「なぜ人を殺す?
あんたは本当に殺したい人間を殺していないね
私は本当に殺したい人間を殺したから悔いはないよ」
実際の事件を題材にした佐木隆三の同名長編小説の映画化
「復讐するは我にあり」とは新約聖書(ローマ人への書第12章第19節)
「主いい給う。復讐するは我にあり、我これを報いん」からの引用で
ひどい行為をした者は自ら犯した罪により
いずれ神によって裁かれるという意味
タバコ集金の現金輸送車が襲われ
現金41万円余が奪われ、目撃証言などにより榎津厳(緒方拳)が
容疑者として浮かびあがります
殴り殺した後、手についた血を小便で洗い流す
首を絞めた後、失禁した被害者の股をそっと拭く
淡々とした巌の行動には、何の動揺も窺えません
そして宇高連絡船の甲板に靴と、幸子と両親宛ての遺書が見つかり
戦時中、軍に船を供出するように命令され
網元をしていた父親が軍人によって、神ではなく
天皇陛下への忠誠を誓わされる場面を目撃してしまいます
それはまだ幼かった巌にとって、神への裏切りでした
にも関わらず父は、その後も敬虔な信者として生活しました
神に嘘をつきながら神を信じる父親を憎むようになる巌
16歳から詐欺、窃盗を繰り返し少年刑務所へ
その後も犯罪と服役を繰り返し
アメリカ軍の軍服を着て米兵の真似をする
その間に加津子と結婚
巌は出所する度に、そんな父と加津子との仲を疑います
やがて浜松に現われた浜松に現われた巌は
そんな母娘さえ巌は絞め殺し
わずかな金のために、理由のない殺人を繰り返す
だけど、女にモテる、恐ろしいほどに
それは大学教授、弁護士など社会的ステータスの高い人物に
女性が弱いということを知っているからでしょうし
不幸な生い立ちだったり、苦労している女に近づき
言葉巧みに同情するようなそぶりを見せるからです
その同情を、愛だと感じてしまう
嘘かも知れないと
危険かも知れないと分かっていながら
離れられないばかな女
父親を、神を、冒涜する行為を続けることが、巌の生きる理由
だけれど、結局父親に敵わなかった
巌の骨片を骨壺から空に向って投げつけます
ふたりはこのあと結ばれる、そんな気がします
禁断の果実ほど甘美なものはないのだから
今村昌平監督が独自の徹底した取材を重ね
実際に起こった犯行現場で、ドキュメンタリー・タッチに撮影
犯罪心理の不条理さを浮き彫りにして
主人公の人間性に説得力を持たせたということ
詐欺と殺人と性欲で堕ちていく男を描き切った
犯罪映画の傑作のひとつでしょう
佐木隆三の同名ノンフィクションを、「神々の深き欲望」の今村昌平監督が映画化。5人を殺害し全国を逃走した男の、犯罪を積み重ねた生い立ち、数々の女性遍歴と父との相克を描く。日豊本線築橋駅近くで専売公社のタバコ集金に回っていた柴田種次郎、馬場大八の惨殺死体が発見され、現金41万円余が奪われていた。やがて、かつてタバコ配給に従事した運転手・榎津厳が容疑者として浮かんだ……。