揺れる大地(1948) デジタルリマスター版

映画は貧しい一漁村にロケして製作され
 出演者もすべて 住民の中から選ばれた
 反抗という言葉も知らない 純朴な人々だった

 

原題は「La terra trema: episodio del mare

揺れる大地海のエピソード)

原作は シチリアの作家ジョヴァンニ・ヴェルガ

I Malavoglia」(マラヴォリア家の人々 1881

前半やたらと邪魔くさいナレーションが多いのですが(笑)

当初はイタリア共産党出費の選挙用のプロパガンダ映画

イタリア南部の労働者のドキュメンタリー3部作の

1作目の予定だったそうです

2作目は農村のエピソード、3作目は鉱山のエピソード)

 

が、プロパガンダ映画といえば、資本主義に対抗した労働者が結束して

戦って勝利を収めるみたいな内容ですが

伯爵ルキノ・ヴィスコンティ様、結束させるどころか村八分

見事共産化を失敗させ、ネオレアリズモに方向転換(笑)

主人公をどんどん惨めなどん底生活に突き落としてしまいます

おかげでかどうか、予算はなくなり

母親の宝石や、一族のローマにあるアパートを売って映画は完成

これってヴィスコンティじゃなきゃ出来ないよね(笑)

 

デ・シーカの「自転車泥棒(1948)も現地の素人を使っていますが

こちらは漁民や家族もそのまま家族の役で起用するという徹底ぶり

そのため撮影は困難を極めたそうです

(後半は演技がうまくなっている 笑)

その分リアリティある映像は素晴らしい

穴だらけのセーター、つぎはぎのズボン、裸足で平気で岩場を歩く

しかし画は美しく、特に黒髪、黒い服、美しく映える黒

助監督はフランチェスコ・ロージフランコ・ゼフィレッリ

若かりし日の巨匠の才能が光ります

 

シチリア島の寒村で家族と漁師を営むウントーニは

海兵隊員で男前、結婚を考えている恋人もいます

これは「ニュー・シネマ・パラダイス(1988)

ラストの名キスシーンのひとつで、作中で上映もされている映画

ニュー・シネマ・パラダイス」の舞台もシチリア

本作も全編シチリア語(イタリア語とは異なる)ですが

訛りがひどいため、同じシチリア人でも聞き取れない

しかも字幕はイタリア語で、観客のほとんどが字が読めない

というオチ

あらためてチェックしたいシーンですね

レビューに戻って(笑)

いくら大量の魚を獲っても、仲買人に安く買いたたかれ

明日の家族のパンを買うのがやっと

 

この村で暇なのは警察署長ドン・サルバトーレだけ
理由は国から給料が出ているから(笑)

上級国民の厭らしさを描く巧みさもヴィスコンティならでは

ウントーニは漁師たちに、みんなで団結して仲買人に立ち向かおう

自分たちで直接魚を売ろうと訴え、漁師たちも最初は賛同したものの

元手になる出資金が必要だと知ると結局誰も集まりませんでした

ウントーニは皆に手本を示そうと、家を担保に銀行から金を借り

カタクチイワシの大漁に巡り会うと、大量の塩漬けを作ります

しかし欲を出して時化の日に漁に出たばかりに難破

漁仲間に救助され命だけは助かりますが、舟は壊れてしまいます

他の舟で漁をしようとしても

仲買人が根回しをして誰も乗せてくれません

しかも出来上がった塩漬けは粗悪品と因縁をつけられ

ただ同然の値段で買い取られました

ウントーニは酒に溺れるようになり

弟のコーラはラッキーストライクの男(マフィアか)に誘われ

(家族のため)家出して密猟組織に入ってしまう

祖父は病気になり、家は銀行に差し押さえられ

恋人は去ってしまいます

次女は綺麗なネックレス欲しさに警察署長の誘惑に負け

(それを警察署長は村人に言いふらし、妹の行く末はわからない)

長女のマーラは思いを寄せる左官工のニコラに

もう身分が違うからとさよならを告げます

ホームレスが集まる一画でしょうか

家族は身の回りのものを売って、食いつないでいるようですが

それも限界があります

 

自分の舟(売って修理されている)を見に行ったアントーニに

声をかける持ち主になった家の少女

「貧乏なんですってね」

「助けてあげたいけど」

「(舟を)また見に来てね」

仕事を失ってから、初めて他人から言われたやさしい言葉

意固地で凍てついたアントーニの心が解けます

幼いふたりの弟を連れ仲買業者のもとに向かう

仕事をもらうために

自分に出来ることは漁しかないから

仲買人がアントーニをどんなに嘲笑しても、率先して雇ったのは

漁師としての腕がいい証拠なのでしょう

(たぶんイワシの塩漬けでも儲かったんだ)

ラスト、アントーニが再び舟を漕ぎだすシーンは勇気をもらえます

 

3時間(完全修復版)という、このての作風ではかなり長尺ですが

アマプラで見れる時代のありがたさ(笑)

結局2作目、3作目が作られることはありませんでしたが

続編的な作品として、ヴィスコンティはイタリア南部の貧しい若者の

都会(ミラノ)での残酷な現実を描いた「若者のすべて(1960)

原題「Rocco e i suoi fratelli」(ロッコと兄弟たち)を制作しました

 

こちらも名作ですが、アラン・ドロン×クラウディア・カルディナーレ

音楽はニーノ・ロータ

本作とは違いプロ仕様となっております(笑)

 

 

【解説】allcinema より

ヴィスコンティ版「怒りの葡萄」。ネオ・レアリズモ仕様・漁師篇。なんて書くとやたら軽薄な感じだが、事実その通りの内容で、ここで若き巨匠は、ヴィットリオ・デ・シーカ監督に倣ってプロの俳優を一切使わず、シチリア島アーチ=トレッツアの漁師を起用し、作品の現実味を増させることに成功している。網元の搾取に苦しむ漁師たちに組合結成を呼びかける青年アントニオは、網元と結託する警察に捕まる。釈放後、非協力的な村民をしり目に独力で漁に出、これを事業として軌道に乗せるが、ある日、大時化に襲われ、全てを失う。素朴な島の民俗が盛り込まれ、権力と自然に拮坑する労働者の有り様と、一人の若者の闘いと挫折を、力強く描く、ヴィスコンティ初期の意義深い名作。