クィア・パルム賞とはその名の通り
性的マイノリティを扱った作品に与えられる賞のこと
この時点でネタバレなのですが(笑)
物語はガールズバーの入っている駅ビルの火災から始まり
麦野早織(安藤サクラ)はシングルマザー
小学5年生になる愛息、湊(みなと)(黒川想矢)の様子が最近おかしい
「豚の脳を移植した人間は、人間?豚?」と母親に質問をして
担任の保利(ほり)先生(永山瑛太)がそんな研究があると話したとか
洗面所で髪の毛を切っていたり
ある夜突然いなくなり、廃線跡のトンネルで「怪物だーれだ」と1人叫んでいたり
耳から血が出ていて、車の走行中に突然ドアを開けて飛び降りてしまったり
幸いケガは軽く病院のMRIでの検査でも脳に異常はなかったものの
保利先生から「お前の脳は豚の脳だ」と言われたと告白したり
息子が学校で虐待かいじめにあっているかも知れない思ったは母親が
当然学校に確認に行きます
しかし最近孫を亡くしたという校長先生(田中裕子)の
あまりにも誠意のみられない態度
口先だけの「申し訳ありません」
「ご意見は真摯に受け止めます」
「今後適切な指導をしてまいります」
「殴ったんですか?」
「手と鼻に接触がございました」
さらに保利先生が飴を舐めっているのを目撃
いくら冷静な母親だっでこれにはキレてあたりまえ(笑)
安藤サクラさんも田中裕子さんもさすがの大女優ですね
見ている側の心もどんどん揺さぶって来ます(笑)
再び駅ビルの火災のシーン
今度は保利先生の視点から語られます
最近の湊の奇妙な行動は、クラスメイトの男子から虐められている
星川依里(ほしかわ より)(柊木陽太)を守ろうとする行動からでした
星川クンは一見、女の子かな?と見間違える風貌
そして11歳といえば性に目覚める年頃でもあります
(柊木陽太クンの子役とは思えない色気よ 笑)
だけど男の子たちは、星川クンの男子とも女子とも違う違和感に馴染めず
彼を「宇宙人」呼び虐めを繰り返しているのです
しかし保利先生はクラスの悪ガキではなく
湊が星川クンを虐めていると勘違いしてしまいます
そこから教師目線からの「片親」や「モンスターペアレント」という偏見
保利先生は生徒思いだけど、ちょっと軽率で空気を読めないタイプ
湊を思わず殴ってしまったのも
星川クンを助けようとして暴れた湊を止めようとしただけ
それもすぐ保護者に連絡しなかったせいで、とんでもない大問題になってしまいます
恋人の広奈 (高畑充希)はそんな彼に
「飴でも舐めてリラックスしな」とアドバイスするわけですが
本当に保護者の前で飴を舐めてしまうのです
同じ時間軸を違う人間の視点から繰り返す
これは是枝版の「羅生門」なのですね
本物の「怪物」は誰なのか
陪審員は私たち
湊が学校を休むようになり
保利先生から湊が「星川という同級生をいじめている」と言われた早織が
星川の自宅を訪ねると、星川クンは礼儀正しく早織を招き入れます
玄関には湊の片方なくなっていた靴
湊にお見舞いの手紙を書くという星川クン
早織が「鏡文字だよ」と指摘すると、一瞬星川クンの表情が曇る
保利先生もまた星川の自宅を訪問していました
「息子はバケモノですよ、豚の脳みそなんです」
「親が責任もって治します」 と言います
息子のディスグラフィア(書字表出不全)や性的な違和感が
殴れば思い通りになると信じている
その後学校では児童への保利先生のアンケートが実地され
保利先生の湊に対する虐待が認められ謝罪会見を開くことになります
「嘘をついた」と「保利先生は悪くない」と校長先生に告白する湊
湊は湊で母親からの「どこにでもいる普通の家族でいい」とか
「湊が普通に結婚して子供をつくるまでは」 という何気ない言葉に
自分はそうなれないと察し、自分も豚の脳(LGBTQ )だと
それを保利先生が言ったからだと、保利のせいにしてしまったのです
「嘘ついちゃったかあ、私と一緒だ」 と校長先生
「そんなときはブーッと吹くの」
生きていくためにはしかたがない嘘もある
トロンボーンとフレンチホルンを鳴らすふたり
保利は懲戒免職になり、恋人にも去られ、引っ越しをするため荷物を片づけます
そのとき見つけた星川クンが書いた作文
行の頭文字をつなげてみるとると「むぎのみなとほしかわより」のメッセージ
それの意味することに気が付いた保利は、急いで早織のもとに向かいます
その日は台風
湊は星川クンの家に行き
父親によって祖母の家に追いやられ転校させられようとしていて
さらに殴られ倒れていた星川クンを
「ビッグランチ(ビッグクランチの誤用)が来る」と助けに行き
(宇宙が収縮を始め時間が逆行するので、生まれ変われると信じている)
廃線跡にあるふたりの秘密基地でもある廃電車に向かいます
しかし電車は嵐による土砂崩れで横倒しになり土に埋もれてしまいます
横転した電車を見つけ、上側の窓を開けて中を覗き込む早織
ここからが私の嫌いな、いつもの是枝ファンタジー・ワールド(笑)
湊と星川クンは反対側の窓から電車を出て水路を抜け
雨は上がった緑の中を走っていました
「ぼくたち生まれ変わったのかな」
「前と一緒さ」
「そっか、良かった」
ラストは禁じられた恋をしたふたりが天国で幸せになった、と思いましたが
制作側が「ふたりは生き続ける」とはっきり明言しているので
死んだという解釈は間違いのようです(笑)
だとしたら星川クンは幸せにはなることは出来ないません
あの虐待親父が改心しない限りは
湊も幸せにはなれない
母親が「普通」と思う将来を望む限りは
さて、みなさん答えは出たでしょうか
本物の「怪物」は何者だったのか
私は「差別」こそ「怪物」だと思いました
親だけでもわが子を理解してあげるべきなのに
親だからこそ「違い」を受け入れることが出来ないこともあるのです
【解説】映画.COMより
「万引き家族」でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した是枝裕和監督が、映画「花束みたいな恋をした」やテレビドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」などで人気の脚本家・坂元裕二によるオリジナル脚本で描くヒューマンドラマ。音楽は、「ラストエンペラー」で日本人初のアカデミー作曲賞を受賞し、2023年3月に他界した作曲家・坂本龍一が手がけた。
大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子どもたちが平穏な日常を送っている。そんなある日、学校でケンカが起きる。それはよくある子ども同士のケンカのように見えたが、当人たちの主張は食い違い、それが次第に社会やメディアをも巻き込んだ大事へと発展していく。そしてある嵐の朝、子どもたちがこつ然と姿を消してしまう。
「怪物」とは何か、登場人物それぞれの視線を通した「怪物」探しの果てに訪れる結末を、是枝裕和×坂元裕二×坂本龍一という日本を代表するクリエイターのコラボレーションで描く。中心となる2人の少年を演じる黒川想矢と柊木陽太のほか、安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子ら豪華実力派キャストがそろった。2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され脚本賞を受賞。また、LGBTやクィアを扱った映画を対象に贈られるクィア・パルム賞も受賞している。
2023年製作/125分/G/日本
配給:東宝、ギャガ