原題の「Perfect Days」(完璧な一日)は
本作の挿入歌としても使われている
1972年に発表した楽曲のタイトルから
「トレイン・スポッティング」で使われたり
デュラン・デュランほか様々な歌手にカバーされている人気曲で
特に1997年に発売された、デヴィッド・ボウイ、ボノ、エルトン・ジョン
スザンヌ・ヴェガ、トム・ジョーンズなど多くの有名アーティストが
ルー・リードと共に参加したチャリティー・シングルは大ヒットしました
相変わらず選曲のセンスがいいですね
(新しい曲はわからないので助かります 笑)
意味はこういう感じ
Just a perfect day
Drink Sangria in the park
And then later
When it gets dark, we go home
完璧な一日だ
公園でサングリアを飲んで
その後
辺りが暗くなったら家路に着く
Just a perfect day
Then later
A movie, too, and then home
Feed animals in the zoo
完璧な一日
動物園で、動物達にエサをあげて
それから映画を観て、そして家に帰る
Oh, it's such a perfect day
I'm glad I spent it with you
Oh, such a perfect day
ああ、なんて完璧な一日なんだろう
そんな完璧な日を
君と一緒に過ごすことができて僕は嬉しい
You just keep me hanging on
You just keep me hanging on
君は僕をかろうじて生かしてくれている
君は僕をかろうじて生かしてくれている
Just a perfect day
Problems all left alone
Weekenders on our own
It's such fun
完璧な一日
問題はすべて置き去りにして
僕たちだけの週末の楽しみ
Just a perfect day
You made me forget myself
I thought I was
Someone else, someone good
完璧な一日
君は僕が何者であるか忘れさせてくれる
自分が誰か別の善き人のように思える
Oh, it's such a perfect day
I'm glad I spent it with you
Oh, such a perfect day
You just keep me hanging on
ああ、なんて完璧な一日なんだろう
そんな完璧な一日を
君と一緒に過ごすことができて僕は嬉しい
君は僕をかろうじて生かしてくれている
You're going to reap just what you sow
You're going to reap just what you sow・・・・
自分の蒔いた種はすべて刈り取らなくてはいけない
自分の蒔いた種はすべて・・
私的には映画として、ヴィム・ヴェンダースの作品の中では
中くらいの出来ではないかと思いました(笑)
ちなみにダントツの1位は「バリ・テキサス」
次に「ベルリン・天使の詩」、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」です
主人公の平山(役所広司)は、早朝に道を掃く箒の音で目を覚ますと布団を畳み
鉢植えに霧吹きで水をやり、歯磨きと髭そり
作業着に着替えアパートを出ると自販機でBOSSのカフェオレを買い
軽バンに乗り込みカセットテープを選ぶ
カーステレオから流れてくる洋楽を聞きながら渋谷区にある公衆トイレに到着
ゴミを(まさかの素手で 笑)拾い、清掃作業
終ると次の公衆トイレへ
昼はコンビニのサンドイッチを神社で食べ、フィルムカメラで写真を撮る
隣のベンチにはいつものOLがランチ
あちこちで見かける変な踊りのホームレス(田中泯)
仕事が終わると自転車に乗って銭湯へ
風呂上がりに脱衣所で相撲を見る
帰りに浅草の地下街にある居酒屋に寄ってプロ野球を見る
夜は文庫本を読んで就寝
そして翌朝、同じ箒の音で目を覚まします
休日はフィルムを現像に出し、焼きあがった写真を受け取る
コインランドリーに行き、古本屋で文庫本を1冊買う
いつもの居酒屋ではなく小料理屋に行くと
平山のことをインテリと呼び、お気に入りらしいママ(石川さゆり)は
お通しを少しサービスをしてくれる
毎日、毎週、同じルーティン
何気ない日常こそ平山の完璧な一日
そこに自分では望まなくても、予期せぬ小さな事件が起こるというもの
プロットはジム・ジャームッシュの「パターソン」とほぼ同じ(笑)
まあ、だいたいヴィム・ヴェンダースが好きな人は
ジム・ジャームッシュやアキ・カウリスマキも好きですよね(笑)
その小さな事件というのが
ガールズ・バーのアヤ(アオイヤマダ)と
深い仲になりたいけど金がないという同僚のタカシ(柄本時生)に
カセットテープを売られたくなくて渋々お金を渡してしまったり
カセットテープを返しに来たアヤから思わずホッペにキスされ
銭湯でお湯に沈まり「まんざらでもない」顔を隠してみたり
姪っ子のニコ(中野有紗)が突然アパートに訪ねて来たり
ニコは平山と好みが似ているというか、共通するものを感じているようです
昔、平山から貰ったフィルムカメラを今でも大切に持っていて
