非難され

さらに友人のトラブルでアラブ人を殺してしまい

その理由を「太陽のせい」と答えます

本作の主人公ジャンは(ラスト、ジャンについての犯行が語られる)

物理学者エティエンヌ・ラヴィーンの息子で

12年前レストランで食事中、政府の高官ふたりを殺害

裁判長が理由を尋ねると、「ただいらいらしたから」

脱獄したジャン(アラン・ドロン)が、田園地帯を歩いていると
バスが停まり、中年女が重そうな荷物を下ろします

荷物は鶏卵用の石油孵化器だという

ジャンはそれを運ぶのを手伝うといい、そのまま彼女の農場で働くことになります

女はクーデルク(シモーヌ・シニョレ)といい、未亡人で舅と暮らしていました

クーデルクは14歳の時に奉公に来て

主人(今の舅)と息子の両方に手篭めにされます

そのまま息子の嫁になり夫は死に、女手ひとつで農家を切り盛りしていました

さらに老いた舅の身の回りの世話と

今も夜を共にさせられています

クーデルクの家の前にある、船が通る川(ブルゴーニュ運河)の向こう岸には

死んだ夫の妹夫婦が住んでいて、クーデルクを売女と呼び

老父を引き取ってクーデルクの家を奪い売り払おうと企んでいます

さらに妹夫婦には、赤ちゃんの世話をする(誰が父親か分からない)

知的障害のある16歳の娘フェリシー(オクタヴィア・ピッコロ)がいて

フェリシーはジャンに興味を持ちます

クーデルクは幸せとも愛とも縁のなかった女

家と農地を守るため働き尽くめ、気が付けば年増

身についたものは諦めと貫禄だけ

でもジャンは思いがけず優しく、とても仕事のできる男でした

近所の若い男を連れ込んだという心ない噂や、白い目を気にしません

(閉塞的な田舎の人間関係の醜さよ)

しかしある日、お尋ね者を探しているという村の警官が

ジャンの身元の確認にやってきました
ジャンの身分証に不審なところはなく、警官は納得して帰りますが
クーデルクはジャンから彼が人を殺し脱獄してきたと教えられます

ふたりはベッドを共にし、やっと安心できる場所を見つけたと思ったのか

ジャンは(変装のためと思われる)髭を剃り落としました

ドロンさまの男盛りの美しさが輝く(笑)

クーデルクは町まで行き、新しいネグリジェを買ってきます

しかしその夜ジャンはベッドにやって来ず

彼は村のダンスパーテイーでフェリシーを誘い

草むらで彼女を抱いたのでした

「おばさんは冷たい人よ」

「そうでもないさ」

クーデルクは怒り、翌朝帰ってきたジャンに

出て行くよう言い放ってしまいます
「あの子のどこがいいの」
「若さだ」
「正直ね ひどいわ」

「老いたわたしをその気にさせておいて否定するなんて」

クーデルクにとって、ジャンの行動は裏切り

確かにフェリシーを男として抱きたくなるのは当然だけど

ジャンはフェリシーのことを「愛している」とは言ってないし

クーデルクを年だからと嫌いになったわけでもない

ストライクゾーンが広いだけ(だと思う 笑)

農場を成功させたいのも本当の気持ちで

ジャンが修理した孵卵器が卵を温め始め、ふたりは抱き合って喜びます

「これで儲けて、運河も買い取れ」「妹に土地を取られなくて済む」

一方、妹夫婦は(ジャンにクーデルクを取られたと思ってる)老父を問い詰め

ジャンが人殺しらしいと聞き出すと

フェリシーをそそのかしジャンの身分証明書を盗むよう命令します

妹夫婦は警察に密告し、フェリシーはジャンにそのことを伝えるため走ります

ジャンは裏口から逃げようとするものの

すでに一帯は警官に包囲されていました

「こんなにいい天気なのに」

「行かないで」

ジャンは飛出し銃殺され(最もドロンさまらしい死に方よ 笑)
クーデルクも流れ弾を受けて死に

孵卵器から漏れた油に火が付き家は燃えてしまいます

この映画をどう感じるかは、ドロンさまとシニョレ姐さんの

14歳差の男女関係をどう見るかにかかっているのでしょうね

そこにオッタヴィア・ピッコロを使い

さらにシニョレ姐さんを老醜に見せ女の哀れを描く

でもラスト、好きな男のために死ねたことに後悔はないでしょう

すべてが妹夫婦の思い通りになって、全財産もっていかれるのは癪だけど



【解説】映画.COMより

メグレ警部ものなので知られているフランスの推理作家ジョルジュ・シムノンの小説から、「帰ってきたギャング」「未青年」などのピエール・グラニエ・ドフェールが監督したもので、彼自身が、「栗色のマッドレー」のパスカル・ジャルダンと共に脚色した。製作はラルフ・ボーム、撮影はワルター・ウォティッツ、音楽はフィリップ・サルドが各々担当。出演はアラン・ドロンシモーヌ・シニョレ、オッタヴィア・ピッコロ、ジャン・ティシェ、モニク・ショーメット、ボビー・ラポワントなど。日本語版監修は高瀬鎮夫。イーストマンカラー・メトロスコープ。

1971年製作/フランス
原題:Widow Couderc
配給:メトロ