チャイニーズ・ブッキーを殺した男(1976)

「幸せな人間とは、気楽になれた人間だ」

 

原題は「The Killing of a Chinese Bookie」(中国人ブッキー殺し)

ストリップ・クラブのオーナーが借金返済の代わりに

「チャイニーズ・ブッキー」と呼ばれる

中国マフィアのボス殺しを命じられるというもの

「ゴッド・ファーザー」(1972)の大ヒットに便乗し

その後マフィア同士の抗争やファミリーの絆という

同じような設定のマフィア映画が多く作られますが

そんなフィルム・ノワールを期待すると肩透かし(笑)

事実商業的にも失敗、わずか 7 日で配給中止になったそうです

一方で一部のマニアからは「他に類を見ない個性的なギャング映画」と

カルト的な人気を得て、後に再評価された愛すべき怪作

日本では「ドライブ・マイ・カー」の監督、濱口竜介

影響を受けた傑作のひとつにあげているそうです


まず、マフィアとの戦いも、銃撃戦もゆるい(笑)

そのかわり熱量をもって描かれているのは、ショーパブのストリップショー

映像から溢れ出る生々しい男たち、女たちの熱気と色香

そしてその劇場とそこで働くスタッフ、客たちを何より大切にし

守ろうとする、ベン・ギャザラの存在感

その命を懸けの美学と愛情に惚れてしまいます

 

オープニング・タイトルから、タクシーを降りた男がカフェの席に着き
姿の見えない男と会話するという長回し

カメラは独立映画(自主映画)運動の支援者としても有名な

フレデリック・エルムズ

肝心なシーンは想像にまかせるという手法

男はトイレで札束を数え戻ると、「お前も一国一城の主だな」と言う
「お前はクズだ 2度と会わない」と返す男

 

コズモ(ベン・ギャザラ)はショーパブ「クレイジー・ホース」のオーナーで
やっと店の購入借金を払い終え、全て自分のものとなったのです

喜びのあまりバーで酒を飲み、へべれけになって店にたどり着くと

(客としてやってきた)元締めのモート(シーモア・カッセル)におだてられ
借金完済のお祝いにダンサーの女の子たちを引き連れて
モートが経営するカジノへ行くことにします

「これ飲みなよ」

「わたしマティーニがいいわ」

「おいおい、ドン・ペリニヨンだぜ」

(まるでバブル時代の会話 笑)

ところがコズモがカジノで調子に乗ってしまい

ポーカーで大負け、再び大きな借金を抱えてしまいます

しかし呑気というかなんというか(笑)

帰る途中でダイナーに寄ると

コズモの店でダンサーをやりたいというウェイトレスと面接の約束

翌日オーディションのため、店にやってきたウェイトレスが

ステージ軽やかに踊り出すと

人気ダンサーのレイチェル(アジジ・ジョハリ=プレイメイト兼女優)が

突然ウェイトレスに殴りかかります

レイチェルはコズモのことが好きで、若いウェイトレスに嫉妬したんですね

ウェイトレスは立ち去り、コズモはレイチェルをなだめます

夜が更けると、いつも通りミスター道化師(メーダ・ロバーツ)と名乗るMC

ダンサーとのお色気コントが始まります

そこにモートが、借金をチャラにする代わりに
中国人のノミ屋「チャイニーズ・ブッキー」を殺して欲しいと頼みにきます
一度は断ったコズモですが

モートの手下のフロー(ティム・カリー)という男に暴力で脅され

結局引き受けることになります

いかつい男に囲まれた車中で、拳銃を渡され

用意した盗難車でチャイニーズ・ブッキーの豪邸に行き

寝ているブッキーを撃つだけだと説明されるコズモ

が、ブッキー邸に向かう途中で盗難車がパンク

コズモはガソリンスタンドの電話でタクシーを呼ぶことにします(笑)
ついでに店にも電話をかけ、今日のショーの出来を確認します

コズモが本当に気にかけているのは借金じゃない

店だけなのです

タクシーでブッキー邸に着いたコズモは

途中で買ったハンバーガーを番犬に与え、あっさり侵入に成功(笑)

ところがブッキーは寝ているどころか、美女と入浴中

ブッキーがひとりになったところを見計らって発砲すると

ブッキーの手下たちがやってきて銃撃戦になり

コズモはどうにかブッキー邸から走って逃げましたが

腹に銃弾を受けていました

 

ブッキーが死んだことを確認したモートは

フローにコズモを始末するよう命じます

いつものようにショーが行われてい自分の店へと帰ってきたコズモは

フローに呼び出され駐車場向かいます

だけどコズモの人柄を気に入ったフローはあんたは友達だ

モートには殺すなら自分でやれと言い残し去って行くと

 

モートはコズモにブッキーはただのノミ屋じゃない

西海岸を仕切るマフィアの大物だったと教えます

コズモはモートを倒したものの、どっちにしても命がないことはわかってる

暗闇の中にいる、コズモを尾行する追っ手

長い沈黙の後、追っ手との対峙

と思ったら、いきなり女性のシャワーシーン(笑)

(コズモが勝ったことがわかる大胆な演出)

 

そこはレイチェルの家でした

コズモの看病のため、店を休もうとするレイチェル

ショーに穴を空けるのかと言うコズモ

コズモを非難するレイチェルの母親

再び店へ戻ったコズモ楽屋入り

いつものようにジョークを言い、ダンサーたちと伊達男を称え

ステージへと向かいます

そしてコズモ観客に挨拶をし終え、華やかなショーが始まると

 

そっと店を出コズモは

血の止まらない自分の腹の傷を確かめるのでした

自分はどうなってもいい、店さえ守れたなら本望なのだと

 

 

【解説】ジョン・カサベテス監督による異色のフィルムノワール
場末のストリップクラブを経営するコズモは、店の借金を完済した矢先にポーカー賭博でボロ負けし、マフィアに莫大な借金をつくってしまう。返済の見込みがないコズモに、マフィアは借金帳消しの条件としてある仕事を持ちかける。それは、敵対組織のボスであるチャイニーズ・ブッキーを殺すことだった。
カサベテス監督の盟友ベン・ギャザラが、主人公を哀愁たっぷりに演じる。

1976年製作/134分/アメリ
原題:The Killing of a Chinese Bookie
配給:ザジフィルムズ
劇場公開日:2023625

その他の公開日:19933月(日本初公開)、201262