昼顔(1967)

原題は「Belle de Jour」(三色朝顔のことで”昼間の美人”という意味)

原作はフランスの作家ジョゼフ・ケッセルが1928年に発表した同名小説

 

スペインからフランスへ拠点を移したブニュエル

プロデューサーのアキム兄弟が(何人もの監督に断られた)この企画を持ち掛け

ブニュエルジャン=クロード・カリエールに共同脚本を依頼

「あんな駄作を映画にするのか」と驚くカリエールに

「原作にフロイト的な精神分析学の要素を加え

良心とセックスの関係性を描く」と説明し納得させたそうです

それがあの謎の冒頭のシーン(笑)

馬車に乗ったセヴリーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)と

彼女の不感症を責める夫のピエール(ジャン・ソレル

ピエールは2人の御者にセヴリーヌを馬車から引きずり降ろさせ

激しく鞭で打ち、レイプさせ、泥を投げつけます

夫に許しを請うものの、恍惚の表情を浮かべるセヴリーヌ

次の瞬間、夫婦の寝室に場面は切り替わり

セヴリーヌの妄想だったことがわかります

ふたりはパリに住むブルジョア階級の仲睦まじい夫婦で

性的な期待に応えられない妻の不感症を

夫は妻が「貞淑だから」と勘違いしています

しかし本当のセヴリーヌは、誰かに強引に凌辱されたい

マゾヒスティックな願望をもっていたのです

女性側からの性欲を描き、しかも隠微なSMとは

(想像で見せるだけで実際のセックスシーンはない)

当時としては衝撃的だったと思います

にもかかわらず、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞

ブニュエルの作品の中でも最も興行的な成功を収めます

そこにはやはりカトリーヌ・ドヌーヴの美しさがありますよね

イヴ・サン=ローランの衣裳とロジェ・ヴィヴィエの靴に24歳のドヌーヴ

冷ややかだけど、不安定に揺らぐ彼女の表情を捉えるカメラは

サッシャ・ヴィエルニという最高のコラボ

ともすれば男性の性欲の対象にしかなりかねないものを

まるで「VOGUE」(ファッション誌)のページでもめくるような

気品のある映像に仕上げたのです

バカンスで夫とスキー旅行に出かけたセヴリーヌは

夫の友人のユッソン(ミシェル・ピッコリ)と

女友達ルネ(マーシャ・メリル)に会います

セヴリーヌはユッソンのなれなれしい態度が嫌いでした

パリに戻るとルネから、共通の知人のアンリエット

売春をしているらしいと聞きます

テニスコートでユッソンに会ったセヴリーヌはアンリエットの話をし

高級娼館の場所を教えてもらいます

そこでもユッソンはセヴリーヌに自分の欲望を伝えてきますが、無視

セヴリーヌは幼いころ中年男に触られたトラウマがあり

ユッソンはそのことを思い出させるのです

セヴリーヌがマダム・アナイス(ジュヌヴィエーヴ・パージェ)の娼館に行くと

マダムはセヴリーヌの話を聞き、「昼顔」という源氏名を与え

医師の夫が仕事に出ている間、午後2時から5時まで働くことになります

最初は抵抗があったものの、一緒に働く女性たちのおおらかさや

様々な性癖を持つ男性客と出会ううち

夫(男性)のもつ「女性神話」や性の呪縛から解放されていきます

太った東洋人男性との行為のあとには

「とてもよかった」と笑顔さえ見せるセヴリーヌ

この男が、売春婦たちに見せて回る音が鳴る箱

あの中身が何だったのか?と いうと

ブニュエルもカリエールも、中身のことまで考えておらず(笑)

何百回も同じ質問を受け、うんざりしたそうです

(質問するほうは、女性を悦ばせる何かだと思ったんだろうな 笑)

相変わらずハッソンはセヴリーヌを誘惑し、彼女はそれを拒否するものの

夫の目の前で彼に抱かれる想像をしてしまいます

 

娼館にやってきた若いギャング、マルセル(ピエール・クレマンティ

美しいセヴリーヌを気に入り

セヴリーヌも暴力的なマルセルとのスリルあるセックスに興奮しますが

セヴリーヌに本気になってしまったマルセルは

仕事ではなく会ってほしい、一緒になりたいとストーカー化

セヴリーヌはマダムに相談し、娼館を去ることにします

しかしハッソンに娼館で働いていたところを見られたうえ

マルセル自宅までやってきて夫に秘密をばらすとされます

 

マルセルはピエールの帰宅を待ち、3発撃って逃げますが警察に射殺され

ピエールは一命を取り留めたものの、昏睡状態

警察はマルセルの殺人未遂の動機を特定することが出来ませんでした

ピエールは意識こそ戻ったものの

目は見えず、下半身は麻痺し車椅子生活

セヴリーヌが世話をするようになります

そんなときハッソンがやってきて、ピエールにセヴリーヌの秘密を耳打ちします

しかしセヴリーヌはハッソンを止めようとはしませんでした

ハッソンが去るとピエールは泣いています

それを見てほくそ笑むセヴリーヌ

するとピエールは車椅子から立ち上がり、飲み物を注ぐと

セヴリーヌとバカンスの計画について話し合うのでした

 

結局どこまでが真実で、どこまでが妄想か

わからずじまいという(笑)

ラストについはブニュエル

「自分でもよく意味が分からない」と答えているらしく(笑)

 

もしかしたら作品全体が、ブニュエルのユーモアであり

(本作を称賛したという)ヒッチコックだけが

そのことに気付いていたのかも知れません

 

 

【解説】映画.COMより

昼は娼婦、夜は貞淑な妻の顔を持つ若き人妻の二重生活をカトリーヌ・ドヌーブ主演で描き、1967年・第28回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した作品。「アンダルシアの犬」のルイス・ブニュエル監督が、ジョセフ・ケッセルの同名小説を映画化した。セブリーヌは裕福な医者の夫と何不自由ない暮らしを送っていたが、その一方でマゾヒスティックな妄想にとらわれていた。そんなある日、パリにある娼館の噂を聞いた彼女は、好奇心から足を運び、「昼顔」という偽名で働くことに。封印してきた性を解放することで夫への愛情も深まり、満ち足りた気分を味わうセブリーヌだったが……。

1967年製作/101分/フランス・イタリア合作
原題:Belle de Jour
配給:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム
劇場公開日:2022年1月21日

その他の公開日:1967年9月30日(日本初公開)、2018年2月17日