いぬ(1963)

原題は「Le Doulos」(ジャン・ポール・ベルモンドの被っていた帽子の名称)

同じくベルモンド主演で「ボルサリーノ」(1970)という映画もありますが

(フランス語の)帽子には警察などで使われる隠語の

「いぬ」(密告者)という意味もあるそうです

オープニングのタイトルロールから雰囲気抜群

映像のスタイリッシュさは半端ありません

ガード下の歩道をトレンチコートに帽子の男が

ポケットに手を突っ込み歩いている

なんですか、これ(笑)

これだけでフイルムノワール

ただ、メルヴィルにしては(ベルモンドだけに 笑)セリフが多い

そのわりにプロットはかなりややこしい

冒頭に主要登場人物の説明があるので、そこでしっかり把握していないと

その後のストーリーが解明困難となるのでご注意を

刑務所から出所したモーリス(セルジュ・レジアニ)は

妻が服役中に死んだのは、宝石商のジルベール(ルネ・ルフェーヴル)が

口封じのために殺したと確信し射殺

彼の宝石と札束を盗むと、殺害した銃とともに空き地に埋め隠します

親友のシリアン(ジャン・ポール・ベルモンド)から

穿孔機(せんこうき=穴をあける機械)を受け取り

ある豪邸の金庫破りに入ると、警官隊の包囲作戦をうけ

相棒のレミー(フィリップ・ナオン)が死に

自分も重傷を負ってしまいます

その後、恋人のテレーズ(モニーク・エネシー)が崖から転落死し

クラン警部(ジャン・ドザイ)に逮捕され再び服役

シリアンは警察の「いぬ」だったのか

憎悪のあまり、同房のカーンという大男に

200万フランでシリアンを殺すよう頼むのでした

シリアンはモーリスの隠した宝石を掘り出し

殺されたジルベールの仲間の

ヌテシオ(ミシェル・ピッコリ)の経営するナイトクラブに行きます

シリアンはジルベール殺しの黒幕はヌテシオと

ジルベールボスのアルマン(ジャック・デ・レオン)だと疑っていました

「やつらを始末して俺と一緒にならないか」

シリアンのかっての恋人で、いまはヌテシオの情婦

フェビエンヌ(フェビエンヌ・ダリ)とヨリを戻すと

アルマンとヌテシオを陥れる方法を画策します

シリアンはヌテシオの事務所で宝石を机の上に広げると

ヌテシオにこれと引き換えに金を出せと脅します
50万フラン出すとヌテシオが金庫を開けた時

窓からアルマンが来たのを見ると

シリアンはヌテシオを撃ち殺し

事務所に入ってきた来たアルマンに、ヌテシオに撃たれたふりをします

シリアンの落とした銃で彼を撃とうとするアルマン、しかし弾は入っていない
シリアンは(モーリスが宝石とともに埋めていた)別の銃でアルマンを殺し

ヌテシオとアルマンが宝石を巡って殺し合あったように細工すると

ファビエンヌに電話し、警察に通報させます

現場に残された宝石や銃から

ジルベールを殺し宝石を奪った犯人はヌテシオとアルマンということになり

モーリスは無罪となり出所します

では「いぬ」は一体誰だったのか

「いぬ」は意外な人物でした

モーリスがバーでシリアンと仲間のジャン(エメ・ド・マルシュ)にあうと

シリアンが事情を説明します

(今回の事件では違ったが、シリアンは警察の「いぬ」として働いている)

 

数ヶ月前、シリアンは友人のサリニャリ刑事に警察の女スパイを紹介され

モーリスのアパートに穿孔機を運んだ日に見たのが、まさかのその女

モーリスの恋人だったテレーズこそが「いぬ」だったのです

シリアンがテレーズを殴り、縛り上げ

強盗の現場を吐かせたのも、モーリスを助けるため

倒れたモーリスをジャンの家に運んだのもシリアンでした


シリアンはサリニャリ刑事に電話して、事を収めようとしますが

サリニャリ刑事が殉職してしまい

妻にモーリスの介抱を頼み、ジャンがテレーズを始末したのです

足を洗い、ファビエンヌとポンチエリに引きこもるつもりだと

バーを去るシリアン

 

そのときバーにモーリス宛の電話がかかり、伝言が伝えられます
200万の花環を送るのなら、お金の用意を」

シリアンを殺させるわけにはいかない
モーリスはジャンの車を借り、急いでシリアンの家へ向かいます

ひとりバーに残ったジャンの元へ、クラン警部が現れ
死んだテレーズの車にコートの切れ端が残っていたこと

ジャンの家のクローゼットに、そのコートが残っていたことで

ジャンは逮捕されてしまいます


モーリスは、ガソリンスタンドで給油するシリアンに気付かず

シリアンを追い越してしまい

シリアンの家のドアを開けると(逆光で顔が判別できなかった)

隠れていたカーンに撃たれてしまいます

家に戻ったシリアンが、倒れたモーリスを発見すると

「つ、い、た、て」と呟くモーリス
モーリスの言葉を察したシリアンが、ついたて目掛けて銃を乱射すると

カーンが倒れます

しかしシリアンが背中向けたとたんカーンは銃を放ち

フラフラになったシリアンは、ファビエンヌに電話し
「今夜は行けない」と告げるのでした

 

ラスト、倒れたシリアンの帽子が床に転がる

なんという素晴らしいオチ

だからといって、悪いことをした奴を褒めたたえるわけではない

結局最後は何も残らない

 

無残に死ぬだけというカタルシス

 

 

【解説】映画.COMより

鋭推理作家ピエール・ルズーの同名の小説からわが国には初めてながら、名匠のジャン・ピエール・メルヴィルが脚色、演出もした暗黒もの。撮影は、ニコラ・エイエ、音楽はポール・ミスラキが担当した。出演者は「大盗賊」のジャン・ポール・ベルモンド。他にセルジュ・レジアニ、ジャン・ドザイ、ミシェル・ピッコリ、新人女優のフェビエンヌ・ダリ、モニーク・エネシーら。

1963年製作/フランス
原題:Le Doulos
配給:東和
劇場公開日:1963年11月16日