異邦人(1967)

「昨日ママンが死んだ」

 

原題は「Lo Straniero」仏題は「L'Étranger」英題は「The Stranger

原作はアルベール・カミュの同名小説「異邦人」

私も10代の頃読んだことがあります

有名すぎる文学のわりに本が薄かったから(笑)

ヴィスコンティの幻の作品と言われていた所以は

日本では1968年に英語吹替版が上映

日本語吹替の短縮TV放映されたものの

ソフト化も、リバイバル上映もされなかったため

デジタル復元が叶った2021年にやっと上映

ファン待望のDVD化も叶い

オリジナル(イタリア語版)が見れるようになったそうです

(それが今じゃu-nextで配信 笑)

小説の映画化はカミュ自身のアイディアで

監督にはジャン・ルノワール

主役にはアラン・ドロンが考えられていたそうですが

カミュの死後、配給など多くの問題が生じ

ヴィスコンティに回ってきたそうです

撮影にあたっては、カミュの未亡人から

「原作に忠実であるように」と厳しい条件をつけられたうえ

脚本家のダミーコどんな監督も敵わないイタリア映画界の女王

カミュの弟子を介入させ

ヴィスコンティ不本意による妥協作品になってしまいます(笑)

さらに「主人公の内面を描けていない」

「無関心から生まれる味わいを表現出来るのは小説だけ」

ヴィスコンティをもってきても文学の映画化は無理」

ヴィスコンティの作品の中で最も成功度が低い」等々酷評される始末

そもそもフランス人の話をイタリア人にしている時点で無理があるがな 笑)

ヴィスコンティはインタビューで

「本当はシナリオなんか要らなくて、原作片手に撮れば良かったんだ」と

(ダミーコに直接言えない 笑)反論したそうです

だからといって決して駄作ではありませんでした

カミュの言葉のセンスのそのままに

思いやりに欠け、目先の欲望にだけ忠実な男

にもかかわらず見た目はエレガント

スーツ姿で決め(水着姿も2度あるよ 笑)

計算された顔の角度でタバコをくわえるマストロヤンニ

女が惚れてしまうのもわかります

ただ、アンナ・カリーナとの年の差も一目瞭然

そして、私の思うムルソーはもう少し若い

(マストロヤンニがあと10歳若ければ画的には完璧)

 

つまり私たちはムルソーでなく、マストロヤンニを見てる

アラン・ドロンが演じたとしても、ドロンにしか見えなかったはずです

 

(セリフも少ないので)新人俳優や、男性モデルを起用したほうが成功したかも

ムルソーは異邦人だから、「見知らぬ人」なのだから

第二次世界大戦のフランス領アルジェリア

死んだママン通夜で、棺の前で煙草を吸ったり

コーヒーを飲んだり、時間をもてあますムルソーマルチェロ・マストロヤンニ

その日のうちに葬式を済ませ、さっさとアルジェに帰ってしまいます

 

翌日には元同僚のマリー(アンナ・カリーナ)と

コメディ映画を見に行き笑ころげ一緒に帰宅して寝ます

「結婚してほしい」とマリー

「どっちでもいい」とムルソー

そんな時友人のレイモンが、恋人のアラビア娘を殴ったという事件が起きます

レイモンは売春を斡旋している噂のある評判の悪い男でしたが

ムルソーはレイモンのアリバイ作りに協力します

 

ムルソーとマリーが、レイモンの知人の別荘のある海岸に遊びに行くと

3人のアラビア人がやってきて(ひとりはレイモンに殴られた娘の兄)

喧嘩が始まります

レイモンが刺され、ムルソーは彼を病院に運び

再び海岸に戻ると、妹を殴られたアラビア人も戻ってきます

ムルソーは銃でアラビア人を撃ち、アラビア人は死に

ムルソーは逮捕されます

相手は移民のアラビア人、自国の法廷

正当防衛だと訴えれば、無罪になったのに

 

ムルソーはママンの死から、全て正直に話し

検察から問われた、殺人の動機については

「太陽がまぶしかったせい」と答えます

絞首刑を宣告をされたムルソー

死刑前に神父の言葉を聞くことを拒み

 

「神の言葉が、一体なんなのだろう」

「ママンの死が、アラビア人の死が、一体なんなのだろう」

「誰れもがいつかは死ぬ」と訴えるのでした

今の時代なら、ムルソーを異邦人と思う人はいないでしょう

シャイで不器用、言い訳ができない、結婚に無関心

他人との付き合いより、ひとりでいるほうが楽だから

 

ぜひ若いシネフィルにも見ていただいて

考察してほしいと思います

 

【解説】映画.COMより

ノーベル賞作家アルベール・カミュが1942年に発表し、人の心理に潜む不条理の意識を巧みに描いた小説「異邦人」を、イタリア映画界の巨匠ルキノ・ビスコンティ監督が映画化。第2次世界大戦前のアルジェ。会社員のムルソーのもとに母の死の知らせが届く。葬儀で涙も流さない彼は翌日、元同僚の女性と喜劇を見に行き夜を共にする。その後、友人とトラブルに巻き込まれたムルソーは預かっていた拳銃でアラブ人を射殺してしまう。太陽がまぶしかったという以外、ムルソー自身にも理由はわからず、非人道的で不道徳だと非難された彼は裁判で死刑を宣告されるが……。生きることに無関心なムルソーマルチェロ・マストロヤンニが好演した。1967年に製作され、日本では68年9月に英語版で公開された。その後は短縮吹き替え版などがテレビ放送され、権利関係の問題でソフト化などもされずにいたが、2021年3月に復元されたイタリア語オリジナルの「デジタル復元版」で劇場公開が実現する。

1968年製作/104分/G/イタリア・フランス合作
原題:Lo straniero
配給:ジェットリンク
劇場公開日:2021年3月5日

その他の公開日:1968年9月21日(日本初公開)