家に戻ったら「ヴィクターみたいになっちゃうかも」と言います
(「太陽がいっぱい」の作者)パトリシア・ハイスミスの短編集
「11の物語」のなかにある「すっぽん」の主人公ヴィクター
11歳になる少年ヴィクターは、まるで人の話を聞かない母親に
いつまでも自分を幼児のように扱われ、自主性を圧殺されて暮らしていました
その母親がある日生きた亀を買ってきたので
ヴィクターはその亀をプレゼント(ペット)だと思い込み喜んで可愛がります
しかし母親はその亀をシチュー用の「すっぽん」だとさばいて調理してしまいます
ヴィクターは「爆発」し包丁で母親を刺し殺してしまう、というお語
平山が家族と何があったのか
結婚していたのか、子どもはいたのか
彼の過去には一切触れていません
でも彼が「やはり」刑務所にいたのだろう
ということを思わせますね
そして平山がニコに伝える
たぶんストーリーの要となる言葉
「この世界は 本当は沢山の世界がある」
「つながっているように見えても つながっていない世界がある」
「僕のいる世界は ニコのママのいる世界と違う」
「私は?私はどっちの世界にいるの?」
「・・・」
「ここ、ずっと行ったら海?」
「うん、海だ」
「行く?」
「今度ね」
「今度っていつ?」
「今度は今度」
「今度っていつ?」
「今度は今度 今は今」
「♪こんどはこんど~ いまはいま~」
それは決して「今度」はないことを意味している
運転手付きの高級車で迎えに来た母親(麻生祐未)と帰るニコ
ニコの母親が、父親がかなり弱っていて施設に入っていることを平山に伝えます
ニコの母親をやさしく抱きしめる平山
つながっているように見えても
つながっていない世界がある
最後の小さな事件は、アヤにフラれたタカシが仕事を辞めてしまい
タカシの持ち場までひとりで巡回することになってしまう平山
(あとから来た清掃員の女性は明らかにタカシより仕事が出来そう 笑)
そしていつものように飲みに行った小料理屋で
ママが男(三浦友和)と抱き合っているのを見てしまいます
「そんなんじゃない」
でもちょっぴり、もしかしたらだいぶョックで(笑)
隅田川の橋の下で、缶のハイボールを開け久々に煙草を吸ってむせる
ママの別れた亭主だというその男もやってきて
やはり何年かぶりだと煙草を吸ってむせる
末期がんだとわかり、元妻に会っておきたかったのだと男
今の奥さんと子どももいるというのに、なんという身勝手さよ
そんなことをしたら、両方の女を哀しませるということさえ分からないのか
すると平山が「二人の影が重なると濃くなるのか」疑問だと男と試そうとする
「変わりませんね」と男
「濃くなってますよ」と平山
「なんにも変わらないなんて そんなハズないじゃないですか」
「変わらないなんてそんな馬鹿な話、ないですよ」
影が重なって濃くなるって、不幸もその分濃くなるってことですか
無邪気に影踏みをするふたり
翌朝、いつもと同じルーティンを取り戻した平山は
泣き笑いの表情を浮かべながら仕事場へと向かうのでした
Someone else, someone good
You're going to reap just what you sow
人並以上に幸せになろうとか贅沢しようと思っちゃいけない
彼が誰にでも優しく、ただひたすら清掃を頑張っているのは
もしかしたら彼なりの償いのしかたなのかも知れません
【解説】映画.COMより
「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」などで知られるドイツの名匠ビム・ベンダースが、役所広司を主演に迎え、東京・渋谷を舞台にトイレの清掃員の男が送る日々の小さな揺らぎを描いたドラマ。2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で、役所が日本人俳優としては「誰も知らない」の柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を受賞した。
東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山。淡々とした同じ毎日を繰り返しているようにみえるが、彼にとって日々は常に新鮮な小さな喜びに満ちている。昔から聴き続けている音楽と、休日のたびに買う古本の文庫を読むことが楽しみであり、人生は風に揺れる木のようでもあった。そして木が好きな平山は、いつも小さなフィルムカメラを持ち歩き、自身を重ねるかのように木々の写真を撮っていた。そんなある日、思いがけない再会を果たしたことをきっかけに、彼の過去に少しずつ光が当たっていく。
東京・渋谷区内17カ所の公共トイレを、世界的な建築家やクリエイターが改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に賛同したベンダースが、東京、渋谷の街、そして同プロジェクトで改修された公共トイレを舞台に描いた。共演に新人・中野有紗のほか、田中泯、柄本時生、石川さゆり、三浦友和ら。カンヌ国際映画祭では男優賞とあわせ、キリスト教関連の団体から、人間の内面を豊かに描いた作品に贈られるエキュメニカル審査員賞も受賞。また、第96回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされた。
2023年製作/124分/G/日本