ちひろさん(2023)

そのまま沈んでおけ

人間の身体は 浮かぶようにできているから

じたばたするから沈むんだよ」

1999年から2001年にかけて連載された安田弘之によ

風俗嬢の日常を描いた漫画「ちひろの続編「ちひろさん」の映画化

 

ヒロインを演じた有村架純さんが

「ここまで役に近づけない、近づけさせてもらえない役どころは初めて」

と語ったそうですが、わかります

ちひろさん」のように独特の個性をもつ

つかみどころい役を演じる女優が今はいなくなりましたね

桃井かおりさん、田中裕子さん、秋吉久美子さん浅野温子ん・・

有村架純さんのような「彼女にしたい」タイプが演じるには難しい

一方で現在活躍する女優でこういう役をできるのは

有村架純さんしかいなかったと思います

ちひろさん」のもつ価値観や考え方には共感しました

たとえ家族でも、わかりあえない

人はそれぞれが違う星から来た宇宙人

世の中が「良い事」だと信じている勝手なルール

母の手料理がいちばん、みんなで食べるご飯が美味しい、休日は家族で過ごす

それが幸せだと誰が決めた

孤独が好きな人間もいるのです

海辺の町にある弁当屋さん「のこのこ弁当」の看板娘ちひろさん

元風俗嬢だったことを隠すこともなく

誰に対しても分け隔てなく、マイペースで朗らか

常連さんからも人気です

これが歌舞伎町だったらコンビニのレジのお姉さんが

「元風俗嬢」と言っても「そうなんだ」で終了

でも田舎なら噂になるし

旦那さんが元風俗嬢のいるお弁当屋さんに通っていたら

嫉妬に狂う奥さんだっているかも知れない

世間から差別され、虐げられる職業

ちひろさんはそのことを自分でも知っている

逆に風俗嬢だった経験を生かし、好奇の目で見られても

何を言われても、さらっと切り返すのです

それが見事的を得ている(笑)

そんなちひろさんが引き寄せるのも

同じように問題を抱えたり、居場所のない人たち

ホームレスの老人(死体埋めるか?笑)

完璧を装う家族との生活が居心地悪い女子高生、オカジ

母子家庭で、自転車のタイヤに穴を空けている問題児、マコト

トランスジェンダーでショーパブのダンサー、バジル

不登校のべっちん

父親との確執を持つ青年、安田(セックスシーンはいらんかった)

そして「のこのこ弁当」の女将、多恵さん

多恵さんは目が見えず入院しています

ちひろさんは多恵さんにだけは、本名の「綾」という名でお見舞いに行きます

ちひろさんが「のこのこ」で働くため履歴書を出したのは

2年前の嵐の日にお弁当を売る多恵さんに一目惚れ

多恵さんが「同じ星」の人だったから

そんな皆をつなぐのがお弁当、食事なんですね

ちひろさんは孤独な人を見つけたら、お弁当をあげる

マコトのお母さんは、ご飯を食べさせていないと噂されている

誕生日のプレゼントの花束も入れ知恵だろうと、責めるけど

(自分も水商売なのに、息子が元風俗嬢と付き合うのは許せない)

ちひろさんは、花なんて知らない

マコトが好きなのは、お母さんとお母さんの作った焼きそば

もっと息子を見てやれよと、逆に叱るのでした

ある夜、鍵を失くして家に入れない、お腹が空いたと

マコトからオカジに電話がかかってきます

台所に行っておにぎりを作るオカジ

ボロボロのおにぎり、残骸でめちゃくちゃのキッチン

そこに完璧主義の母親が現れ、文句と皮肉

オカジは初めて親に反抗し、家を飛び出します

雨の中、オカジのおにぎりを食べるマコト

そこにマコトのお母さんが帰ってきて、急いで焼きそばを作る

みんなが知ってる焼きそば(笑)目玉焼きが乗っている

マコトはお母さんと喧嘩、でも本音を言えるのが羨ましい

焼きそばを食べながら泣いてしまうオカジ

ちひろさんは、風俗店の店長で今は熱帯魚店を経営している内海に

(疎遠だった)お母さんのお墓参りに連れて行ってもらいます

帰り路、安心しきったちひろさんは助手席で寝てしまいます

ちひろさんに上着をかけてあげる内海

 

「でも店長は同じ星の人じゃない」

「おとうさんなんだなあ・・」

ふたりで出かけたことを知ったバジルがやってきて

いくらちひろさんが「そんなんじゃないから」と説明しても

「男と女だからわからない」と聞いてくれません

バジルは内海のことが好きなんですね

だけどトランスジェンダーに悩み、告白できずにいたのです

 

ちひろさんが「おとうさん」と言うだけあって

内海も人の気持ちを察する能力の高い人間

バジルのショーを見に行き、素晴らしい

いい酒が手に入ったから飲もう誘います

ちひろを誘えば」というバジルに

「娘と飲む気分じゃねーから」とサラリ

そして多恵さんの退院祝いの日

オカジ、マコト、べっちん、店長、バジルもやってきます

みんなを観察するちひろさん

みんな幸せそう、店長とバジルもうまくいきそう

そっと姿を消すちひろさん

 

多恵さんはちひろさんに電話します

「あなたはどこでも孤独を大切にすることができる」

「もういいんじゃない?」

私は貧乏で不器用だったけど優しい夫と結婚した

苦労もしたけど幸せになれた

あなたも出来るはず

でもちひろさんは戻らず、牛の面倒を見ていました(笑)

「憶えが早いね」「前は何の仕事をしていたの」

「ただの弁当屋です」

弁当屋かあ」

 

「元風俗嬢」にも「ちひろさん」にもバイバイ

「綾」はこの酪農家と一緒になるかも知れません

 

ちなみに、最後まで「オカジ」の意味がわからなかったんですけど(笑)



【解説】映画.COMより

海辺の小さな街にあるお弁当屋さんで働く女性・ちひろ。元風俗嬢であることを隠さず軽やかに生きる彼女は、自分のことを色目で見る男たちも、ホームレスのおじいさんも、子どもも動物も、誰に対しても分け隔てなく接する。そんなちひろの言葉や行動が、母の帰りをひとり待つ小学生、本音を言えない女子高生、父との確執を抱える青年など、それぞれ事情を抱える人たちの生き方に影響を与えていく。ちひろ自身も幼少時の家族との関係から孤独を抱えて生きてきたが、さまざまな出会いを通して少しずつ変わり始める。
共演は「都会のトム&ソーヤ」の豊嶋花、「街の上で」の若葉竜也、「万引き家族」のリリー・フランキー。ロックバンド「くるり」の岸田繁が音楽を手がけた。

2023年製作/131分/PG12/日本
配給:アスミック・エース