若者のすべて(1960)

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「自分たちの育った田舎では、家を建て始めるとき
 大工の親方が最初に通った人の影に石を投げる風習がある」
「なぜか」
「家の基礎を固めるためには “いけにえ” が必要だからだ」

 

原題は「ROCCO E I SUOI FRATELLI」(ロッコと彼の兄弟)
自堕落的な兄と真面目な弟が、ひとりの奔放な女性を愛するという
アプローチは「狂った果実」(1956)にも似ていますが
どちらも基になっているのは
ドフトエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」でしょうか

しかし「カラマーゾフの兄弟」(1921)(1931)(1969)より
こちらのほうがはるかにわかりやすく、一気に見れる(笑)
「愛という名の犠牲」ではなく「犠牲という欺瞞(ぎまん)」

 

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イタリア南部のバジリカータ州から長男ヴィンチェンツォを頼って
ミラノにやってきた未亡人のロザリア・パロンディと
シモーネ、ロッコ、チーロ、ルーカ の4人の息子たち
しかし駅に長男は迎えに来ず
恋人ジネッタとの婚約祝いのパーティをしていました

父親の喪中に婚約とは何事だとロザリアはジネッタの母親と大喧嘩
住むところのなくなったヴィンチェンツォは
友人のアドバイスでアパートを借り
兄弟たちは雪かきのアルバイトで生活費を稼ぎます

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かつてプロボクサーを目指したヴィンチェンツォのジムで
次男シモーネは才能を認められ、プロとして活躍するようになります

しかし娼婦のナディアに夢中になり、クリーニング店で働く
三男ロッコに金を借り、Yシャツを拝借し、女店主を口説きブローチを盗む
当然ロッコは仕事をクビになり、徴兵に出ることにします

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そして1年2ヵ月後、長男ヴィンチェンツォはジネッタと結婚して独立
四男チーロは夜学を卒業してアルファロメオの技師になります
ロッコは出所したばかりのナディアと偶然出会い
退役後ふたりは付き合うようになるのです

シモーネはボクシングの練習に身が入らず
おまけにロッコとナディアの関係を知り、激しく嫉妬し
ロッコと友人たちの目の前でナディアを強姦します

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シモーネは本当に下衆でクズな野郎なのですね
だけどこの哀れなシモーネを演じたレナート・サルヴァトーリと
ナディア役のアニー・ジラルドはこの共演がきっかけで結婚(笑)
映画とは違い実生活での夫婦仲はよかったようです

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ロッコはシモーネのためにナディアから身を引き
その苦しみをぶつけるように、ボクサーとして活躍
よりを戻したシモーネとナディアは自堕落な生活を送り
シモーネは多額の借金を抱え、警察に追われ
ナディアは再び娼婦として客を取るようになります

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そこでもロッコはシモーネの借金を肩代わりしてタイトル戦に挑み
ナディアに復縁を迫り、刺し殺したシモーネを逃がそうとする
チーロだけがかえってシモーネのためにならないと
ロッコを振り切り警察に通報するのです

家族愛が、母親の甘やかしが、兄弟のやさしさが
善人だったシモーネをだめにしてしまった
そのことに唯一気づいていたのはチーロだけでした

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この作品の演出で、フレームに入る役者ひとりひとりに
ヴィスコンティはどう演じるか、実際に演技してみせたそうです
それがあまりにも巧く出演者は舌を巻いたということ
それくらいヴィスコンティにとっては力の入った
最も愛した作品のひとつなのだそうです

ただ貴族出身のうえ、オペラの演出家ということもあり
いくらイタリア南部の極貧の大家族を描いていても
品の良さが隠しきれない(笑)
カメラは(フェリーニで有名な)ジュゼッペ・ロトゥンノ
音楽はニーノ・ロータ

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一度は弟がキレてもよかったですね(笑)
そこは「狂った果実」のほうが強烈な印象を残します
あまりにもロッコが聖人すぎる

でも3時間という長尺を、時間を感じさせず見せるのはさすがのもの
名作に間違いありません

 


【解説】KINENOTEより
都会の生活を生き抜く一人の青年を描いたドラマ。「白夜(1957)」のルキノ・ヴィスコンティが監督した。ヴィスコンティとヴァスコ・プラトリーニとスーゾ・チェッキ・ダミーコの原案をヴィスコンティ、ダミーコ、パスクァーレ・フェスタ・カンパニーレ、マッシモ・フランチオーザとエンリコ・メディオーリの五人が共同で脚色、撮影は「戦争 はだかの兵隊」のジュゼッペ・ロトゥンノ、音楽を「全艦船を撃沈せよ」のニーノ・ロータが担当。主題歌“若者のすべて”ほか数曲の流行歌が紹介される。出演は「太陽がいっぱい」のアラン・ドロン、「街の中の地獄」のレナート・サルヴァトーリ、「フランス女性と恋愛」(離婚)のアニー・ジラルド、「刑事」のクラウディア・カルディナーレ、ほかにカティーナ・パクシー、ロジェ・アナン、パオロ・ストッパら。製作ゴッフレード・ロンバルド。なお、この作品は一九六〇年度ヴェニス映画祭で審査員特別賞を受賞した。2016年12月24日より『ルキーノ・ヴィスコンティ生誕110年 没後40年メモリアル-イタリア・ネオレアリズモの軌跡-』としてデジタル完全修復版を上映(配給:アーク・フィルムズ、スターキャット)。